仕事なら、米の選別以外はしたくねぇんだが その5
「私も知ってます。ガンジュウ種のうんこって、いい肥料になるらしいんですよね」
まさかのイールからの発言。
珍しい種族の魔物なのに、ヨウミばかりじゃなく、なんでイールまで知ってんだ?
つか、見た目麗しい顔のにこやかな表情でうんこゆーな。
「普通の動物とか魔物のうんことは違って匂いはないし、形状、硬さ、色その他もろもろ、一見じゃ岩っぽいっていうか、鉱物っぽいらしいのよ。私はうんこは見たことないんですけど、ちょっと興味がありまして、聞こえてくる噂を集めるとそんな感じらしいです」
だからうんこゆーな。
けど……衛生面でも問題ない、か?
触っても問題ない……ウンコネタから離れられそうだな。
でもウンコ何個かが五万で売れる?
何それ。
ポロイ商売じゃん。
「……商売、鞍替えしようかな」
「バカなこと言ってんじゃないの。あたしだってそんな話は聞いたことあるけど、ガンジュウの糞で大金持ちになったって話聞いたことないわよ? 見極めが難しいってことと、個体数自体少ないから見つけるのは難しいのよ。だから同じ大きさや重さでなら鉱物見つける方がよほど楽よ?」
「そ、そうです……。けど私の場合、鉱山とかには行けませんから……危険な場所が多くて……」
それでよく、そんな一般人がそんなものを見つけられたな。
「キラキラ下宝石っぽいのが一部にくっついてたので、高価な物かもって拾ったら……」
大当たりか。
しかし……。
「何で糞が五万円何て高い金額で引き取ってもらえるんだ?」
「通常の状態では石みたいに硬いんですけど、地中に埋めると土と同じくらい一気に柔らかくなって……」
「養分の濃度も高く、そこから生えて実る野菜や果物にも回るんです。だから同じ種類でも、栄養価が高くて美味なんですよ」
普通の肥料とは比べ物にならねぇってことなのか。
なるほどな。
「え、えっと、それ、どこにあったんですか?」
手伝いに来た子供の一人の質問。
二匹目のドジョウとやらを狙ってるのか?
まぁ……俺も興味はあるな。
米よりうんこ……。
いやいや、うんこで儲かったって話、どう聞いたって気分のいいもんじゃねぇだろ。
いや、儲けたもん勝ちか?
うーむ……。
「私が住んでるラッカル村の外れで……」
「ラッカル村?!」
大声を出したのはイールだった。
目を見開いてリースナーを見ている。
何をそんなに驚いているのか。
「私の……死んだ彼の生まれ故郷なんです」
「え?」
……なんとまぁ。
世界は広いが世間は狭い。
「何だよ、じゃあイールはこの母子とは知り合い?」
「あ、初めてお会いしますよ? 彼……モーガン=バレーと一緒に、彼の里帰りを何度かしたことが」
「え? えっと……主人からその名前の子のことは聞いたことが……。あ、でもイールさんの名前は初めて聞きました」
まじかよ。
つか、何もここでそんな繋がりが判明しなくてもなぁ。
つか、何でここでそんなことが判明するんだっての!
ここじゃなくたっていいだろうが!
「ガンジュウ種に興味を持ったのは、そういうこともあったので……」
「そういうこと?」
「えぇ。彼が時々、俺も卵を見つけられたら今頃億万長者になれたのに、って……。もちろん冗談ですけどね」
卵は確か、糞とは比較にならないほどの価格がつくって話じゃなかったか?
「でも……」
「そう。でも、なんです」
みんな、リースナーとイールの会話を聞く一方だった。
けど、何となく二人の顔が不安げだ。
「ガンジュウ種は、うんこする場所と産卵する場所は別、という話がありまして」
だからうんこを連発すんじゃねぇよ。年頃の女性が。
「わ、私も聞いたことがあります……。けど拾った時は、そんな珍しい種の魔物がこの村に来ることがあるだなんて、根も葉もない噂としか思ってませんでした」
そしたらガンジュウの糞だと。
そんときゃ分からんかったろうが、結果として五万円を拾ったってことだよな。
「要するに、糞をする場所っつったらトイレ代わりと言ってもいいわけだ。産卵場所っつーと出産も同然だから、巣ってことでいいよな? 巣とトイレが別?」
「えぇ。誰かが村の外れで卵を拾ったって話は事実のようで」
「村の外は湖と崖に囲まれてて、外れというと、村の南方面一か所だけなんです」
あれ?
何かおかしくね?
どういうこと?
その、イールの彼氏のモーガンとやらは、卵を拾ったって話を聞いて、億万長者狙えたかもしれないっつってんだよな?
そしてこのおっかさんは、拾ったのは糞、と。
……矛盾してるな。
卵を拾った場所では、糞は落ちるはずがないってことだよな。
糞を拾った場所で、卵を見つけることはできない、と。
「……卵と思ったら、糞だった。もしくは……」
「卵だと思ったら、うんこだった、ってことですよね」
だからうんこうんこ連発すんなっ。
待て。
これ……って……。
「アラタ、ちょっとこれ、聞き逃せないよ? 子供が大人になるまで養えるくらいの金額を得るはずだった。卵にはそれくらいの価値がある。けど……」
「ああ。……安く買い叩かれた。それでも貧乏暮らしの二人にとっては、五桁の金額は大金のうちに入る」
……社会的弱者から利益や利益になりそうな物を奪い、私腹を肥やす。
卵を五百万としようか。糞は五万円。
百分の一の差額。
しかしこの場合、割合で考えるべきじゃねぇ。
四百九十五万の差額。
判明した時点で、俺なら抗議に行く。
だがこの母子は……抗議に行く気力もないか……。
誰かに手伝ってもらおうとしたら、手伝ってくれる奴から足元見られだろうしな。
しかし……。
もちろんこの母子、金持ちになろうとか、レアモンスターハンターになろうとか、そんな志を持ってるわけじゃねぇ。
ただ、ほんの少し、生活に余裕が生まれる金を手にしたいだけなんだろうよ。
その差額を取り返したい、とか、拾った物体を取り戻したい、とか、そんな見苦しいことを言わねぇから、尚更見てて切ない気持ちが解消されねぇ。
そればかりか、まともな生活に戻りたい、なんてことも言わねぇ。
言う義理がない、筋合いもない。と思ってるのかもしれねぇし、そこまで頭が回らないだけかもしれねぇが……。
……なんとも釈然としない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます