ファンクラブをつくるのはいいが俺を巻き込むな その4
「ンーゴも……は女の子だったよね? 彼氏作ってくるのかなぁ」
「ワカラナイ」
「カレシ、カノジョツクッテツレテキタラ……タベテミテイイ?」
ライムっ!
怖ぇよ、ライム!
「栄養にならないものとか、食べたらお腹壊しそうに見えるのは止めなさいね」
「ぷっ! ちょっと、クリマーってば。あははは」
クリマーも怖ぇこと言ってんじゃねぇよ!
ヨウミも、笑えねぇ冗談で笑うなや!
「ジョウダンダヨ?」
「顔が見えねぇ分、冗談か本気か分からねぇよ!」
全員爆笑。
俺の眉間にしわが寄ってる実感はあったが、多分目じりにもできてる。
車座で隣に座ってたライムが近寄って囁いてきた。
こいつもいつの間にか、膝の上に乗りたがっていた甘えん坊を卒業してたんだな。
代わりにサミーがまだ甘えん坊で、俺の背中に張り付いてるが。
「ダイジョウブダヨ」
「何がよ、ライム」
俺も釣られて小声で返す。
「マモノ、ソバニイナイカラ」
「あん?」
「アラタホドジャナイケド、ソバニイルカドウカハ、ワカルヨ。アンシンシテイイヨ」
「ん?」
「カゾクナラ、タスケアイダヨ。タスケラレルノニ、タスケテモラッテバカリナノハ、タスケアイジャナイヨネ」
そりゃ片方が助けられっぱなしで、もう片方が助けてばかりっつー関係は、助け合いとは言わねぇな。
「タスケラレルチカラガナイヒトガ、タスケラレルチカラガアルヒトニタヨラズ、ナンデモジブンデヤロウトスルノモ、タスケアイジャナイヨネ」
「まぁそりゃ……」
「アラタノコトダヨ?」
「……俺だって助けてもらってるぜ? 米運びとか、洗米のときとか……」
「ライムタチ、アラタノソバニイルト、アンシン」
「そりゃどうも」
「アラタハ?」
こいつらのそばにいると安心できるか、って?
……何かをしてもらって安心したことは……そりゃ数えきれんほどある。
が、そばにいたら……。
「……お前らを養ってやんないとなー、としか思ってなかったな……。給料より俺の作るおにぎりの方がいいって言う奴が多いしな」
「ふんっ! ……十日間のうちの一日くらい休んだって、別に拗ねたりしないわよっ!」
ライムと反対の隣に座ってたコーティが横から口を出してきた。
立ち聞きは良くねぇぞ、コーティ。
まぁ、でも。
「……そっか」
「ふんっ」
……まぁ、今まで「俺だけが」っていう待遇だったし、みんなと一緒に飯を食ってても、やっぱりそんな意識があったんだろうな。
俺だけが、心の底から楽しむことができなくても、その不快な思いが周りに伝染するでもなし。
労わってもらったこともなかったし。
今更気を遣われても、逆に気味が悪い、落ち着かない、居心地が悪い、としか思えないんだよな。
まぁでも、そこまで言ってくれるんなら、厚意は受け取っとくか。
助け合い、か。
そう考えると、シアンと王妃は、俺を助けるっつーより贖罪のつもりで魔球をくれたんだよな。
まぁ、結果の状況は、あいつらに助けられた、と見なすことはできる。
けど俺の現状では、あいつらに助けてもらったって意識はないもんな。
この世界を救ってくれ、と一方的に頼られた。
そのくせ、気に食わないから、と一方的に断定され、放逐された。
だがこいつらは、泣いたり怒ったり笑ったりという感情の中には、俺の為、そして俺を支えるために出すこともあった。
俺のそばにいて安心できるってんなら、俺も同じようにできてこそ家族、だよなぁ。
※※※※※ ※※※※※
翌朝の開店時間。
今日も客が数人、時間前から店の前で待っている。
「はい、おはようございます。今日もここで準備を整えて、元気よく行ってらっしゃいませー……っと」
「お、おはようございます」
今日は朝一で来たか、あの人馬族の五人組。
「あ、あの、どうでしたか?」
「何がよ?」
