村の防衛もこいつらにかかりゃ、戦争ごっこかなぁ その7

 燃え盛っている。

 ただし、サミーの体限定で。

 魔物とは言え、生まれてまだ一年も満たない子供。

 業火って程じゃない。

 火災と呼べるような物でもない。

 せいぜい焚火だ。

 そんな狭義の火の中で、サミーは全く動く気配がない。


「サミー……」


 サミーの気配は、火の中には感じられない。

 傍にいる夜盗の一人は熱がりながらもがいている。

 サミーの功労だ。

 サミーの、最初で最後の活躍だった。

 最初、ってとこは褒めてやりたい。

 だが、最後ってのは……。

 親に見捨てられたことを自覚してないだろう。

 だからそれでショックを受けるってこともないだろう。

 けど、同じ親から育てられてる兄弟姉妹はいる。

 そいつらと比べる必要もないだろうし、肉親捜しだってすることもないだろう。

 だが、知ってるものとしちゃ、比べずにいられねぇんだよ。

 そりゃあ生きてりゃ辛いこともそりゃあるさ。

 長く生きたからって、いい思いをすることの回数が、不快に思う回数を上回る保証もない。

 けど死んだら終わりなんだよ。

 魔物なんだから、人間よりも長生きできたはず。

 終わらせたのは、私利私欲に走っておのれの利益しか目を向けず、それを追求したいがために無関係な人達に敵意を見せ、行動を起こしたこの連中だ!


「テメェら……」


 悪人を裁くような立場じゃねぇし、そんな立場に立てるような品行方正でもねぇし。

 仇を取ってくれと言われたり頼まれたりしたわけでもねぇし、私情私憤に駆られて振り上げた拳をこいつらに振り落とすことに正義はねぇって自覚もある。

 だが、このままなら、サミーが報われなさすぎだろ!


「ミッ!」


 うぉっ!

 え?

 ふくらはぎを何かで叩かれた。

 しかも一瞬だが、聞き覚えのある鳴き声も聞こえた。


「こいつ……サミー……か?」


 後ろの俺の足元には、何やら黒光りしている物体がいた。

 だがサミーは、一見猫かリスか、判断が付けられない毛並みが整った小動物という外見だ。

 大きさならほぼ同じ。

 だが似ても似つかない。

 だが……


「ミッ」


 両腕で同時に地面を叩いてる。

 これは一体……。


「いや、今はまずこいつらの確保……」


 事態の確認は後だ。

 こいつらが動き出したら、間違いなく村に火をつけて回る。

 だが……。

 こっからどうしよう?


「……俺達ゃ、ここで焚火をして一晩明かすつもりだったんだぜ? いきなり魔物に襲われて、その魔物使いからも襲われて、お前ら、ただでは済まねぇよなぁ」


 ……こいつら……。

 俺の素性は知らねぇはず。

 だから、俺の弱みを突いてきたのは偶然だろう。

 こいつらは間違いなく、村を襲いに来た。

 こいつらが村に近づく気配を察知した時点では、その可能性が色濃かっただけだ。

 だがそうでなかったとしても、こんな時間帯にこの国の端にある村に目立たないようにやってくるのは、間違いなくやましい事だろうよ。

 目的は何であれ、この村は被害を受けることは間違いない。

 それは、時間が経つにつれ確信に変わった。

 俺の位置は変わらなかったが、連中が村に向かってやってきたわけだからな。

 だがその事実を知ることができるのは、俺の能力があればこそ。

 それを証明する方法はない。


「……そのつもりで来たくせに、面倒なこと言うな。だったらあいつらみんなにお前ら全員を食わせようか?」

「俺たちの仲間には、ここに行くことは知らせてある。お前らが間抜けな保安官どもにとっ捕まって、処刑されるのは間違いねぇだろうなぁ」


 ……ちっ。

 面倒な事態の上に、面倒な奴がやってきそうだな。

 こっちはこいつらをどうにかして保安官達に引き渡したい。

 サミーを早く何とかしてやりたいためにな。

 罪に問われねぇなら、即刻ンーゴやライムに食わせてぇってのに。


「夜遅い時間にご苦労だね、アラタ」

「……うるせぇよ、馬鹿王子」


 何でこんなタイミングでシアンが来るんだ。


「みんなに渡した通話機には通知機能もある。登録されてる通話機の位置が、日常とは違う行動を起こした時に報せてくれる」

「プライベートもへったくれもねぇなオイ」

「非常事態の時には通知される。普段から互いに互いを監視するってわけじゃあない」


 そんなことされてたまるかバカヤロウ!


「だがこんな夜中に、全員が活発に動くのは明らかに異常。そして、率先して動くはずのアラタが動かない。何か重大なことが起きた、と考えるのは普通だろう?」


 人手が足りない時に助っ人が来てくれるのはうれしいが、来てほしくない奴に来られてもな。


「恩着せがましい事は言われたくねぇし、貸しは作っても借りは作りたくは」

「防犯、という意味では、肩書が付いたら流石にのんびりしてられないんだがね」


 都合よく肩書を付け外ししてんじゃねぇよ!


「アラタから、取り調べの仕事を怠けてるなどと言われたくはないが、こうして現行犯逮捕ができるわけだから、皮肉は勘弁してくれると有り難いんだがね」

「……襲撃は全員で九人。うち二人はここ。五人はミアーノ達のそば。もう二人はそこに向かいつつあるはずだ」


 まぁいい。

 とにかく俺はサミーの……って……。

 まだ俺の足元にいる黒い塊からは、サミーと同じ気配が感じられるんだが……。


「おい、お前ら、何モンか知らねぇが、こいつ、俺達に魔物をけしかけて殺そうと」

「はいはい、話は保安署でゆっくり聞くから、今は落ち着くように。みんな、まずこの二人を確保して」

「確保だぁ?! 保護だろおが! 確保ならこいつだろ?! 俺はこいつらに火を」


 保安官もいたのか。

 って……保安官じゃなく、親衛隊じゃねぇか。


「アラタは気にかかることがあるんだろ? 他のみんなの位置は把握してる。私はその追跡中の二人を追うよ。アラタ達が確保している連中は彼らに任せるから……いろんな意味で心配無用だ」

「そうかよ。だったら後は頼むわ……」


 親衛隊までいるのは気付かなかったが、やり取りしてる間に主に追いついたってことか?

 まぁそれはいいや。


「お前……サミー……か?」

「ミッ!」


 ふさふさしてた毛は……あぁ、それが燃えてるのか。

 つか、皮膚が破けてしまったってことか?


「お前……痛くないのか?」

「ミッ!」


 またも両腕を同時に上下に振ってる。

 と思ったら。

 すぐに後ろにまわって、背中に飛びつかれた。


「ミッ。ミャアァ」


 ふさふさ感がないのが物足りない。

 けど……こいつ、ハサミの腕二本だけでどうやってしがみついてんだ?

 とりあえず……。


「帰るか。夜盗二人は親衛隊に引き渡せたし……」

「ミッ」


 なんか、いろいろともやもやして気持ちが落ち着かん。

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