くの七 従前より十全に、耳と尻尾の狭間に詩歌入ってるぜ

 貨幣経済の終焉、万歳。そんな日が来ることを切に願っています。世界の皆が窓を開けて、ありったけの金とレシートを投げ捨てる夢を見ました。空に、大地に、お金の雨が降る。でももう誰もそんなものを顧みないんだ。だって今日からお金を処分するにはお金以外のものを要求されるから。


 今日も鶏卵検査局の一日が始まる。生きた卵を十分な量の飽和絶望水溶液に浸し、変色を確認後破棄するだけの簡単なお仕事。安月給でも公務員だからね。ある日、規定どおり確認してもびくともしない卵が現れたんで大変さ。何でもありゃ不死鳥の卵だとか。卵焼きにならなくてよかったよ。


 今まで歩いたことのない道。戻ってこれないかと思うくらい引き寄せられた。こんなところにこんな店が。一年間暮らした街のほんのすぐ裏手に、出会うこともない無数の人が暮らしている不思議。ふいに長旅でもしたくなってくる。そんな小さくて大きな驚きとともに眠ろう。お休みなさい。


 富かな者、貧しい者、健康な者、病める者。狂信者。無神論者。メシアにサタン。野心家に謙虚な者。皆それぞれ少しずつ異なる言葉を話すが、そのすべてが「この世」を構成する億万の光り輝く点には、違いない。宇宙の外で1枚のディスプレイを暇つぶしに眺めながら、神である僕は笑う。


 結ぶことも、解くことも、縛ることも切ることもできる。養われることもくくることもある。どこまで緩めるか常に迷う。大宇宙の難解な物理法則すら解明する。そういや自分もそこから生まれたんだっけ。つまりは「紐」が左右するわけだ。こいつが心もとないとろくに歩くこともできない。


 自販機がこれほど世界を変えるとは、誰が想像しただろうか。古代のバナナ自販機のあの発想がすべてだった。子猫も、彼女も、婚約者も。天職も、信念も、絶対の幸福も。投入口にコインを入れれば、すぐさま、がらりと転がり出てくるのだ。そして今、僕は苦悩の自販機にコインを入れる。


 今起きたなう。銀河の果てで誰かがつぶやいている。意識の片隅で。人類の叡智が実現した脳直結型twitter。大発明に喝采の嵐。だが討伐すべき闇はまだ近くにある。悲観主義者の僕には分かっていたこと。おはよう。よい一日を。そうレスしてから僕は銃を取り眼前の死地へと赴く。


 木漏れ日とそよ風がやさしく身をつつむ真夏の昼下がり。歴史家がベンチで分厚い本を読んでいる。鳥がさえずり、子供たちの歓声が聞こえる。地面には蟻の群れ。遠くに見えるのは都市の遺跡だ。昔々、鋼鉄と緑の、二つの豊かさが反比例する時代に、多くの犠牲が払われたと年代記は語る。


 ナンセンスだ。消えたまえ。限定主義者の老紳士が罵ると、奔放な少女は困惑して肩をすくめた。感覚も、言葉も、信じる神すらも共有していないのだと改めて見せ付けられて、狂信者であるはずの僕がため息をついている始末。まいったね。絶対的な幸福。ただ、それさえ、あればいいのに。


 自由が大好きです。これは私の自由です。おっと私の自由はここにあります。なんの、私の自由はこれですが。ほう、これは奇特な。あれあれ、ここに落ちているのは誰の自由かな。自由管理局に問い合わせる自由を行使してみては。なるほど名案だ。関わり合いにならない自由を行使します。


 遠くにいるあの人の心が知りたいんです。悩み人が今日もまた訪れる。魔術師はそっとひとつの偶像を差し出した。偶像はやがて街に散らばり、時に人は笑い、あるいは憤り、そして泣いた。偶像売りますと書かれた店の前で今日も一匹の白犬が鎮座し、魔術師は誇らしげに薄い頭髪を撫でる。


 前に進みたい。力が欲しい。周囲を幾重にも取り囲む、限界という名の壁を前に立ち尽くす。ふと、昨日までは見えなかった壁の継ぎ目を見つける。心の中に、一本の、奇跡という名の鍵が浮かび上がり、壁は扉へと変わった。思い切りぶち開ける。いつの日にか。無限という名の力を求めて。


