アラタの、新たな事業? ようやくのんびりできると思うんだが、できそうにないのは気のせいか?

 次の日、手伝いを連れて来た親衛隊が、何やら施設の人がお詫びしたいっつー伝言を持ってきた。

 いらねぇよ。

 余計な人間関係作りたかぁねぇし、俺がこいつらの面倒を看る役目、なんて押し付けられたくはねぇし。

 目的とか要望の意思疎通はそれなりに難しくなるが、それでも一方的に面倒事を押し付けられるよりゃあマシだ。

 で、手伝いに来る連中は、一日欠かさずやってくる奴だったり、やる気のある奴やる気のない奴、今日初めて見る顔もいる。

 が、昨日のような、反抗心一杯の奴はいなかった。

 まぁ、言われたことはしようとする意思は見えたから、心構えがどうだの面構えがどうだの、細かいこたぁ言う気はねぇよ。

 もちろん昨日途中で帰ったあのガキも、今後どう過ごすかなんてことも興味はねぇ。

 それよりも……。


「あ゛―っ! もうっ!」

「どしたのよ、アラタ」


 それから二、三日経った後の晩飯の時間。

 確かに俺の仕事は米の選別だけになり、負担はかなり楽になった。

 けど、それ以外の時間はのんびりできるかってーと、とんでもない。

 ストレス溜まりまくってやがった。

 手離しで思いっきりくしゃみをぶちかますガキがいる。

 仕事に慣れてくると、よだれを飛ばしながらお喋りを始めるガキがいる。

 売り物にそんな物を飛ばされたら、俺が気になって商売にならねぇんだよ!


「そりゃ、言うことをなかなか聞かない子供達なら仕方ないじゃない。あたしの方も、いきなりややこしいことを考えさせられて目を回す子供もいるんだから」

「温泉の方はあ、どうなんだあ?」

「温泉は支払いもねぇし、ただ客数をカウントするだけだから、大人の誰かをリーダーにすりゃ特に問題はねぇさ。石鹸だのタオルだのは客持参だからな」

「でもなんだかんだ言って、二週間過ぎましたもんね。仕事の要領を得た子もいるんじゃないんですか?」

「いなくはねぇけどな。けどそれ以上にバッチいことしやがる回数も多くてよお」


 子供だからねぇ、というマッキーの言葉に一同頷く。

 俺が求めるのは、俺への同情じゃねぇよ。


「いつになったら俺の仕事は楽になってくれるんだっての!」

「何よ、アラタ。怠けたいの?」


 もうコーティからの冷たい視線は慣れちまったよ。

 そうじゃねぇよ。


「作業の手順、工程は教えなきゃなんねぇだろ。でもそれ以外は自主性に任せられるようになったらってこった。何度も言うが、ここでの仕事は定職に就くための踏み台になってもらわにゃ困る。でねぇと、ここでみんなを養わなきゃなりかねないからな」

「流石にそれは無理よね。店の儲けも限度があるし」

「集団戦の儲けをそっちに向けたら?」


 それも前に言っただろ。

 忘れたか?

 鳥頭ってのはよく聞く言葉だが、馬頭ってあるのかな。

 馬頭観音とやらはあった気がするが……。

 って、そうじゃなくて。


「そっちの儲けは、初級冒険者に還元するって話したろうが。お前らは、冒険者相手に命の危機どころか大怪我もしない。医療費もかからねぇけど、だからといって無給ってわけにもいかねぇだろ」

「まぁ……装備品とか消耗品とかは買い物は必要だしね」

「デモ……ソレデドウスルノ?」

「将来どうするのか決めてねぇと、こんなはずじゃねぇって頭掻きむしり続けんだろ? アラタのあんちゃんはどうしたいん? 決めてんの?」


 計画表なんか作っちゃいねぇよ。

 ただ、こうなったらいいなぁ、とぼんやりとしか考えてねぇなぁ。


「……そうだな……。あいつらが、誰からも監視されずに仕事できるようになってもらえりゃ一番いいんだがなあ」

「監視されずに……って……」

「今、そして次にどんな仕事をしなきゃいけないのか、ってのを自分で判断して決めるようになれたら、やり方を覚えりゃどんな仕事にでも就くことができるんじゃねぇか?」


 そう。

 頭ごなしに、お前はこれしかできない、お前はこの仕事があってる、だなんて決め付けたくはない。

 その先にあるのは、将来性や可能性の削除しかない。

 狭められた未来に明るさはないとは思う。

 俺がそうだったからな。


「それができりゃあ、何かの人材を探してる奴がいたら、あいつらを普通に推薦できる。あいつらの自立につながるってこったよ」

「漠然とした計画ね。具体的にはどうすんの?」

「具体的にって……。……あれ?」

「何よ」

「そこまで考えてやらなきゃダメなのか?」


 俺達がしなきゃならないこと、じゃないような気がするが。


「楽したいんじゃなかったの?」

「あ、あぁ」


 そうだった。

 つか、別に左団扇の生活をしたいとは思っちゃいないが……。


「でもヨウミ、包括的って言うの? 何かそんな仕組みのがないと、今後同じような相談を次から次へと持ち掛けられない? アラタも、そういうのが面倒だから、そんな仕組みを考えればその仕組みに丸投げできるって踏んだんじゃないの?」


