アラタとヨウミの補強計画編

何するにせよ、必要なのは時間と力 その1

 その通信は、礼儀知らずの新人どもと礼儀を弁えた新人どもの見極めをしてる最中にきた。

 通話機を見たら、シアンからの発信。

 うむ、無視に限る。


「アラタさん、さっきから通話機鳴ってるよね」

「気にするな。持ち主である俺が気にしてないから」


 しばらく放置すると通信音が切れた。

 そしてまた音が鳴る。

 流石の礼儀知らず共も「受信したら?」と言い出す始末。

 ここで通信を繋げてみろよ。

 こいつらの言う通りに従う大人の図のできあがりじゃねぇか。

 何で子供の言うことを聞かなきゃなんねぇんだよ。

 ……着信拒否の仕方、分かんねぇな。

 通信音を消す方法も分かんねぇ。

 んー……どこを弄れば……あ。


『やぁアラタ、ようやく出てくれたね』


 ……触るところ間違えた。

 通話んとこ、押しちまった。


『アラタに用事がある。ヨウミと一緒にね。いつもそこにいるよね? 今からそっちに行くから待っててくれ』


 決め付けんじゃねぇよ。

 ほかにも俺は友人が少ない、とかよ。

 ……間違っちゃいねぇけどよ。

 いや、友人は、怪しげな奴には近寄ってほしくねぇだけだ。

 結果として、少ないだけだ。

 ……事実はともかくも、言い方!


『答えは聞くまでもないか。もう村に入ったからね。じゃ、すぐあとで』


 切られた。

 決め付けられて一方的に通話を切られた。

 そこまでのレベルじゃねぇが、キレたくなるのはこっちだわ。


「アラタ、誰だったの?」

「何度も通話させて、失礼なんじゃないの?」


 馴れ馴れしいんだよお前らはっ。

 失礼はむしろお前らだっれ


「って、あれ?」

「えっと……ひょっとして」

「あの鎧、国王の親衛隊のだよ?」

「え? てことは……?」


 歩きながら通話してきたな?

 歩きスマホは危ねぇだろうが!

 ……スマホじゃねぇだろうけどな。


「やぁ、アラタ。来たよ」


 来たよじゃねぇよ。

 新人どもが怯えてんじゃねぇか。


「来たとか来るとかじゃねぇ。それは押し掛けっつーんだ。何の用だよ。俺はこれから大事な、大事な大事な用事が控えてんだよ」


 新人どもの中には足腰、全身を振るわせてる奴もいる。

 奴らの心中は多分こうだ。

 国王陛下になんて口を利いてんだ、ってな。


「へぇ。どんな大事な用か聞いてもいいかな?」

「昼寝。転寝。それ以上に大事な用はない」

「あはは。相変わらずアラタは面白いな」


 大笑いする国王。

 苦笑いの親衛隊。

 それを見てさらに青くなる新人ども。

 いつも口答えして、いつも不敬な事ばかり言ってる奴らがこんな風になってるのは、見てる分には飽きることはないな。

 ま、こいつらにはいい薬だが、シアンには……。


「なんだ? 面白くなきゃ俺が存在する意味がないと? 何、問題ない。お前がここに来なきゃいいだけだ」

「それは、こちらが問題大ありだ。君が殊勝な気持ちになったとしても、私は君の良き親友であり続ける自信はあるよ」

「いや、頼んだ覚えはねぇから」


 もはや新人どもは冷や汗まで流してる。

 ガマの油かよ。

 けどお前らはガマ以下だ。

 なんせその冷や汗には、何の薬の成分もありゃしねぇ。


「ほらほら、アラタがあまりに冷たい反応するから、この子達がこんなに怯えてるじゃないか。ひどいものだ」

「いや、原因お前だから。一国の王が親衛隊と一緒に唐突にこんな辺鄙なところに来るなんて、誰が予想できるかっての」


 分かってて言ってやがる。

 それを、天然と思われるようとしているフシがある。

 まったく、芝居がかってるっつーかなんつーか……。


「で、君たち。申し訳ないが席を外してくれないか? 私はこの人と大切なお話しがあるんだ」


 打合せでもしたかのように「はいっ! 陛下っ!」と同時に新人どもは返事をして、全員一緒にダンジョンに向かった。

 これくらい大人しく言うことを聞いてくれれば、あいつらも少しは可愛げがあるというのに。

 ……いや、それだけじゃ、まだないな。ない。うん。


「で、通話で言った通り、ヨウミと二人にだけ用があるんだ。呼んでくれないか?」

「お前、自分で行って来いよ」

「店の前が大騒ぎになるんじゃないかな? それでもいいか?」


 よくねぇよ。

 ちっ。

 ……超有名人と知り合いになるメリットがどこにもねぇんだよな。

 悪い虫がいなくなってさっぱりするが、知名度を高くしたい奴なんかは寄り付きたがる。

 悪気なくやってくる奴は、後者の方が多い。

 だから追い払うのも割と面倒になるんだよなぁ……。


「おい、ヨウミ」

「ん? 何? お客さん捌き切ったから、力仕事の手伝いじゃなきゃ話聞くよ?」


 力仕事の用事かもしれん。

 そうでないとは言い切れねぇしな。

 まぁあれこれ考えるのも面倒だ。


「シアンがベンチのとこに来てる。俺とお前だけに用事があるらしい」

「え? 来てるの? 水臭い。こっちに顔出せばいいのに」

「お忍びなんだろ。全然お忍んでねぇけどよ」


 さて、一体何のようなのやら、だ。

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