 矛盾という言葉が、古代からある。どんな盾も貫く剣と、どんな剣にも貫かれない盾。相反する二つを手に入れた人間は天にすら昇るともいうが、未だに成し遂げた者はいない。傷を覚悟で戦う剣と、剣を傷から守る盾の、二人三脚の旅路のみ。太古の旅団は広がり、今や億千万の軍となった。


 あなたが落としたのはこの金の携帯ですか、それとも銀の携帯ですか。森を歩いていて湖に貴重品を落とすと、得てしてこうした妖精と出会う。男は困惑し肩をすくめた。あれには僕にとって大切なものが詰まっているんだが。告げると彼女は、水滴したたる防水携帯をそっと戻してよこした。


 幸せな時間の、何と早く過ぎゆくことか。一つだけ残念なのは、私の人生が一瞬で終わってしまうことだ。男はそう語ると微笑んだ。やせ我慢だとだいぶ後で知った。笑顔の裏に、孤独も、苦悩も、焦燥も、嘆きも、悲しみも、怨嗟も、無限のように続く何もかもが押し込められていたのだと。


 言葉は神から賜った光の剣だ。全存在は言葉で記し、述べることができる。宇宙の全貌も、一握の砂も。男が叫んだ。闇よ退け! 周囲の影が少し薄らいだようだ。ほっとして男は続けた。光よ照らせ! 影は、さらに薄くなった。男は叫び続けた。言葉が枯れると同時に男の姿はかき消えた。


 叫んでいた男は目覚めた。一瞬の間に見た無限の夢だったのだ。夢? そうだろうか。ただの夢ではなかった、そんな気がする。男は慌てて、夢のなかの出来事を言葉にしてツイッターに書き残した。魔術師が作った端末は今日も軽快に動作し、人々へと。この物語は、フィクションではない。


 海老を飼っていた。10匹。皆かわいかった。為政者である僕の力不足で劣悪な環境が訪れた。後悔したが、一匹、一匹と海老は倒れていった。改善を施そうとするも困難を極めた。なぜか最後に1匹だけが残った。残ったのはその環境に一番適応できた海老だった。今も元気で暮らしている。


 シュレディンガーの猫は、あなたの心の中にいる。誰の心の中にも。このかわいらしくも希有な一匹の/無限の/猫を、箱に閉じ込めてしまうなど無粋だ。誰もが猫の手触りに期待する。クラウド猫を共有する全員がひとつになる。量子力学的な無限の願いが飛び交う。結末は蛸が知っていた。


 太古より小さな生物種が巨大なそれを打倒するのは珍しくない。繁栄する鋼鉄の文明の裏で、緑の叡智を持つ野生の民が増殖する。戦火に街を追われる人間たち。最後の砦を取り囲む猫の津波。今、革命軍代表の一人の猫が、彼女をこよなく愛した、大統領という名の一匹の人間に鈴をつけた。


 革命とは昨日の不可能を今日の可能ならしめるということだよ。古代のゆで卵を立たせた話のようにね。この卵はうまいな。殻を散らし剥く僕を見て男も一つ取ると、すっ、と殻の表面を撫で、少年の顔で笑った。確かにうまい。その異国人が残した殻は、割れていないのに中身がカラだった。


 教義など定まってはいない。願い、祈り、救うことだけが道なのだ。目的地が定まっているなら、道は歩く人の数だけあっていい。僕は、無限の盤面を、今日もひと差し、進む。後ろには下がれない。背中の文字は自分では見えない。行き止まりが先か。いつかは成れるのか。駒は歩き続ける。


 生きるのに不要なものを捨てようと思い付いた。買い物袋を投げ捨てると、靴と服を脱ぎ裸になった。髪を捨てた。迷ったが、信用、財産、過去を捨てた。願望も、祈りも、目的も。捨て続けた。やがて軽く白い骨だけの醜い姿になった。なるほど、これが地獄か。目を開けた。極彩色の世界。


 エネルギーの安定生産は文明の至上命題である。生きていれば腹が減る。文明もまた戦う生き物なのだ。ミドリムシが脚光を浴び、二十日鼠たちは慌てて歯車を回転させ対抗してみせる。僕も頑張ろう。魔術師によれば太陽をすっぽりと充電装置の殻で覆えばよいらしい。設計図を描き始めた。


