閑話休題:みんなと一緒に

 暗いから外は危ない時間帯になるが仕方がない。

 みんなが集まることができる時間と場所は、夕食後のフィールドしかない。

 俺は、今はまだ、サミーの世話が中心だからな。

 日中のおはぎ騒動、もとい、サミーに降りかかった災難を一応全員に伝えた。


「だって……美味しそうだったんだもん」

「美味しそうって……私の体ですよ?! 私の腕ですよ?!」

「……だったら何で自分の腕をおはぎに擬態させたんだよ」


 って、何で話題がおはぎに移ってんだ!

 しかもついそれに口出ししちまったじゃねぇか!

 にしてもな。

 ライムはともかくヨウミが美味しいと言い出すくらいだから、視覚と味覚までそっくりに変えることができるってことだよな。

 食品サンプルなんて目じゃないってことか。

 それにしても、思わず噛みついてしまうほどの再現率の高さ、パねぇな。

 そして思わず噛みつくヨウミの神経も、まともな奴じゃねぇよな。

 いや、ひょっとしてそこまで精神を狂わすほどのクリマーの能力かも分からんが……。


「そのおはぎっての、あたしも食べてみたいなー」

「あたしも……」


 マッキーはともかく、テンちゃんは食えるのか?

 まぁアンコの材料も穀物だから……っていう問題かな。


「人が魔物を食おうとしてるなんて話ぁ、なかなか聞くこたぁねぇな。笑わすぜ」

「モトモト、キクハナシ、スクナイ」

「それは言っちゃいけねぇやな」


 地底に住みついてりゃそうだろうな。

 ある意味隠居生活だ。

 って、話戻せよお前ら!

 サミーが怖い目に遭ったってのに……。

 って……。

 サミーはクリマーの腕にしがみついてる。

 おはぎへの擬態に期待してんのか?!


「リラース家っつってたんだなあ? ドーセンはあ」


 お、ようやく話が戻せそうだ。

 モーナー、お前は俺達の数少ない良心だ。

 お前の存在は有り難いぞ!


「あ、ああ。その双子がサミーを玩具扱いしたっぽい、と思われる。サミーは話できないから推測しかできないが」

「そうかあ……」


 質問してきた割には素っ気ない返事。

 いつになく沈んだっぽい顔は、心の中を見せているも同然。

 もっとも気配を察知する力ならではの効果。

 他の奴らは気付きはしないだろうな。


「それは変! あまりに変!」


 いきなりヨウミが奇声を上げた。

 思わず声の方に顔を向けると……。


「く、クリマー! 何やってんだお前!」


 彼女の肘から先が、モーナーの手のひらになっている。


「い、いえ、ヨウミさんが、自分と同じ体の部分で、極端に違う物を再現したらどうなるかと……」

「ちょ、ちょっと! あたしのせいにしないでよっ!」

「さ、さっきそう言ったじゃありませんか!」


 何をやってるんだ何を。

 モーナーを見ると、ぽかんとしている。

 自分の右の手のひらと同じ物がクリマーの右腕にあるのだから当たり前か。

 クリマーの手よりも二倍くらい大きい。く


「再現率、ほんと高ぇな。不気味だけど」

「質量があまりに違う場合は、擬態する体の部分に近いところも巻き沿いにするみたいです」


 試しに触ってみる。

 力仕事をいつも素手でしているせいか、皮膚は固い。

 そして肉厚。

 目を閉じて触ると、モーナーの手なのかクリマーの擬態なのか区別がつかない。


「あ、じゃあさ、おっぱいが大きい人の女性の胸を」

「お前なぁ」


 ヨウミがクリマーの体を玩具にしてどうする!


「極端じゃなければできますよ」


 おいこら待てや。


「やってもいいけど、衣類が破けたり肌の露出する面積が変わらないようにっ」

「えー」


 えーじゃないわ。

 何考えてんだヨウミは。


「じゃあさ、あたしの体毛は真似できるの?」

「体毛に限って言えば……こんな感じですかね」


 自分の腕にテンちゃんのような灰色の毛が現れた。

 サミーはそれに反応して素早くその腕に絡みつき、いつもテンちゃんがやってくれるような毛づくろいを始めた。


「サミーちゃん、くすぐったいですよ、サミーちゃん」

「え……。何でサミーはあたしの体にやってくれないんだろ……」


 テンちゃんも、そこで凹んでどうする。


「サミーちゃんから見たら、やろうとしても終わらないほど広いからじゃないんですか?」


 その前に埋もれるだろ。

 巨体だしな。


「分離は出来ないの?」

「分離?」

「矢に変えて、あたしの弓で射撃できないかなーって」

「いや、流石にそれは……。私の体自体は外れませんから」


 マッキーがしょげた。

 こいつもこいつで、クリマーを何でも屋みたいに扱うんじゃねぇっての。


「まぁなんだぁ、アラタのあんちゃんが気に食わねぇっつって追い出されるんだら、出てく前に報せろや。俺とンーゴはついて行くからよ」

「ついてくって、ミアーノはともかくンーゴは……」

「シタニモグッテイドウスル」


 マジか。

 ンーゴの通った道沿いに地震とか起きないのか?

 心配になってしまうが。


「あたしもついてくよ。真っ当に生きていられるのもアラタのおかげだし。ついでに食いっぱぐれないし」


 食いっぱぐれがないのをついでにするとこは可愛げはあるな。


「俺もお……ついて行こうかなあ」


 ということは、地下を掘り進んでいく仕事には特にこだわってないってことか。

 他のみんなも賛同するが、今のところ追い出されそうな感じじゃない。


「ま、万が一ってときに備えてってことでな」

「でもあたし達、魔物率高いからねー」


 魔物率って……。

 確かにテンちゃんの言う通り、人間なのは俺とヨウミだけだけどよ。


「ま、そういうことがあったんでな。そろそろ夜も更ける。今夜はこんくらいにしとくか。じゃミアーノ、ンーゴおやすみ」

「おーう。また明日なー」

「オヤスミ」

「二人とも、お休みなさい」

「また明日ねー」


 全員でのミーティングが終わるとそんな挨拶で解散。

 まぁ解散と言っても、フィールドに残る二人以外は、今のところみんな洞窟に戻るんだがな。

 けど、「また明日」か。

 こんな俺でも子供の頃は、そんなことを言う相手は、二人くらいはいた。

 でもあの時以来そんな言葉を口にしたことがなかった。

 ここでは何度も聞いてたが、ちょっとだけ、あの頃が懐かしくなった。

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