その人への思い込みを俺に押し付けるな とは言っても、知りたくても教えたくないこともある
それから数日過ぎた。
営業時間終了一時間くらい前、客が全くいない店の前。
シオンがまた来ていた。
「……叱られた」
親衛隊に、お忍びでここに来たのがバレたため、だそうだ。
「知るかよ」
「でもあの者達もお忍びでここに来てたらしいな」
「非番の時に、鍛錬目的で来てたんだと」
同じお忍びでも、あいつらは自分の任務のため、成長のため、そしていずれにせよ、それはシアンを守るために繋がっていく。
正当な理由が存在している。
だから逆に、シアンは親衛隊に何の注意もできなかったらしい。
シアンにゃ悪いが、笑わずにいられなかった。
「そんなに笑っちゃ悪いよ? シアンだって、好き好んでトラブル持ち込んできてるんじゃないんだし」
「えっと、テンちゃん? 慰めるのと蹴落とすのを同時にしないでくれるかな?」
今日は、バイトを休みにしたテンちゃんも混ざっている。
言い回しもなかなかうまくなってきたんじゃねぇか?
で、シアンの報告によると、シアンと親衛隊のここでの活動は、親衛隊は今まで通り非番の者なら問題なしとされ、シアンのお忍びについても条件付きで自由行動をとれるようにしたとか。
「アラタ達の通話機から親衛隊へ、直通の通話をできるようにする、と」
「それで単独行動の許可下りたのか? 大丈夫かよ」
「君がいてくれるからな。アラタ」
なんだよその曇りのない笑顔は。
こっち向けんなっ。
それに、俺をアテにしてんじゃねぇよ。
ま、何かあったら、できる範囲でなら助け舟出さんでもねぇけどよ。
それはそうと。
「あの女三人組はどうなった? 何かキナ臭ぇ話も湧いて出てきたっぽかったが」
「うん。それについては、今のところ問題はない」
「問題大ありだろうが。何か企んでたりしてんのか?」
「人聞きが悪いな。穏便に済ませようって工夫だよ」
物は言いようだな。
「王宮の別館のスイートルームの個室にそれぞれあてがって押し込んだ。もちろん敷地内までなら自由行動可、ということで」
「へえ?」
貴族とは言え、その階級内では貧乏暮らし。
裕福な生活を体験させていれば、変に騒ぎ立てることもない。
ましてや別館とは言え王宮の一部。
シアンとの共通点も増えていくことで、彼女達の自尊心も満たされるってことらしい。
「けど、そのうちお前と会話したいとか言い出すんじゃねぇの?」
「かもしれないね。でも物理的に無理。私もいろいろと忙しいからね。その分王宮生活を堪能してもらって、その欲求はそっちに逸らすさ」
「買い物とかどうすんだ? まぁ買い物すること自体にストレス解消する効果があるらしいが……」
「使用人のための店が並んでいるフロアもある。そこを利用してもらえば何の問題もない。建物の中が息苦しく感じたら、庭に出て散歩でも楽しんでもらえたらそれでいいし」
至れり尽くせりだな。
「彼女達の家族が、もし国家転覆なんて大それたことを考えてるようなら……彼女達に悪いが」
「人質か? その価値があるかどうかは不明だが……」
「国家権力に近づこうとするのが目的なら、現状維持でも十分効果はあるさ。彼女らがあの生活に満足してくれるなら、家族だって大人しくしてくれること間違いないだろうし」
シアンの方がよっぽど腹黒くないか?
もっとも誰に対しても平穏にって訳にはいかねぇか。
「それにしてもアラタ。君は結局、旗手ってことを彼女達に伝えなかったんだな」
「口は災いの元ともいうし、沈黙は金とも言う」
言ったら、初めから説明しなきゃならんだろうが。
この世界に来たばかりの頃ならともかく、思い出すのだって面倒だわ。
「……いろいろと面倒かけるな」
「まったくだ」
「アラタ。流石に即答はどうかと思うよ?」
マッキーにみんなが同意するが、それほどまでの間髪入れず即答した俺の反応も大したもんだ。
「はは……。これからも……助けてくれるか?」
「縋ってくるなら応えてやる。ただし無理しない範囲で、な」
こいつに限っては、安請け合いはまずいよな。
いつの間にか政治関係の仕事させられてた、なんてのはもうね。
ま、誰かに聞いてほしい話があるってんなら、聞くだけなら付き合ってやってもいいか。
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