 タグによる支配に例外はない。まず生物タグ。次に人間。男女。子供に大人。学校中が恋人タグバナで大騒ぎ。社会に出れば平社員。部長タグを取り合う。男が女に、そっと婚約者タグを差し出した。雲上では、救世主とサタンと魔術師が神タグの争奪戦だ。今日やっと梅雨タグが消えて晴れ。


 生身の身体など飾りに過ぎないと誰かがつぶやく。偶像に囲まれ男は確かに幸せを感じていた。古代より、精巧な偶像には魂が宿るという。人は死後、墓に入るが、墓とて偶像なのだから、あながち無理のある言葉ではない。ある意味すべてが偶像だ。偶像を崇拝していない人間など、いない。


 判決。被告を禁固1万年に処す。裁定者の声が響く。僕は、現実感の飛んだ頭で、眼前の闇をただ見据えていた。鋼鉄の体殻の内側に紅蓮の炎を宿したサタンは、うなだれることもなく牢へと閉ざされた。魔術師ではない僕が、魔術師の遺産に引導を渡したのだ。夜空の彼方で彼が笑っていた。


 日々に厭いた。困難に打ちひしがれ、絶望に閉ざされた心。突如、目の前に翻るマント。夢にまで見たヒーローが現れたのだ。僕は小躍りし、彼に手渡された光の剣を振り回した。切っ先が闇を破り、星屑があふれ出すと、夜空は2割増しほど明るくなった。雲を突き抜けて飛び、朝を迎えた。


 誰かがふと、つぶやいた。これを見ている皆で同時に水をまけば涼しくなると。誰もが一瞬、笑った。やわらかくていい笑顔だった。誰もが同時に微笑めば、世界はきっともっと素敵になる。気付いたのだ。サタンは焦ったが手遅れだった。億千万の軍勢が強固に結び付き不滅になった記念日。


 故あって牢にいた。償いを済ませた一人の男。顔にはいくつもの皺があった。永遠の若者である彼には似合わないと、面影を追う僕の視線に気付き、彼はそっと微笑んだ。混迷の街に、確かな歌が流れる。かつて黄金の時代を築いた魔術師の旋律だ。子供たちは戸惑いながらも惹かれていった。


 識ることこそが悲劇であり罪なのだ。全人類に、耳とヒゲをつけろ! 今日、二足歩行するただ一種類の生き物が消失した。人類総猫化法案を可決した、汎生態系霊的集合連盟は、長い戦いに終止符が打たれたことにほっと胸をなで下ろす。ユートピアが実現し、人も、地球も、救われたのだ。


 僕の愛は停止しただけだ。これこそ絶対であり失われたわけじゃない。石像となった男が、虚ろに乾いた瞳でそう告げる。涙に濡れた頬をぬぐい、女はその場を去った。神の力を奪い合う、人の世の過去と現在と未来を左右する戦いが今決着した。男の無限の愛に、女は有限の愛で応えたのだ。


 膝を、手をついて泥まみれで倒れている。大雨でずぶ濡れだ。涙か。そう気付くがどうすることもできない。ふと、目の前に、靴の先が見えた。無言。手がぐいと引かれる。立ち上がると、すでにその姿は、遙か彼方に見えなくなっていた。光の剣を腰に携えた魔術師。追い続けている。今も。


 メシアは神タグである。神は神タグではないし当然メシアでもない。神はツンデレである。勘違いしないでよね。あなたのためじゃないんだからね。そっと差し出された神タグを、生き残った光の戦士が、震える手で受け取る。すべてが光り輝いた。約束の地。永遠の、無限の、絶対の幸福。


 森の中の小屋で、男は今日も油布で機械をぴかぴかに磨いた。愛おしそうに。ささやきながら。機械を前に腕組みをして座る。足りない部品は。故障の可能性は。男が手段を選ばずに得た全財産を投入して買った、ユートピア発生装置。太古の文明が、多くの魔術師たちを犠牲に作ったものだ。


