仲間達の新たな活動 3

 魔物の集団と初対面で怯えていた新人冒険者達。

 彼らを宥め、ようやく自己紹介が一通り済んだ。

 で、当然その流れは、こっちの自己紹介の番になるのだが。


「名前と種族くらいの自己紹介は普通だろうけど、能力や特徴までこいつらに伝えるのはどんなもんかな?」

「実戦となれば、正体不明の魔物相手に戦うことも多い。自己紹介は必要最低限にする方がいいんじゃねぇか?」


 引率冒険者チームの言うことも一理ある。

 が。


「秘密にしたって、手の内があからさまになりゃ覚えられるし、その経験をそのまま実戦に持ち込まれたら、予想外のトラブルが起きるんじゃね? それに手の内がバレたって、その攻撃をかわせるかどうかはまた別問題だろ。おにぎりの作り方を教えても、一発で上手に作れなかったんだぜ? ヨウミは」

「何でそこであたしが引き合いに出されるのよっ!」


 だってちょうどいい実例があったんだもん。

 まぁそんな愚痴はともかく、魔物との集団戦の経験を積ませるという目的だけだから、そんなに細かい決め事も用意することもなかろうってことで。


「じゃ、今度は俺らの方の自己紹介だな。まずは……」

「はいはい、あたしからーっ。あたしはテンちゃん」

「ライムハ、ライムダヨ」

「初めまして。私は……」

「俺はあ、モーナーだあ」


 俺の説明にかぶせて、同時にみんなが声を出す。

 互いに見合わせたあと、またも同時に声を出す。


「え、えっとぉ……」

「ミ、みなさん同時に話し始められても……」

「だ、誰から伺えばいいのやら……」

「や、やっぱり、何か……怖いんですけど……」


 まさかの自己紹介の被りまくり。

 偶然なのか故意なのか。

 でもこいつらの目を見れば何となく分かる。

 間違いなく計算ずくめだ。

 へんなとこにまでチームワークを発揮すんじゃねぇよ。

 余計な恐怖心まで与えてんじゃねぇか。


 ※※※※※ ※※※※※


「まずライムからいくか」


 俺が口火を切るのは理由がある。

 こいつらは、自分の種族名は自分が知ってる限りしか言わない。

 というより、言えない。

 より細かい種族の区分は、人間もしくは冒険者から見た種族の区分けだからな。

 それとは縁がない魔物には、その種族名は聞いたこともないケースがあるそうだ。

 縁がないという意味合いは、討伐するされるという縁ではなく、冒険者の情報の共有が必要かどうかという縁だ。

 冒険者をしている魔物もいる。

 が、それ以外の魔物には、その情報はほとんど必要なかったりする。

 だからこいつらだけの自己紹介では、新人の冒険者には情報不足。

 そこで俺からの説明で埋め合わせする、というわけだ。


「プリズムスライム。見ての通りこう……いろんなカラフルな光を纏ってるスライム。自分の特性は自分で言うように」

「ハーイ。ライムダヨー。エット、イロイロトカセルヨ。ゴハンタベルトキモ、トカシテタベルヨ。アト、マホウハツカエナイケド、タベタモノニハイッテルドクヲハイタリ、カラダヲコマカクシテ、ソレヲバクハツサセルコトモデキルヨ」

「ど、毒成分、あるんだ……」

「シャボン玉みたいに綺麗だけど……毒々しさも何となく……」

「しかも溶かすのね……」

「爆発もしちゃうのか」


 その言い方だと、ライムがしょっちゅう爆発してるように聞こえるぞ?


「アト、アラタガツクルオニギリガスキ」

「え? あ、はい」

「えーと……はい」


 みんな反応に困ってる。

 それはいらない情報だな、うん。


「次、テンちゃん。見ての通り、足が六本ある灰色の天馬だ」

「テンちゃんだよ。テンじゃないよ。テンちゃんだよ」


 うるせぇ。

 呼び名はいいから続けろよ。


「飛べるし、誰かを乗せても落とさないよ。あと……突進と蹴りと……火も吐けるよ」

「火、吐くんですか?!」

「魔法じゃないの?!」

「天馬が火を吐くなんて初めて聞いた!」


 俺もだよっ。


「テンちゃんよ、今まで火を吐いたことなんてあったか?」

「ないよ? だって、口の中やけどしたら怖いもん」


 あー……そういうことね。

 まぁ、この辺り、燃えやすい物が多いからな。

 自重してもらった方が正解だろうが、こいつぁ予想外だったな。


「あとね、アラタのおにぎりと干し草が大好物だよっ」


 いや、それはもういいから。


「んなどうでもいい情報はいらんて。で、次はマッキー。見ての通りダークエルフ。見たら縁起が悪いなんて言う奴もいるが、そんなこと言う奴ぁほっとけ。悪いこともいいことも、こいつに出会う前も後も変わらん」

「あ、あたしの番ね? 魔法は、火、水、風の魔法は扱えるよ。最も高度な部類は無理だけど」


 高度ってどんくらいだよ。


「魔法よりも弓術の方が得意ね。魔法もそれに関連したものの方が強いよ。矢は普通真っ直ぐ飛ぶもんだけど、勢いが消えない限りは魔法で上下左右自由に曲げられる」

「へえぇ!」

「そう言うのも初めて聞きました!」


 そりゃ新人だから、何もかも初めて聞く話だろうよ。


「そういうの、やれるようになりたいなぁ」


 なりたいって、弓使いいねぇじゃねぇか。


「あ、あとライムの体の細かくしたのを使って、矢が当たったら爆発するような細工したりもするよ。あと、跳弾もできるから」

「跳弾……って、硬い物に当たったら跳ね返ってってやつですよね。すげぇ」

「長身だし、スタイルいいし……うらやましいなぁ」


 新人からの評価を聞いていい気になってんだな。

 ドヤ顔で銀髪を手で流してる。

 見ててなんかムカつく。


「あぁそうだ。あとはね……アラタのおにぎりが好き」


 ……最後にそれつけるの、全員言うような気がしてきた。

 オチまでチームワークかましてんじゃねぇよ!

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