「え……聞いてくれるんじゃなかったんですか?」
「何かを頼まれた覚えはないが……少なくともお前のことが話題に上がったことはなかったぞ?」
こういうことは本人が当人に直接話をするべきだ、とは思うんだがな。
自己紹介を相手にしないという、初手から手順を間違えたままでは何ともならん。
誰かに相談するには、まず正しい一手目を出してから、だと思うんだがな。
下手に親切心出して手伝った後で、そんなつもりじゃなかったなどと、梯子を外されるのもごめんだし。
「で、さっさと買い物済ませないと、せっかくのお近づきのチャンスがなくなっちまうぞ?」
「お、俺の分も買っといてくれ! 俺は先に行くから!」
「おい、ワッツ! ……しょうがねぇなぁ……。飲み物のセット五つください」
「あいよ。ヨウミぃ、会計頼むー」
「はーい」
開店直後が一番穏やかだ。
お喋りしていても、順番待ちの客から急かされることがほとんどない。
だがのんびりしていると……。
「じゃあアラタ、案内行ってくるねー」
「行ってーきまーす」
「あいよー。気ぃつけてなー」
開店の時間に合わせて、テンちゃんとマッキーがフィールドに向かう。
冒険者としての鍛錬のみを目的とした者達の中には、店じゃなく彼女の周りでその時間を待ってたりしている。
アイテム探しや魔物討伐よりは危険度は低い。
だから店での準備よりもファンクラブの一員としての行動が大切ってわけだ。
あいつら目当てなら、買い物で時間を食ってる間に、そんな彼らに後れを取るってことだな。
だが、ワッツのように積極的にアタックしようとする輩はいない。
大げさに言えば、偶像崇拝。
まさにアイドルってわけだ。
本来の目的を忘れさえしなけりゃいいんだろうけどなぁ。
「おい、ワッツ! こっちはチームなんだぞ!」
「五人一緒に行動しろってのー!」
緊張感なさすぎないか?
そんなんで大丈夫かね。
「何、あれ?」
「テンチャンノコト、スキナノ?」
「らしいな。だがまだ名前も教えてないし、教えてもらってないらしい」
「何それ。先に名前のやり取りしなきゃ始まらないじゃない。テンちゃんには、いてもいなくてもどうでもいい存在も同然ね。あたしだったらそんな相手はごめんだな。きちんと自己紹介しないと」
「おい、ヨウミ」
「ヨウミチャン……」
「何よ、二人とも」
ヨウミ。
お前も自分のこと、よく見えてないな。
お前にもファンクラブが作られたってこと、忘れたか?
「ヨ、ヨウミさん! 俺、ギュルナーって言います!」
「おまっ! このやろ! 抜け駆けすんな!」
「俺、ヒロトって言います。よろしく」
「くっ、この……邪魔すんな! おっ俺うわっ!」
「あたし、ミューって言います……お姉さまの事、お慕い申し上げてますっ!」
騒然とした店の前が、一気に静まり返った。
悪い、とは言わねぇし、愛の形とやらも様々あると思うしな。
大体、拒否するかどうかは本人の意思一つだ。
「え……えっ……、あなた……女の子……だよね……」
「はい。それがどうかしましたか?」
ヨウミ。
俺を見るな。
俺は関係ない。
俺はそいつの眼中にない。
俺を
「アラタぁ……」
俺に救いを求めるな。
俺にはこんな状況のお前を助ける力がない。
助けることができる力を持ってる奴に縋れ!
それが家族というものだ!
「たす」
「ライム! 米、収穫しに行くぞ! 急げ!」
「アラタああぁ!」
店に張り付けさせたヨウミの絶叫が遠ざかっていく。
すまんヨウミ。
俺には、米の選別という特別な作業を抱えているのだ。
店の存続を左右する重要な作業が!
俺たちの家族を支えるための重要な作業がっ!
行くぞライム、俺たちの未来のためにー!
逃げろーーーっ!
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