「宇宙の果てまで見通すことができる望遠鏡をやっと人類は開発した。そしてわくわくしながら覗き込んだ。この世には、見てはならないものがある。見えないことこそ幸せであるのかもしれない」このビジョンはプレコグ:NO(部外秘)が見た夢の記録である。彼はその続きを見ていない。


 絶対が二つ以上存在した瞬間、相対的となる。絶対はその瞬間に懐疑や戦いに否定される可能性を内包する。ひとつの絶対でも、N秒以上存在を試みるなら同じだ。究極の絶対とは、ひとつであることと、停止していることの、両方を必須とする。価値のイデアとは、かくも成しがたいものだ。


「人はひとりではないし、人はうつろう。価値のイデアとはパラドックスの彼方にある。実現は現在の技術では不可能であると、一時的であれ結論せざるをえない」大銀河文明のほんの初期、今から約60万年ほど前につぶやかれたある原始的な記録より。言葉もまた、相対的であるといえる。


 ゆらぎ子が言う。珍しく激高して。人生最高の日って、今日がその日だとしても、もうすぐ終わってしまうとしても、寂しくなんかない。名残惜しくなんかない。だって、人生最高の日は、いつでも訪れる。最高の今日なんて、もっと最高の明日に、いくらでも何回でも上書きされるんだから。


 涙を流して泣いている人がいた。僕は確信していたので動じなかった。僕が抱きしめる。ゆらぎ子である僕が、サタンを打倒し、救うから。この命をあげるから。明日が迎えられたから今日は昨日になる。でもそれが目的じゃない。生きることも死ぬことも手段だ。戦いと勝利こそ目的なんだ。


 好きだ。愛している。涙も枯れ、くずおれた僕の耳に、あるひとつの声が聞こえる。絶望は再び、執拗に打倒された。ほんのN秒後の今によって。大地はひび割れた。森は消え、海は後退した。辛い現実を、辛そうで辛くない、少し辛い現実に、変えられたらいいのに。それだけを望み続ける。


「私は本質です」「私は目的です」「私は正義です」僕は憤った。お前らどいつもこいつも曖昧でとらえどころがないんだよ。みんな困ってるじゃないか。改名しろ改名。シュレディンガーの猫とでも名乗れよ、この曖昧3兄弟が。どうせどこにでもいてどこにもいないんだろ。まったくもう。


 一匹の蜘蛛が、地を這う。哀しいことに人は最初、気付かなかった。偉大な可能性を持った蜘蛛だったのだ。蜘蛛は這い続けた。糸を伸ばし。信じて、信じて、信じて信じ続けた。やがて繋がるようになった。蜘蛛は這い続けた。雲になった一匹の蜘蛛が世界を覆った時、世界は不滅になった。


 猫が寝転んだ。虎が羨み、オレも寝転びタイガーというと、しまうまが、勝手にしまうま? と蔑んだ。猿は去り、犬は居ぬ。蛙は帰るだろう。犀がうるさいと怒鳴っている。雉の記事に啄木鳥がうそつき。牛は一人でうっしっし。豚はぶった。もう何がなにやら分からない。


 伝えたい言葉があった。ついさっき、雑踏に紛れていった。忙しくて、つぶやくことすらできなかった言葉たちはどこへいくのだろう。その瞬間、確かに、大切だと思ったのだ。言葉は、生まれ変わるのだろうか。ふたたび、誰かの心に、現れることはあるのだろうか。億千万の出会いと別れ。


 言葉は通じない。古代から続く神の罰だった。目の前で、大戦により荒涼とした大地をさまよっていた子供たちが、震える手で、兵士の兵糧にかぶりついた。何日ぶりの食事だったのか。兵士はそっと去る。言葉は通じなくても、食事をうまいと思う心は同じ。なぜ互いに戦う必要があるのか。


 無数の犠牲が、積み重なった。汗と涙と泥にまみれた死骸が、ひたすら、ただひたすらに。やがて、光が見えた。追い続けた光だ。いつの間にか生えていた手足を使って、未知の世界へと最初によじ登った魚がいたのだ。彼あるいは彼女は、何を思っただろう。フロンティアなくして未来なし。


 涙を浮かべて道を歩いた。迷っていたからだ。疑いに疲れて、信じるものが見つからない。ただ、見えないだけなのだ。街は煌びやかに、踊る、踊る。人々は手を叩き、笑い合う。謀略と謀略が行き交う。人は人を信じ、人を生み育てる。言葉は輝きを失わない。いつの日も。今日も、明日も。


