仲間達の新たな活動 でもこれで、雛は立派に巣立って行けるはず
お祝い金については、新人の連中が連れられてきた時から本当にいろいろと考えた。
仕事に取り掛かるための資金不足から、その仕事を見つけること自体至難の業。
あったとしても、仕事を請け負う倍率が高い。
そんな苦しい環境の中、お祝い金でその資金が潤い、仕事を見つけやすくなれば一人立ちも早まり、経験も早い段階でたくさん積める。
とは言え、そのお祝い金が高くなりすぎても問題が起こる。
例えば料金が一万円でお祝い金が三万円なら、逆に集団戦の訓練が儲け話になっちまう。
主旨が変わって本業に励む妨げになることは間違いない。
「そんなに難しく考えなくていいんじゃない?」
「どういうことだ?」
「まとまったお金が手に入ったら、高めの装備品とか買い替えるってのが分かってるんなら、こっちで用意すればいいんじゃないの? そうすればお祝い金だって少額でいいじゃない」
なるほどなヨウミの案に助けられた。
訓練を受ける時に彼らが身につけている装備品は、例外なく劣悪品。
それがここまで傷をつけられる前の状態よりもややグレードアップしている新品を用意する。
もちろんサイズは、現状の彼らの体に合う物にして。
いい物を揃えようと思えば、そりゃもう際限がないしな。
それだと、お祝い金もさらに減らしてもいい。
減らすということは、新人にとっての財テクになり得ないから、真っ当な冒険者になれるだろう。
それに、必要なアイテムを買い揃える必要もあるはずだ。
それには十分に足りる金額をお祝い金とすれば問題ない。
若いうちの苦労は買ってでもしろ、などと言われることはある。
賛否両論あるだろうが、苦労を切り抜ける知恵を身につけるためには、苦労しなきゃならないのは道理。
だが、不要な苦労はする必要はない。
本職とは関係のない知恵を身につけてどうしろというのか。
もっとも、力衰えて引退した後に就く仕事に必要な知恵が身に就くかもしれない。
が、今しなきゃならない苦労じゃないだろう。
ま、どのみちこのやり方で、一般人の生活を脅かす魔物の数は次第に減るだろうし、泉現象に対しても、旗手ほどではないがその魔物の減少にいくらか役には立つはずだ。
すぐにはその効果を見ることはできないが……。
その前に、即座に彼らの変化を見ることはできた。
それは、そのやり方をするようになってからの新人達の反応。
「はい、集団戦の訓練お疲れさん。まず祝い金な。お前らは五人組か。五人で分けると、かなり額が減るだろうが……」
「え? 中身……二万……五千円?」
「嘘でしょ?! ……アラタさん……こんなに……もらっていいんですか……?」
こっちからの集団戦の相手は四人。
それを新人料金で一日分だから、こいつらの支払う料金は四万円。
そして祝い金は二万五千円。
まぁその金額で、どこまで物資を補充できるかは分からんけどな。
「で……こいつで訓練後の初出勤に臨めたら、気合も入るんじゃねえか?」
「え……俺ら……全員分の……」
「新品……なの? しかも、私達の職種に合った装備……」
「しかも、少し高級な装備品だぜこれ! ゆ……夢じゃねぇよな? これ……」
もちろんその装備品は俺がドーセンに頼んで、専門の行商から買った物。
その費用は、中堅ベテランが支払う料金から出した。
中堅は一日分は、こっちが一人につき二万。
ベテラン料金は一人につき三万。
しかも、新人よりも彼らからの申し込み数が多い。
こっちの懐は決して痛まないってわけだ。
で、彼らは一瞬固まった後……。
「あ……あ゛りがと゛う゛ござい゛ま゛すうぅぅ!」
「アラタさああん!」
喜びのあまり泣くのはいいんだが。
「うぉい! 寄り付くな! 縋りつくんじゃねぇ! 鼻水くっつけんなバカヤロウ!」
新人チームの、初めての訓練終了の後は全員こんな有様だ。
クリーニング代請求されてぇのかこいつら!
※※※※※ ※※※※※
「アラタもお疲れ。みんなもお疲れ様」
「ツカレテナイヨ?」
「まだまだ頑張れますよね」
「ハードスケジュールになると思っとったら、意外とそうでもなかったんなあ。けんど、いくら魔物でも体は一つっきゃねぇから一日に何チーム相手にしたっても、一度につき一チーム相手ってのは変わらんなあ」
みんなには特に疲れは見えない。
鼻水から逃げる俺だけが疲れてた。
まぁ肉体疲労というより、精神的なもんだな。
万単位の金は俺らからしても決して低くはないが、新人らにとっちゃ滅多に見ることのない札なんだろう。
「でも装備品とかもかなりお金かかるんでしょ? あたしらは人間のお金の価値はよく分かんないけど、貯蓄に回す方がいいんじゃないの?」
「マッキーの言う通りだよ。お祝い金とか新しい道具とか買って、さらにあたし達が手当てもらったら、あとの残りはほとんどないんでしょ? アラタは肉体労働はなくて受付の仕事だけだけど、それでも新たにだって少しくらいは手当て設定したらいいじゃない」
「コーティ、アラタニシンセツ、メズラシイ」
「ンーゴ、うっさい!」
なんかグダグダなやりとりで終わったが、確かに俺とヨウミへの報酬は、集団戦の受け付けの仕事に関してはない。
確かに収入が多くなれば、俺はうれしいんだが……。
「余分なお金って、意外と不幸を呼び込むもんだぜ? 何かあった時、いざという時にも対応できる程度の必要な分さえありゃそれで十分。それ以上の財は、余計なもんまで呼び寄せちまう」
社会人時代での経験談だ。
給料日の次の日から強制的に奢らされたりな。
無駄なものは省くに限る。
所持金にしても脂肪にしても。
そんなのを気にするほど太ってるわけじゃねぇけどよ。
「まぁみんなにも、あたしも不満はないけどさ。でもアラタ、なんかこう……やせ我慢ってんじゃないんだろうけど……。少しくらい自分に甘くてもいいんじゃない? ……って思う時あるのよね」
「甘えるのは悪くはないかもしれん。けど俺、ひょっとしたら甘え始めたら甘ったれになっちまうかもしれねえしな」
自分でできることを誰かに頼る。
そんなことをしちまうようになったらまずいだろ。
忙しい奴を捕まえて、自分でもできる仕事を頼むってのは、そいつにとって迷惑この上ない。
「そりゃあ確かによくないこともあるかもしんないけどさあ。でも、困ったことがあったら頼るくらいならいいじゃない。相談事があったら乗るくらいならできるしさあ」
「テンちゃんの言う通りだあ。それにい、アラタあ、前に何回か言ったことあるよお」
何をだ。
「助けられっぱなしい、助けっぱなしはあ、助け合いじゃない、みたいなことお」
……それも、社会人時代の経験からの教訓だ。
だがな、話題が微妙にずれてねぇか?
「でもお……困ったことがあったらあ、頼るくらいならいいと思うんだあ。みんなあ、アラタに頼ってるしい」
「だから、甘えるというレベルで自制できるならな」
今まで辛い思いをした分ここでは甘やかしてくれる、なんて都合のいいことは思っちゃいない。
それどころか、今実際に辛い思いをしている新人冒険者達を何とかしてやろうって話してたんじゃなかったっけ?
ま、彼らには明るい希望が見えて来始めてるんじゃねえかな?
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