リクエストに応えてみよう と思ったんですが そのリクエストは誰からのもので、誰が答えたかわからないというね

「ねぇ、アラタ」

「何だよ」

「今からでも回れ右して進まない? アラタの商売する場所は、魔物の泉現象だけじゃないでしょ?」


 それはそうなんだが。


「あいつらの姿を確認してから今来た道を引き返すって、もろに不審人物のすることじゃねぇか」

「思われたっていいじゃない。何をいまさら」


 おい。

 最後の一言。

 俺を不審人物にするんじゃねぇっての。

 しかし何かをどうするなど考え込む間にどんどんあいつらも近づいてくる。

 水蒸気も薄くなってさわやかな風が吹く。

 晴れ渡った空に大きな鳥が一羽飛んで回るのどかな風景に、何であんな奴らと出くわさなきゃならないのか。


「お、あそこにいるのは……」

「あいつよね」

「まさかここでとは」

「報告しなきゃいけないんじゃない?」


 向こうも俺に気付きやがった。

 つか、よく俺のことを覚えてるもんだ。


「アラタさん、久しぶりじゃないですか! 探してましたよ!」


 その必要がどこにある?


「アラタさんを見つけたら、王宮に連れてくるように言われてたんですよ」


 うわー。

 公衆の面前で処刑でもすんのか?

 と、ふざけた妄想するのもここら辺までにしとくか。

 ところで……こいつ、誰だっけ?


「お前ら、魔物退治に行くんだろ?」

「あ、あぁ。アラタさんを探すことよりも何よりも、それが優先されるから。けど……」

「橋が流されて渡れない、じゃないですか?」


 おい、ヨウミ。

 余計な口挟むな。


「え? あ、うん。そうなんだ。よく分かったね、君」

「私達は向こうから来ましたけど、途中で町があります。川を渡るならその町を過ぎてからでないと渡れないと思います」


 親切だねどうも。

 聞かれなくても答えるってのは、おせっかいとも言える。


「え? そうなの? 困ったな。向こうと分断されてる感じじゃないか」

「カマロ、この子この人と一緒に動いてるんでしょ? 信じていいの?」


 聞こえるように言うなよ。


「地図によると、確かに……。これ、随分移動しなきゃダメだ。行けなくはないけど……」


 最初から地図見たらどうだったんだ?

 ま、こっちはこっちでやることがあるしな。


「じゃ、俺は向こうに行くか……」

「ちょっと待ってくれ。さっきも言ったように、アラタさんを見つけたら連れてくるように言われてて」

「俺は無実だから」


 六人全員固まっている。

 なんだよ。

 俺、マジで捕まるのか。


「悪いことしてないぞ? 冒険者のための行商はずっと続けてるぞ?」

「いや、その」

「そもそも俺は一般人だ。どこにも接点はないし、行く理由もない。王宮に行く? 褒められるようなことはしてないし、それでも行く理由があるなら……俺が意識せずとんでもない悪事をしでかしたことくらいか。罪状はなんだ? 悔い改めるから見逃してくれ」

「あ、いや、そうじゃな……ん?」


 俺達の周りに影が差した。


 上を見上げると……。


「え?」

「なんだこりゃ!」

「魔物か?!」

「待て、武器を取るな!」

「ぶはっ! なんなんだこいつっ!」


 俺は言葉を失った。

 なぜなら。


「あ……テンちゃん……」


 灰色の、大きな翼を持つ六本足の馬が降り立った。

 ややこしい場に、さらに事態をややこしくしそうな奴が現れた。

 甘ったれたことを言えば、こいつに俺が攫われたら、こいつらから逃げきることはできる。

 ヨウミもライムも一緒なら、この場は何とかなるだろう。

 だが荷車がな。

 お金もその中にある。

 それらすべてこいつらに押さえられちまう。


 が、天馬は俺達の方を見向きもせず、あいつらの方を見ている。


「え? お、おい」


 一人の襟を加えて自分の背中に乗せた。


「ちょっ、ちょっとっ。何すんのよ!」

「おい。お前、何するつもりだ!」

「何か……降りられないんだけど? 何これ」


 俺達は呆然と見る事しかできない。

 天馬の体は大きいが、まさか六人も乗せられるとは思わなかった。

 それにしても降りられないってどういうことだ?


「おい、俺達をどこに連れて行く気だ!」

「ちょっと! 下ろしてよ!」

「ま、まずくないですか? これ!」

「おい、アラタ! 助けてくれ!」


 どうやって?

 無理です。

 こっちは一般人です。

 蹴り殺されます。


 なんせ、もう羽ばたいて宙に浮いてます。

 と、思ったら、川の向こう岸に向かって飛ぶじゃないですか。

 あー、なるほど。

 旗手の皆様、どうか私共のことは気になさらずに、魔物の泉の方に行ってらっしゃいませー。


 天馬の飛び立った方向は魔物の群衆が発生しているような気配がある場所と一致している。


「……そう言えば今まで、魔物の気配どころじゃなかったもんな」

「……さしずめ、テンちゃんの恩返しってとこね」


 何も答えられなかった。

 だって俺があいつにやってほしいことは、助けようとしたときに威嚇してごめんなさい、という謝罪だったから。

 となると恩返しじゃなくて、ただの気まぐれってことだろう。

 他の誰がどう考えようと、俺はそう解釈したい。

 ごめんなさいと有り難うを言うべき相手に伝えるだけでも、周りの環境はかなり変わるもんだがな。


「……振り切るのって、なかなか難しいもんだな」

「何のこと?」

「別に。さて……救助活動で強いられた出費の穴埋めやんないとな」

「そうね。みんなでがんばろー!」


 なぜか機嫌よく右手の拳を高々と上げるヨウミ。

 時々理解不能なことを言いやがる。


「なんでみんななんだ。俺が勝手に行動を起こしたことだから、俺が穴埋めするんだよ」

「何言ってんの? みんなで助けたじゃないの。みんなで頑張ったんだから、みんなの分の出費だよ?」


 くだらない不毛の会話だ。

 だが、相変わらず気持ちのいい風が吹くその道を進む気分は、そんな会話をも心地よくさせてる。

 心配の元の集団の一つも、橋が近くにない川の向こう。

 ヨウミの話を聞いてしかめた顔も、油断をするとつい緩んじまう。


 まぁこんな時間も悪くはないか。

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