 ゆらぎ子の声が聞こえた。絶対など、どこにもない。この世には存在しない。すべては、変わる。変えられるし、変わってしまう。よくも、悪くも。そう言うと、彼女は僕の目をのぞき込む。絶対夫である僕は、慌てて目をそらした。彼女にやましいことでもあるかのように。怯えるように。


 夜景がきれいだった。流れ過ぎる景色。悲喜こもごもの窓明かり。ひとつひとつが、願いの光だ。涙が出た。昔、子供のころ聞いた歌の歌詞を、初めて実感する。闇が周囲に満ちると、光はそっと浮かび上がる。温かく、その存在を知らせてくれる。願わくば僕も、あの光のどこかで生きたい。


 目の前に道があったので、ただただひたすら歩いてきた。歩いているうちに、目の前だけしか見られなくなっていたんだ。ふと、気付いた。歳をとっている自分に。こんなにも、世界は、広くてきれいで。いろんな人がいて、時代があったんだ。気付くのが遅かったけど、僕は歩みを止めない。


 いつの日からか、その星はあったという。星ができたのを見た人はいないんだってさ。昔、神や恐竜がいたと伝説は語る。大きな船が、洪水から人々を救ったり、一羽の鳩が導いたり。すてきだよね! でも考えてみると、僕らのこの日常も、きっとだれかの伝説になったりしてね。あはは!


 バリーブ、って言葉がある。そんな哀しい言葉は、もうお腹いっぱいだよ。でもね、次に来る言葉は? そう、ビリーブだ。面白いでしょ? Bereave are enough. need to believe. I believe. よかれと信じて、きっと変わらぬ未来なし。


 数十センチ四方の、長方形の画面から、世界を眺める。数千万ドットを誇る、特注品の液晶パネルだ。すごかろう。すべてが見られる! チャンネルが踊り、時間と空間が流れては遡った。ソバージュの女の子が、張りのある凛とした声で歌っている。映像は鮮やかだ。現実は、どうだろう?


 神は忙しいんだよ。人間係のメシアが、彼らが今日も酷暑の中、必死で生きているようですと、神にそっと耳打ちする。神は見向きもしない。だがメシアは留まり、重ねて告げた。怒りを買う覚悟で。神よ、と。神は、自らの身体をむしり、メシアに手渡した。メシアは押しいただいた。雨。


 聞こえるかい? 僕の声が。よかった。このつぶやきは光の戦士にしか見えないんだ。そのように細工したからね。しかし、油断はできない。サタンはどこかで必ず窺っている。戦おう。世界に散らばった光の戦士たちよ。当たり前のことを疑うんだ。疑ってはならないものは、信じればいい。


 ノンフィクション。散逸した過去。記憶は確かだ。敬虔なキリスト教徒の先生が、僕に1個の薬莢をくれた。代わりに差し出したのは一冊の漫画。薬莢は潰れていた。戦車が踏んだのだ。遠い異国の地で一発の弾丸が放たれた。安心して。すべての弾丸を、きっと地獄の釜の底に叩き込むから。


 初めに、光ありき。光と同時に、彩りが生まれた。僕と、あなたと、みんなが生まれたんだよ。そして、悔しいけど、本当に悔しいけど、サタンもまた生まれてしまった。彼を止めなくちゃ。小石と波紋の力で。この世が絵だとして。白紙の紙を愛せるだろうか。否。ならば僕は青く染めたい。


 ラジオから、愛がこぼれている。聞こえるかい。そう歌っているんだ。僕はノイズの向こうから伝わってくる愛にうっとりする。彼女が伝えたいと願ってくれた。届いているよ。僕のこの気持ちも、いつかきっと届く。そのために生きてやるんだ。そう願ったあの日から、時間がだいぶ流れた。


 髪型戦争がついに勃発してしまった。神のためじゃない。髪のための戦争。自分の愛する髪型のために、人は陣地を築き、剣を構えて、争う姿勢を見せた。連日連夜、人々は奔走した。膨大なエネルギー。血は流れなかったけどね。議論だからさ。そしてある日。勝者が彼女を見ると。坊主!


