行商人とのコンタクト その13

「ところでアラタ、具合、大丈夫か?」

「あ?」

「顔、青ざめてるよ? 平気?」


 さっきも言われた気がする。

 そんなに、俺、見た目、変か?で


「問題ない」


 なんか、考えすぎたせいか、気持ち悪くなってきた。

 空耳だと信じたい。

 けど空耳ではなかった。

 けど紅丸と別れ間際に聞いたあの声は、耳で聞こえたわけじゃない。

 気配からの感情、だと思う。

 けどその気配はどこからだったか分からなかった。

 誰でもいいから助けてほしい感情は、俺だって何度も持ったことがあった。

 心の底から湧き上がるその感情は、俺が何度も体験したことだったろ?

 けど、犯罪者の収容所も兼ねているその船からのものだったら、その感情の持ち主は犯罪者ってことだよな。


 けどシアンは、冤罪は絶対ないとは言い切らなかった。

 けど、けど、けど……。


「アラタ」

「うおっ!」

「何そんなに驚いてるのよ」

「何か、さっきから様子が変ですよ? アラタさん、どうしたんですか?」


 言えるかよ。

 テンちゃんにもライムにも聞こえなかった、助けを求める声。

 それが聞こえた、なんて。

 話の流れからすれば、犯罪者の脱獄の手伝いをするって言ってるようなもんじゃねぇか。

 ……そうだ。

 今までの気配の感じ取り方が違ってた。

 おそらく違和感はそれだろう。

 今までは、気配を感じ取ろうして感じ取り、そこから感情も読み取れた。

 けどあの時は、向こうからそんな意思が俺の脳内に飛び込んできたって感じだった。


「お、帰ってきたね。お帰りアラタ……って、顔、青いよ? どしたの?」


 マッキー、お前もそう言うか。


「……この三人からも言われた。お前にもそう見えるか?」

「うん。あたしほどじゃないけど青いよ? 大丈夫?」


 いや、ダークエルフ種のお前は元々青紫ぽい肌だから。

 肌の青さなら、お前は絶対誰にも負けないから。


「風邪でも引いた? これじゃみんなにうつるかもしれないし、休暇でそこに遊びに行ったりしたら、お客さん達にも移すかもしれないよねぇ」

「アラタさんが元気になるまで休暇は自粛、ですね」

「風邪じゃねぇって……」


 待てよ?

 あそこに船が泊まってる。

 離陸する時期は、あと二週間ほど?

 こいつらが休暇を取らないままでいたら、あの声の主は、何も悪いことをしてないのだとしたら?

 助けてくれるなら、その相手は誰でもいい。

 そんな切羽詰まった状況で口にするような言葉。

 その、儚く消えそうな救いの手が完全に消える?

 いや、待て。

 犯罪者の可能性が……。

 だが……。

 くそっ。

 そいつの気持ちが理解できない薄情者だったら、こんなに思い悩むこともなかったろうに!


「ところでみんなに受け取ってほしいものがあるのだ」

「え? なんですか? シアンさん」

「うむ。通話機だ。みんなは持ってないのだろう? もし持ってたら、みんなに何度も私の相手を強いらせずに済んだはずだしな」


 通話機……スマホとか携帯みたいな奴だな。

 この世界じゃいくらするんだ?

 いや、ちょっと待て。


「何で……客がいないんだ?」

「え?」

「あ、そう言えば」

「部下が来客を止めてるからな」


 おい。


 おい。


「それはともかく、アラタ、君にもな」


 押し付けてくるなよ。


「すでに名前で登録は済ませてある。番号を知らずとも通話ができる。間違った操作をしても、私達の名前はこの通話機から消えることはないから安心したまえ」

「なくさないようにしないとねー」

「ンーゴにかけてみよー」

「いや、まだ君らにしか渡してないから」


 人の気も知らないで、いい気なもんだ。


「んじゃ次の休みはこれ持って行こっと」

「あ、いいですねぇ。あ、次はだれが休暇取ります?」

「私がとろう」

「いや、あんたの仕事は政治関連でしょうが」


 ノリが軽いな、馬鹿王子は。


「ソレ、ナァニ?」

「お、ライムもお帰り」

「通話機だ。ライムも使えるか?」

「クエル?」

「うむ、食べ物じゃないから安心したまえ」


 安心できる材料はどこにあるんだ。

 訳の分からない会話すんなよ。

 って、次?


「休みのローテーション、あと一周か二周できるかどうかですよね」

「いや、この後ずっと続くでしょうが」

「あ、あのアトラクションのところですよ。私、行きたいです」

「あたしもー」

「テンちゃんは帰ってきたばかりでしょうが!」


 馬鹿天馬が……まったく。


「じゃあマッキーとクリマーが行ってきたらいいよ」

「ヨウミは?」

「その次の番にしよ。モーナーも誘ったらどうかな?」

「移動、どうしよっか」

「あたし、連れてったげるよ? あぁ、心配しなくていいよ。三人降ろしたらすぐに帰るから」

「じゃあ次の休みの日は……いつにしよっかなー」


 盛り上がってるな。

 何事もなきゃいいけどな。

 あ、店の仕事しなきゃな。

 客はいなくても米は減ってるだろ。


「……テンちゃん。こいつらを連れてくってんなら次の日程の相談、一緒にするんだな?」

「え? うん、そうだね」

「んじゃ相談してろ。ミアーノに米集め付き合ってもらうわ。ライム、一緒に行けるか?」

「マカセテー。デモダイジョブ?」

「何がよ」

「カオ、アオイヨ?」


 そんなに憔悴してるように見えるか?

 そこまで考え込んでるつもりはないんだがな。

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