緩衝材なんて真っ平ご免 その5
彼氏を魔物に殺された女性。
彼氏との思い出の一つが、俺の店で買ったおにぎり。
店の居所を知っておにぎりを買い、その場で食べながら昔の思い出に更けていた。
何の気まぐれか知らんが、ヨウミがそんな彼女を昼飯に誘った。
で、フィールドで俺達の車座に加わったんだが、困惑というか戸惑いというか、平常心がちょっと欠けてしまってるみたいだ。
そりゃあどんな冒険者でも……いや、冒険者だからこそ、か?
こんな風に、大勢の魔物と一緒にピクニック気分で飯を食う機会なんてほとんどないだろうからな。
とは言え、彼女の仕事は冒険者。
請け負う依頼の中には、その魔物討伐を目的とする内容もあるんじゃねぇか?
逆にこっぴどく返り討ちにされたこともあったんじゃねぇの?
冒険者達の、魔物達への感情ってのはどんなんだろうな。
俺らの店には、敵意とか恨みとか持ってる奴は来ねぇけどな。
でも、家族とか身内が殺されて死んでしまったんなら話は別だろ。
いや、別に敵討ちをけしかけたいってんじゃなくて、純粋にどう思ってるんだろうかってな。
「……仇、なんて思ったことは一度もないです」
「ちょっと、アラタ……って、え? ないの?」
「えぇ。あのドラゴンは、自分の住処にいたんです。そこに私達がやってきた。ドラゴンの体の一部が貴重なアイテムになるから持ってきてくれ、という依頼を受けて……」
なるほどな。
つまりだ。
「人里を襲いにやってきた魔物とは事情が違います。私達が侵略者ってことになりますね。あのドラゴンがしたことは、その侵略者たちを追い払った、ただそれだけなんだと思います」
理屈は分かる。
だが……。
「追い払うどころか、焼き払った……」
「ちょっとアラタ! さっきから……」
「いいんです。状況を、心境を知らない人から見れば、おかしいと思われるんじゃないか、と思ってますから」
そうは言うけどな。
いろんな魔物がいる所に連れてきて、そいつがいきなり「○○の仇ーっ!」とか、感情的にいきり出したらどうするつもりだったんだよ。
その事を思いついたのはついさっきだけどさ。
そんなことやらかしたらこいつらみんな、人間不信になったら真っ先に村人に襲い掛かるとも分からんぞ?
「ドラゴンも、私達に押し入られたわけも分からないまま追い返したんでしょうから……。後々になって思ったことなんですけどね……。なので、特に思うところはないんです。逆に、その依頼を受けなければ、今も一緒に生活してたんだろうなぁ、としか」
イールさんの話は俺とヨウミ以外じゃ、クリマーとコーティくらいしか聞いてなかった。
あとはみんな昼飯に夢中。
「ま、あたしだったら何かされたらとことんやりかえすけどね。力の限り」
その力の限りでも抗いきれなかった紅丸のあの檻は、やはり何かの効果を持つただものではない檻だったんだろうな。
コーティの力不足ってわけじゃないんだろう。
つまりだ。
こいつの好きに暴れられると、それこそ村一つなら壊滅しかねねぇ。
こないだの夜盗に処せられる罰なんて可愛いもんじゃねぇか?
「私なら……襲われたら逃げる方が早いですね。もっとも私の体の一部に高価なモノがあるなんて考えられませんけど……」
「いや、あってもなくても、クリマーさんは仲間だから、ね?」
「わ、私達だって、高価な取引をされてるからって、むやみに魔物討伐しに行ったりはしませんでしたよ?」
「え? あ、はい……」
何か、微妙な雰囲気になっちまった。
要するに、人のモノを俺のモノにしようって考えて、力足らずだから力がありそうな人に依頼するってことなんだよな。
けど、ダンジョンはアイテム拾いと鍛錬。
フィールドではそれに加えて野営の訓練を目的にする、みたいなところはあるからなあ。
そう言えば……旗手ってば、現象で現れた魔物討伐のみを目的にしてたんだよな。
俺が今までこんなことを考えたことがなかったのは、冒険者の仕事の内容を詳しく聞いたことがなかったからか。
いつも適当に聞き流してたからな……。
「……-い、おーい、アラター。アラタさん? 食べないと冷めちゃいますぞー。……イールさんも、食べよ?」
「あ、はい、いただきます。……アラタさん、どうかされました?」
「え? あ、いや……。うん、食うか……」
何となく、心のどこかに閊えができてしまった感じだ。
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