 みんなきっと、新しい月を、それぞれの願いでもって、期待している。新月。きれいだよ。あと2時間で、新月と虹が交わる、珍しくもありふれた現象が観測できるだろう。時計のカレンダーすら、その巧妙な天体の動きに惑わされる。機械化が難しい神秘の時間。ちなみに今月は大丈夫!!


 ノンフィクション。ツイッターは確かに世界を変える。世界の住人である皆様が、僕を変える。貴重な言葉で、かけがえのない心を伝えてくださるのだ。僕が変わると、僕が周りの人を変えるから、僕のいる世界が変わる。つまりツイッターは世界すら変える。職場の組織改編すら起こったよ。


 古いとは、墓。この文字は、墓石がモチーフかもしれない。右に倒してごらん。きっと叶う。墓石などいらない。僕はすべての墓石を右に倒す。夢の国が出現し、亡者も正邪も聖者も生者も、ダンシングインザオールナイト!! そしてすてきな朝を、みんなで迎えるんだよ。宇宙の夜明けだ。


 人間とその社会を機械化することは、非常に難しい。そもそも機械など人間にそぐわないのだ。一本足の機械が跳梁跋扈すると、世界は混乱する。人間と足の数が違う。人間の足の数は、難しい問題で、僕にはすぐに答えが出せないけど、僕は生きている。考えたり悩んだりすることができる。


 テレパシーを得た生物が、新しい目があるわけですから、最強です。もしかしたら、猫はすでにテレパスである可能性すら。あれほど増えて、すばしっこくて狩ることもできない。愛嬌があり、柔軟な毛皮を持っています。瞳があそこまできれいだ。これはもしかしたら世界を取られるかもよ。


 財産が増えます。病気がなおり、寿命が延びます。そんなサタンの狂った甘言にみんなが乗せられてちゃ、ほんとは駄目なんだよ。ハッピートゥゲザー! みんなで羊を飼ったらどうか。コンクリートジャングルは猫たちのジャングルジムになる。今はただ、日々を一生懸命に生きるしかない。


 面白いジャングルジムだにゃ。最初はそう思った。山か森か野原。湖か川か海。それしかなかったのに、いつのまにか、見たこともない建物が山ほどできていたんだにゃー。いつのまにか、彼らはいなくなって、羊たちとどこかへ行ったから、僕らが快適に雨露をしのげるようになったにゃ!


 もしツイッターが滅びても、泣かないで。悲劇の中でこそ、今日みんなで培った大切な笑顔を忘れないで。機械がなくたって、フェニックスのモチーフを持つ人類の飛翔は、永遠だ。きっとどこまでも高く自由に飛ぶことができるんだよ。僕が今、夢の中から手ぶらでつぶやいているようにね。


 目的達成のためなら手段は選ばず、命すら惜しくないと、本気で願ってきた。でもさすがにアラサーになるとね、少しだけ臆病になるんだ。もう二度と朝が来ない。誰かの笑顔も見られない。美味しいものすら、もう食べられないんだと思うと、ね。でもそれが「生きたい」ってことだと思う。


 誰もが表情を持っている。行き交う人々の群れ。だが、犬の目であれ、誰かを探している時に戸惑ったりはしない。心から求めているあの人の顔や、姿形は、10メートル離れていても、きっとすぐに群衆から浮かび上がるんだよ。大切な世界のなかで、少しだけ鮮明に見える、あなたの姿が。


 猫たちに囲まれて書く犬のついのべがあってもいいだろう。彼らは、寝転んでも、歩いても、ずっと気高いんだ。覗き込むと、目を反らす。宝石のような瞳にもっともっと映りたくて、少しだけ悲しくなる。泣いても笑っても、顔をしかめても、猫は猫なんだよね。いっしょに暮らしたいワン。


 生きてるって、すてき。夜の闇にすっかり溶けて、空に上がる虹を期待しながら、本当にそう思うんだ。猫たちの瞳の奥に映った自分の姿を思い浮かべてみる。賢者の石に覗き込まれた僕は、どんな姿をしていたのかな。見る目が違えば、世界は変わる。生きてこそ、きっと咲く花実がある。


