アラタの、新たな事業? その2

 息も絶え絶えで走ってやって来たミアーノ。

 何やら叫びながら慌ててやって来た。

 その気配から、誰かの命に危険が迫ってるって感じではないが……。

 いや、危険が迫ってるってのは間違っちゃいないのか?


「な、何とか食い止めちゃいるが、ど、どうすべぇか?! 村に避難呼びかけた方がいいか?!」


 いきなり何を言い出すのやら。

 つか、こいつだって地中を潜って最短距離でここに来れるはずなのに。

 なんでわざわざ走ってきた?


「あー……落ち着け。一体何があった?」

「す……すまん……アラタ……」

「いや、だから、謝るよりも事態の把握をだな」

「水脈に当たっちまった」

「はい?」


 手短な説明を聞いた。

 今までと変わりなく、地中でうようよ動いてたらしい。

 が、縦方向にはあまり移動することはないんだそうだ。

 が、岩盤につき当り、そこで引き返せばよかったものを、縦方向に動いたんだそうだ。

 そしたらその言う通り、水脈に当たった。


「ンーゴのあのでかい体だろ? 水路もそれくらい太くてよ……」

「……まさか洪水が起きるとか?」

「深くて広いダムめいたもんこしらえて、水が溢れるのを抑えちゃいるが……」

「……それを広げるしかねぇんじゃねぇの? それが無理ならそこから別の水路を作って、他の所に同じような……深くてどでかいくぼみを作って、そこに流し込む。狭い水路を作って川に合流させる。なるべく緩い水流でな」

「あ、そ、そうか。そういうこともやれるか」


 ミアーノは来た道を向いて駆け出した。


「おいこらちょっと待て! 場所はどこだよ! 案内しろよ!」

「お、おぉ、悪ぃ。こっちだ」

「アラタ。せっかくだ。何か力になれることがあるかもしれん。私も同行しよう」


 いいのかよ。

 王様になっちまったお前に、そんな時間の余裕あるんか?


「今後の予定、分刻みであるんじゃねぇの?」

「問題ない。気にするな」


 グダグダ会話してる場合じゃねぇか。

 付いて来たいなら好きにしな。


 ※※※※※ ※※※※※


 進む道は山道を上に向かう方向。

 進むにつれ、何か気温が上がってるような気がする。

 いくら俺に体力がないっつっても、へばってはないのに体が熱く感じるってことはあまりなかったからな。


「ちょっと……熱くない?」

「キオン、タシカニタカイ」


 テンちゃんも、ライムも同じ感覚のようだ。


「モ、モーナーさん? 大丈夫ですか?」

「ち、ちょっとぉ……つらいかなぁ……」

「ミィ……」


 体が極端にでかいモーナーと、逆に小さいサミーがやばそうだ。

 それにしても、親衛隊の面々は意外と平気そうだ。

 意外にも、シアンもまだ大丈夫のようだが……。


「しょうがないわね。ほら、寒冷の魔法かけとくわよ?」

「ありがとございます、コーティさん……」

「少しは……楽になったわね。ヨウミ、大丈夫?」

「うん、あたしも楽になった。ありがと、マッキー。それとコーティ」


 同じ小さい体のコーティは魔力で抵抗しているようだ。

 そのおこぼれを有り難く頂戴する。


「あ……あたしがみんなを背に乗せて、飛んでいけばよかったかな?」

「気温が高いなら……相当高くないと気温下がらねぇんじゃねえか?」


 変に高いところを飛んで、のぼせて落下なんて目には遭いたくはない。

 つか、その原因はひょっとして……。


「おい、ミアーノ。その洪水騒ぎが原因なんじゃねぇの? これ」

「多分そうや。ほれ、あそこ」


 上り坂の山道は、一旦平らな場所に辿り着きそうだ。

 その平地に見える場所には、なんか先がつぼんでいるような地形がある。

 それが妙に不自然だ。

 もっとも下から見える地形だから、全貌はどうなってるか分からない。

 しかし、下からでも確認できるものはある。


「何か……湯気みたいなの出てるよね?」


 ヨウミの言う通り、白い蒸気が漂っている。


「ただの湯気、なのかな?」


 マッキーの疑問にみんながぎくりとする。


「へ? ただの湯気……だと思うんやが? ……ひょっとして……なんか毒でも入っとんか?」


 ミアーノが怯えている。

 洪水の事ばかりしか頭になかったろうから、予想外のマッキーの指摘には、そりゃ驚くよな。

 だが問題ない。


「毒素は……多分問題ない。ないんだが……」

「何よ、問題あるの?」

「いや、そーゆー……。とりあえず、接近しても問題はない。行ってみるか」


 移動時間は二十分以上はかかったか。

 上り坂も、決して急じゃない。

 魔物の気配もなく、冒険者達の活動の場とするなら、アイテム探しくらいなものか。

 つまり、魔物などによる危険はまったくない。

 ってことは……。


「ついたーっ! ってこれ、何?」


 かなり広いはずの平地。

 なのに、その半分以上は、まるで人工的につくられた、ちょっとした火山の噴火口めいた形。

 もちろんそんなに高くない。

 が、その直径はかなり広い。

 そしてそこから立ち上る湯気。

 これって……ひょっとして……。


「ちょっと見てみる。お前らはそこにいろよ?」

「アラタ、ここから登れるようにしといたわ」

「するとこのすり鉢の逆の形っぽいこれは……」

「あぁ。俺とンーゴで何とかこしらえたもんだけんども」


 そのてっぺんに到着。

 そこで感じた気配と光景は……。

 はっきり言おう。


「……温泉じゃねぇの? これ」


 温泉。

 と言えば、ほっと安心してしまうようなイメージだが……。


「水面、上昇してないか?」

「せや。だからどないしよて」


 ここから溢れたら、店の方に流れてドーセンの店に直撃。

 もちろん急流がすぐにできるような感じじゃない。


「……理想を言うぞ? 地中に水路を作る。その先を、俺らのいつも飯を食うフィールドにする。フィールドの一部に、周囲を高くした、水圧に負けないこんな壁を作る。つまりフィールドをすり鉢状の穴を掘るって感じだ。水量がそれでも増えるかどうかが問題だが」

「水路の角度、下へは穏やかにすりゃ何とかなるかもしれん」

「あとは……村とは反対方向に、下へ急角度の水路を作れば、村の被害は減る」


 だが、この向こうには、魚竜だのなんだのと、ヤバい魔物の種族がうようよしてるだろ。

 住処を水浸しにされて、激怒してこっちに襲ってくるってのは避けたいが。


「あー、その手があったんか。土の質が、水が中に染みていく感じのもんやから、大丈夫やと思う」

「ところでンーゴは?」

「どうとでもすぐに動けるように、地中におるわ」

「これも……まぁ貯水池だわな。底はどこまである?」

「平地からここまでの高さとおんなじくらいやな。その底までおんなじくらいの割合で広げたわ」


 なら……土木工事の知識も知恵も経験も全くないんだが……。


「掘り当てた水脈だけじゃなく、その支流とか他の水脈とぶつからねぇように水路作れるか?」

「お、おぅ。用心して進みゃそれくらいなら……」

「地中の仕事なら、お前ら二人だけが頼りだからな。落ち着いて頼むぜ?」

「わ、分かった。早速、慎重に仕事に取り掛かるわ」

「できれば、こっち側に水路引いてくれな? 山の向こうで水害が起きるのをなるべく避けたいからな」

「りょ、了解や」


 ……ちょいと冷静さを欠いてたか?

 まぁ……上手く事が進んでくれりゃいいんだが。

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