トラブル連打 その10

 サキワ村から隣の村のラーマス村に向かって進む。

 ラーマス村を越えて二キロほど進んだ位置にいる。

 まるまる商会のアトラクション施設の船が着陸していた場所だ。

 テンちゃんは、空は飛べるし地力もある。

 久々の荷車牽きだが、スムーズに引っ張って来れた。

 地中を移動できるミアーノとンーゴは現地で。

 それ以外の全員が荷車に乗せての移動だった。

 ここからさらに三キロ先の地点が、今日、魔物の泉現象が起きる場所。

 現在時刻は朝七時半。

 初めて感知した時は、タイミングは日にちしか判明できなかった。

 昨日の午後、午前の時間帯にまで絞ることができた。

 そして、この時間ならまだ発生しないと言い切れる時間帯も分かり、現時刻到着、というわけだ。


「結局、避難勧告なかったよね」

「シアンからも連絡なかったし」

「紅丸もお……あれから全然連絡う……」

「すいません。あの人の話、止めてもらえます? モーナーさん」


 紅丸が絡んだ音信不通の件は、簡単にその流れを話した。

 あくまでも俺の推測の範囲、ということで。

 あいつがすべてを自白したわけでもないし、俺があいつに感じたこれまでの事を理論立ててできた推論だったから、見てきたようなことを言うようなマネもできなかったし。

 結果、現象という災いが起きることを前もって知ることができ、そのために動くことができたのはおにぎりの店全員と、紅丸んとこで捕まってたピクシー種のコーティだけ。


「何人かでも助っ人頼めばよかったのに……。今からでも頼んでくる? あたしひとっ飛びすればすぐに連れて戻って来れるよ?」


 テンちゃんにもファンはいる。

 頼まれりゃ二つ返事で来てくれる奴もいるだろうよ。

 けど、テンちゃんが倒れるようなことになったら、その戦力は間違いなく削がれる。

 せめて俺が倒れるまでは粘ってもらえる戦力が欲しい。


「でもよお、俺とンーゴはその現象とやらには初めて出くわすことになるけどよお、多数相手なら分からんが、一対一なら、俺らの土俵に引きずり込むっちゅー条件ならなかなかのもんだと思うけどな」

「ドラゴン、シトメタコト、アル」

「嘘でしょー?! マジで?!」

「うっそお! 子供なんじゃないの? 大人のドラゴン?! ンーゴ、すごすぎ!」


 ドラゴンってどんくらいの力を持ってるかは知らん。

 ギョリュウの親と会話めいたことをしたことはあるが、あの時に感じたくらいなのかそれ以上なのか。

 おそらく遭ったことあるんだろうな、マッキーとテンちゃんが驚いている。


「ところで、今回はどうすんの? 引き返す頃には、またへたばって何日も寝込んでるようなことはしないでよね?」

「あぁ、分かってるよ、ヨウミ」


 と、口先では言っとく。

 どうなるかなんて知ったこっちゃない。


「……気配が強くなってきたな。準備するか。……みんなはここで待機。俺とライム、それとコーティもついてこい」

「あぁ?! 呼び捨てかよ! ふざけんな!」


 まったく。

 この妖精、ほんとめんどくせえ。


「お前の力は未知数だし、一々文句をつけてくるんじゃこっちの指示通り動くかどうかも信用できねぇ。助けてもらってそれでおしまいかよ? だったら別にどっかに行っても構わねぇぞ? その代わり、国中から追われて、捕まったら即処刑だ。当たり前だろ? 犯罪者かもしれねぇんだから」

「あぁ?! お前こそ何勝手にに決め付けてんだよ!」

「だったら出してもらって感謝の言葉の一つも自然に出るもんじゃねぇか? つーか、言えって言われてから礼を言うのは、命令通りに動いただけだから気持ちとは関係ない言葉だろうがよ」