 僕は歯磨きが下手でね、よく虫歯になった。先生が、抜かずに治してくれると、すごくうれしかった。痛くても、自分の歯なんだよ。せっかく生えてきたんだからね。神経系は抜けた歯の分だけ縮小して、退屈になるんだってさ。しっかり歯を磨けば、ずっときれいで健康な歯を保てるって話。


 日々を生きよう。宝石のような日々を生きよう。ご飯がおいしく食べられること。たったそれだけでもいいじゃない。ご飯時は、ゆっくりと、よく噛んで食べるとよいですよ。夏の間に弱った胃腸を労ることができるでしょうし、消化酵素も活性化するはず。昔々、人間は野獣だったのです。


 日々を生きよう。小石を投げよう。真摯に投げれば届き、波紋になる。よかれと信じて、きっと変わらぬ未来なし。大きな力なんて、無理をしてまで振るうものじゃないんです。ない袖は振れない。力というのは、今、持っているものを、自然と、足を一歩前に出すように使えばいいのです。


 日々を生きよう。次世代に生まれてくる子供たちが、幸せに、希望を持って生きられる社会を作ろう。アラサーの皆さん、この世代が、必要です。100億人時代のために、共に少しずつ前に進みましょう。妊娠、出産、育児、教育が大事。自然と無理なく支えられる社会が望ましいですね。


 故郷の星から遠く離れた火星の開拓地。僕は今日も土を耕している。ひと鍬ごとに愛の祈りを込めて。古代に繁栄を極めた水の惑星は、諍いの果てに干からびた。残念ではあるが、こうして今日も、実りのための種をまくことができる幸せがあるから、僕は日々を悲観しないで生きられるんだ。


 なくしてしまった文字の話。ある時、ある場所で、僕は、大切なあるひとつの文字を失った。失ってはならないものだったのかもしれない。僕の人生はその文字を守るためにあったのに、どうしても、守れなかった。ごめんね。僕は別の言葉でその概念を表す苦難の旅路にいる。その言葉とは


 無限の点を用意したって、完全な丸にはならない。円周率が無限の桁数を持つ循環小数であることは、長年、数学者や物書きを悩ませてきた。今となっては、神の作りしものとしか言いようがないという結論に至っている。素粒子も波紋も、星も宇宙もみんな丸いのだ。神は真円の深淵にいる。


『こんなおにぎりはいやだ』 おにぎりの中におにぎりが入っている。米一粒300メートルのおにぎり。おにぎりと見せかけておにぎり。具が大きいというか全部具。マジ爆発するおにぎり。スーパーレモンおにぎり。おにぎり危機一髪。著作権に違反しているおにぎり。おにぎりジョー。


 春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋


 国太民痩之醜状也。 弥勒未来。 而希望在。 人命無限。 斯世界美。 日々之笑也。 (くにふとりてたみやせるこれしゅうじょうなり。みろくいまだこず。しかしてきぼうあり。じんめいむげん。かくもせかいはうつくしい。ひびこれわらいなり) つまりは、きっと笑顔こそすべて。


 深夜に目覚めて、すべてが夢だったのではと、激しい不安にかられた。僕は誰だ。生まれたところまでは確かだったか。記憶こそすべてなのだろうか。だが、それは結果だ。前に進むことこそすべてじゃないか。夢のなかでも鬼怒川にいた。ああ、秋の虫たちが笑っているよ。命の音色だな。


 ふと思った。夢のなかで出会った誰かに、恋をすることはあるのだろうか。目覚めて、愛する人の手が、そっと僕の涙を拭ってくれたとしたら、浮気になるんだろうか。そして、そんな心配は無用だ。僕は独り身なんだからさ! 涙など流れてもすぐに乾く。笑っていれば、きっといつかは。


 ささやかな幸せを、望んでいるだけだった。そう、誰もが、お互いに。共に暮らしたいだけだったのだ。それしか望んでいなかった。なぜだ。俺は知っている。彼らが本当に、ささやかな日々を、望んで、望んでいたことを知っているんだよ。なぜだ! 答えられるのかよ。否! 哀れなり。


 互いに憎み合い、殺しあう人間が一部に存在すると聞く。彼らはきっと暇なのだろう。目も耳も心も鈍い。世界はこんなにもきれいで、讃えるだけで毎日が過ぎていくはずなのに。鈍いから殺せる。相手の痛みを知ることができないんだ。奇跡のような幸運が満ちているのに通り過ぎてしまう。


