外の世界に少しずつ その1
おにぎりの店も随分大所帯になった。
なったというかなってしまっていたというか。
日中はそうでもないんだが、夜になるとつくづくそう思う。
というのも、日中にみんなが揃うということはほとんどないから。
全員が揃う時は、三食の飯時くらいか。
というのも、モグラっぽい獣人と、ミミズというか、手足のないイモリだったかヤモリだったかが巨大化したようなンーゴは、いつもフィールドにいるからだ。
飯時は、今まではドーセンの宿屋で食ってたが、冒険者の客で満員になるようになってしまった。
増改築が終わった彼の宿屋もすでに悲鳴を上げてるそうだ。
しょうがない。
元々部屋数自体が少なかったから。
建物自体を丈夫にし、部屋の内装も幾分か居心地よくしたそうだが、手を加えたのはそれだけ。
部屋数は二つか三つ増えただけだが、予約客は遥かにその数を超えるようになっちまったようだ。
多分人と巨人族のハーフなんだろうモーナーは、今まではドーセンの宿屋で寝泊まりをしていた。
初級冒険者のニーズにあったダンジョンがある、という話を聞いた俺達……同じ人間のヨウミとダークエルフのマッキーの三人なんだが、それがあるここ、サキワ村にやってきた。
ドーセンが引き合わせてくれたダンジョンを一人で掘り続けていたモーナーに、山の崖に穴を掘ってもらい、おにぎりの店と俺達の住まいにした。
プリズムスライムのライムと灰色の天馬のテンちゃんと再合流。
またモーナーに頼んで部屋を増やした。
予備の部屋もあったし、テンちゃんは荷車を停めている車庫に泊まりたがっていたが、物置なども必要だし、ということでさらに奥行きが深くなった。
最初はクレーマーとして、弟のゴーアと一緒に店にやってきたドッペルゲンガー種のクリマーが加入。
ゴーアはドーセンの店で、姉のクリマーは俺の店で働くことになり、またも部屋を増やす。
フィールドの近くに落ちていた卵を紆余曲折の末に孵して生まれたギョリュウ族のサミー。
その道中で合流したミアーノとンーゴが仲間に加わった。
そして魔力の強さのあまり姿を隠すことができない、ピクシー種のコーティが加わった。
俺抜きでも、互いにそれなりに仲が良さそうで何よりなんだが、サミーは一日のほとんどが俺にべったり。
卵から孵って半年もたたないんじゃないか?
甘えん坊なのも仕方がない。
が、他の仲間達と仲良くしてるし、テンちゃんには一丁前に毛づくろいまでしてあげてる。
もっともテンちゃんから一方的に毛づくろいをし続けてもらっていたことで覚えたんだろうが。
それに、村人で唯一店にしょっちゅう顔を出す双子の子供とも親しくなった。
成長も見えて何よりなんだが、逆に成長してねぇんじゃねぇか? と疑いたくなるのがテンちゃん。
夜になると、自分のお腹をみんなの枕にして寝せたがる。
自分が布団になるという行為が、みんなの寝床の世話をしてるように見える。
だが見方によっては、夜は一人で眠れないという受け止め方もできる。
いつまでも一人で眠れない寂しん坊ってことだ。
しかし悔しいことに、寝心地がいいんだよな。
翼を掛布団にしてくれるから尚更。
天然の羽毛布団って訳だ。
でも、人間より体が大きい種族だが、それでも一応部屋は作ってある。
最近ようやく自室で寝るようになったのだが、日中は憎まれ口を叩きながらも俺に付きまとってるコーティが、夜にはテンちゃんに付きまとうことが多くなった。
俺の指先から肘くらいまでの身長のコーティは、そんなテンちゃん布団がちょうどいいサイズとか言いながらその腹に潜り込む。
脱水症状さえ起こさなきゃ、別に構わねぇんだけどよ。
ヨウミとマッキーとクリマーは、同じ体型をしているということからか、時々女子会とか何とか言いながら、誰かの部屋に一緒に寝ることがあるようで。
そこら辺はよく分からん。仲良きことは美しき哉。
で、そんな成長を見せるサミーは、夜はやっぱり俺の寝床に入りたがる。
一緒に寝たいってことなんだな。
寒い季節には暖かくって有り難い事なんだが……。
※※※※※ ※※※※※
「ふわあぁ……。……うー……。朝になったら朝陽が差し込む窓が欲しい、ってのは贅沢かなぁ……。朝だぞー。サミー、起きろー」
「ミュゥゥ……。ゥァァ」
サミーは、小さく突き出た鼻の下にある、小さい口をそれなりに大きく開けてあくびをする。
その口目掛けて小指をちょこんと入れたらどうなるかな。
閉じた時に驚いた顔するんだろうか?
「お前は着替えの必要はないから楽そうだな。抜け毛はありそうだが」
毛の生え代わりはあるようだ。
だが脱皮もする珍しい種族……というか、ギョリュウという種族自体珍しいそうなんだが……。
「……今日の抜け毛は短いのばかりだな。黒いのも……って、黒しかないな。お前……黒い毛なんてあったか?」
サミーの体は小さいエイの形。ただし背中は盛り上がっている。
形を気にしなければその鳴き声も相まって、茶色が主体の毛が生えた猫だ。
「まぁ……これだけの量ならすぐ掃除も終わるし……気にするほどじゃないか。……サミー、これ、片づけられるか?」
サミーは両腕のハサミを交互に振り下ろし、床を叩く。
否定のジェスチャーだ。
肯定は両手を同時に上げ下げする。
サミーの口から出るのは猫の様な鳴き声のみ。
お喋りはできないが、俺たちの会話を聞き、理解できるようだ。
「……息で吹き飛ばして、部屋の外に出すだけでもいいぞ?」
今度は両手で同時に床を叩く。
よし。毛の処理は任せた。
っていうか、自分の抜け毛だろ?
自分のことは自分でできるようにならにゃなぁ。
「さて……今日の仕事は米研ぎから始めるかなー。まだみんな寝てるから、洞窟内の掃除にゃ早いか」
「ふわあぁぁ……って、あ、おはようございます、アラタさ……ん? んん?」
「おう、おはよう、クリマー。どした?」
クリマーは誰に対しても丁寧語を使うし、相手を呼ぶときも大抵さん付けだ。
堅苦しさを感じることもあるが、どんな時でも態度が全く変わらないことには好感は持てる。
だが例外もあって、サミーにはちゃん付けで呼ぶし、ライムには時々呼び捨てする時がある。
弟のゴーアにも呼び捨てだな。当たり前だろうが。
だが……。
「……ぷっ。ぷふふふっ」
人の顔を見るなりいきなり笑いだすのは失礼だろう。
「何だよ。突然。気分悪いな」
「い、いえ……だって……ぷふっ。あ……ひょっとしてアラタさんの部屋には鏡はないんですか?」
「鏡ぃ?」
鏡見てみろってか?
何なんだよそれ。
「ちょっと待っててください。持ってきますね」
で、部屋に戻ってきて持ってきた手鏡を見せられた。
「……おい……。おい……」
前髪の左側が……なかった。
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