 あ、あぁ、そうだった。

 マッキー、助かるわ。

 いろいろ考えごとがあったから、思考があっち行ったりこっち行ったりでややこしくなっちまってたな。

 この話を受けてから考えちゃあいたが……。


「俺が選んだ米をあいつらが販売する。儲けはあいつらに任せる。そんな店をこの国のあちこちで作る……ってのはどうだ?」


 一帯が静まり返る。

 フィールド中に夜の闇と一緒に、静かさが包み込んでるような気がした。


「……儲けは少ねえと思うぜ? だからまともな職に就くことを考えながら、その仕事もする。こっちには金銭の問題は起こらねぇ。それぞれの店で起きた問題は、それぞれに任せる。俺のおにぎりはこの国の各地にいる冒険者達も望んでいる、だそうだ。その要望にも応えられる。ここの店もあいつらに任せるが、この店に限っては儲けは俺らのもんってなる。でなきゃ俺に収入はなくなっちまうからな。……どうだ?」


 誰も何も言わない。

 異議なし、文句なし、と解釈していいのか?


「あたし達の活動に、何か余計な仕事増えるようなことはないわよね?」

「とげとげしい言い方すんな、コーティ。……米運びにはテンちゃんとライムに手伝ってもらっちゃいたが、それもあいつらの手でやってもらうことにするから、みんなは集団戦の訓練に集中できるはずだ。あと温泉も入り放題な」


 温泉はネタのつもりだったしそれに反応したわけでもないだろうが、即座にサミーが両腕を同時に地面に何度も叩きつけた。

 いずれにせよ、これは文句なし、だよな。


「オレモ、ソレデイイ」

「だな。俺もかまわねぇぞ」


 満場一致で賛成か。

 となると、だ。


「全国各地にお店を出すってことですよね? 名前とかどうするんです?」

「おにぎりの店どこそこ支店、ってなぁまずいな。全店に俺が関わってるように見えるよな」


 そんな面倒くせぇこと、したかぁねぇし。


「アラタの米のおにぎりの店、でいいんじゃない?」

「それだけだとダメだよ、ヨウミ。名前だけならマネされちゃうよ? そうだなぁ……番号付けたらいいんじゃない? いくつ店があるかってのは、アラタが把握すればいいから、誰かが番号見越してつけてもいつかは必ず同じ数字が出ちゃうでしょ?」

「……その案、採用だな、テンちゃん」

「え? ホント? やっほーい!」


 テンちゃんもいいアイデア出すじゃねぇか。

 この天馬に馬鹿が外れちゃいそうだな。

 馬で始まって馬で終わる言葉、面白かったんだがなぁ。

 みんなも軽く拍手をしてる。

 からかい半分、本気半分って感じだな。

 テンちゃんもまんざらじゃねぇようだし。


「ところでアラタのあんちゃんよ、どこに出すんでぇ? のべつ幕なしってんじゃねぇだろうよ?」

「そりゃもちろん決まってる。この店は、いつでも社会的弱者の応援団だ」

「あー……でもさぁ」

「ん? 何だよ、マッキー」

「いや、支店作るって話はさぁ、あの子達がきちんと仕事できるようになったらって話よね? 大人達だけなら何とかなるかもしれないけどさ」


 なんだよ。

 結局、話は振出しに戻る、かよお……。


 ※※※※※ ※※※※※

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 ※ ※

 ※


「それでもこうして、かなりの支店ができちゃってますからねぇ。アラタさんのご苦労、お察ししますよ。だけど……なあるほどねー。それで、そんなに強くない魔物が出てくる場所にお店があるんですねー。一号店はここ、サキワ村でアラタさんの経営店。支店は十一号店まで一気に作ってそれぞれで経営を任せるかたちでしたね。アラタさんが関わるのは番号振り分けることだけ。そのお話し合いをして一か月後に開店。で……そろそろ一年経ちますか。最近できたお店はおとといでしたね。確か、アラタの米のおにぎりの店二十三号店、だったかな? ……って、取材受けてる途中で何寝てるんですかっ!」

「ん……、あぁ?」


 確かレワーとか言ったか?

 随分前だが、こいつに取材受けたその後の記事が、俺との受け答えが全く掲載されてなかったもんよぉ……。

 どうせまた無駄な時間過ごすのかと思ったら……。


「俺の仕事終わったら、あとは寝るしかすることねぇもん」

「あたしの取材くらい真面目に受けてくださいよぉ!」


 家族を失って施設の世話になってる奴の面倒を、つきっきりで見る必要がなくなった。

 俺の目論見通り、俺の仕事は減って米の選別のみになったもんだから、もう楽で楽で。

 その分俺への手当ては当然減るが、あいつらを食わせて一緒に生活できるんなら何の文句もねぇよ。

 物心ついてから今まで、ある意味気が休まる暇がなかった。

 その分ようやく気楽な時間を取り戻せたって感じだよなぁ……。


「アラター。寝てる暇あるなら、こっちの仕事手伝って―」

「よ、ヨウミさん、こっちの取材、まだ終わってないので……」

「じゃあレワーさん、体験取材してみません?」

「あ、それも面白そうですねぇ。アラタさん、一緒にやりましょう!」

「体験取材を、店の責任者の俺が一緒にやるって……なんなんだよ、それ!」


 こいつらの生活の面倒見てるつもりなんだが……。

 時間に隙間ができたら、すぐにこいつらにこき使われる毎日、と思えなくもない。

 まぁ……あれだけ人生詰みそうになる経験を何度も踏んだら……大概の事、大したこっちゃねぇって思えるんだよなぁ。

 そんなんで簡単に死にゃしない、ってな。

 ……いろんな意味で面倒くせぇ体質になったもんだよ、ホント。

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