「誰も助けてくれっつってねぇもん!」

「……何度も言ったはずだが、俺は気配を感じ取れる能力があって、そこから感情も読み取れる。同じ種類の箱に入っていたこいつらの感情までは分からなかった。けどお前からはモロに感じ取れた。特定の誰かに向けられた言葉じゃねぇから、助けられたくない相手かもしれねぇな。礼を言いたくないなら言わなくてもいいさ。けど行動でその気持ちを表すくらいのことはしてもいいんじゃねぇか?」


 見下されてるな。

 ま、そんな風に見られるのは……慣れちまったんだな。

 ホント、我ながら随分ひねくれちまったもんだ。

 みんなからは労わりのメッセージもらったりしたけど、内輪からなら心配されるのは当たり前……だよな?

 外部からは……ま、いいさ。


「……具体的な話をすると、だ。俺がライムとこいつを連れて中心に近い所に行く。結界張って外に逃がさないようにする。村民市民に被害を出さないようにな」

「また無理するんじゃないでしょうね?」

「大丈夫。計画通りに」

「今、またあたしのこと、こいつって言ったな?! いい加減にしねぇと」


 何なんだこいつは。

 うっとおしい!


「お前のその魔力とやらで、現象から出てくる魔物達を一掃するんだったら様でも何でもつけてやるよ! だが魔物どもが痛くも痒くも感じなかったら、それこそ奴隷扱いしてやる! でけぇことしか言えねぇ口先ばかりの奴のどこが怖いってんだ!」

「あぁ?! まずはテメェからぶち殺そうか!」

「やるならやりゃいい。そしたらお前、それこそ犯罪者確定だ。収監されたらもう誰も助けは来ないし、少なくともここにいる奴らからは罵倒の嵐だ」

「ぐ……ふ、ふん! その魔物とやらをぶっ倒せばいいんだろ! だったらすぐ出せよ! あたし一人で全滅させてやるよ!」


 まったく人の話聞かねぇ奴だな。


「俺の指示に従え。でなきゃ犯罪者でなくても、無能で役立たずってことになる。けど、俺がお前を使い回すんじゃねぇぞ? 魔物退治に協力するかたちをとるんだからな?」

「へん! 知ったことか!」


 昨日から、というか、初対面からずっとこんな妙なプライドを持ってる。

 誰もが手を焼いてるが、何も理解できないサミーには手こずってるようだ。


「……その結界からは多分出てくることはないと思う。出るとしても手負いだ。しかも数は少ないと思う。出てきた奴らを各個撃破だ」

「でも別方向から漏れたらどうするの?」

「そこんとこは……ミアーノとンーゴ、対処できるか?」

「なるほどなぁ。地中を移動して最短距離、しかもその結界とやらは避けて通るってことかぁ? 考えるじゃねぇか、アラタのあんちゃんよお。任せな」

「リョウカイシタ」


 大体の流れはそんな感じ。


「ちょっと! それだけで何とかできるの?!」


 ヨウミの心配はもっともだ。


「その結界を分厚くする。結界自体に仕掛けを作るから。罠っつってもいいか。けどそれを観察しなきゃいけないし、生身でそこにいたら瞬殺されるからな。ライムに守ってもらって、こいつは単なる監視」

「またこいつって」

「そういうことだから行ってくら。くれぐれも、村や市への接近は許すなよ?」

「え? あ、うん……」


 納得いかなそうな顔してるな。

 ま、何とかするさ。

「ライム。荷車から……三分の一くらいかな。おにぎりセット運べるか?」

「カンタンカンタン。マカセテ」

「残りはお前らで、有意義に使ってくれ。これまでにないストックの量だが、補充は出来ねぇからな?」

「分かりました」

「おう。まかせろお」


 ま、俺の言わんとすることは理解できるだろう。

 さて、まずはこっちの役目はしっかり果たさないとな。


「さ、行くぞ」

「おいっ! 気安く触んな!」


 面倒なのが一つ連れてるけどな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る