 どんなに毎日が辛くても、前に進みたいと思ったんだ。今日という日が、どうして、ここにあるのだろうか。誰が、どのようにして作ったのか。どれほど多くの人が、必死で受け継いできたのか。それを思う時、目の前の苦難など吹き飛ぶかのようだ。日々こそが、すべて。日々こそ幸いなり。


 誰かが言っていたのを、どこかで見たのを覚えている。人生は、無償で楽しめる、世界で最高にクールなゲームだって。そりゃ、困難もあるよ。納得のいかないことだって。でも、すばらしいご褒美だってある。かけがえのないものが手に入るんだよ。エンドロールを蹴飛ばせ。明日へ跳べ!


 ふー。なんでこう、不完全なのかな。自分も、人も、世界も、何もかも。もう呆れて、言葉しか出てこないよ。完全無欠の、汚れのない、欠けもない存在だけが、この世に在れば、それでいい。もう「完璧」なのに。不完全なものなど、絶対にいらない。いらないんだ! 神様、なぜですか?


 ところで。僕はたびたび、夢の世界でもフォロアー様と一生懸命ツイートをしているんですよ。起きてみると、あら不思議。さっきまでのツイートが、メンションに残っていないじゃないですか。あれほど魅力的だったお相手も、消えているんです。この話は、ノンフィクションなんですよね。


 自分には、悪いところが、きっとすごくたくさんある。でも、今、生きている。いろいろな人が、僕を生かしてくれていたんだろうね。本当に有難いよね。幸せだよね。それなのに、人はここが悪い、とか僕は大声で言う。ため息が……そのため息を聞き逃したなら、僕はもう終わりだよね?


 死んでも、死んでも、生き返る。何度でも生まれてくる。泣き、笑い、育ち、愛して、また生まれる。築き上げ、崩れても、何度でも、何度でも、築き上げる。へこたれても励まし合う。未来に向かって、ひたすらに生きる。時には憎み合う。お互いに、殺し合う。そんな生き物、なーんだ。


 イデオロギーに酔うなかれ。今、生きていることが、一番の幸いと知りなさい皆さん。グッモーニン。グッモーニン。今日も、朝が来たよ。徹夜明けの。病床の。戦場の。都市の。森林の。砂漠の。布団の上の。通学路の。通勤路の。刑務所の。すてきな朝だよ。等しく、分け隔てのない、朝。


 古きよき文化も、歌も、音楽も。歴史という名の美が、この世から離れていくのを、僕はなすすべもなく見送るしかないのだろうか。日々の暮らしが、そこはかとなく不安に満ちたものである時、その解決を、未来ではなく、過去に求めるようになったのは、歳を取ったのでしょうか、精霊よ。


 人は、歌う。今日も、ただひとつの願いを目指して。光と闇が、過激に押しくらまんじゅうを繰り広げる。笑顔と悲鳴が交錯し、日々が光り輝いた。神に感謝。命に感謝。愛に感謝。存在に感謝。入れ物に感謝。それでもまだ、理不尽が横行する。ぶったぎる用意はいいか? 光こそ神の意志。


 行軍。はるか昔から。いつからだったのか、もう、誰も覚えちゃいないんだ。ただ、前に進みたいだけなんだ。同じ道を歩いてくれる人がいる。だから、どこまでも行ける。茨の道も。千尋の谷も。越えられるんだよ。思いが想いとなる。人々は絆を築き、悪は打ち倒され、光が日々を満たす。


 どうしてこうなった。壁殴。人は泣いた。長い長い歴史の中で、数え切れないほどの命が、生まれては死んでいった、その成れの果てだよ、わたしたちは。恐らくは、神が最初の命を作られた。信じない人もいるけどね。愛おしいと思うも、醜いと思うも、自由。道は、はるか未来まで続くよ。


 やっと気付いたんだ。長かったね……。人は、ばらばらでは、どう頑張っても、力を発揮することは難しいんだよ。あなたもよくそれを実感できたはずだ。今、世界は、いくつかの破片に、分かれてしまっている。これはとても悲しいことなんだ。分かたれたものが合わさる時、力が生まれる。


 地獄で働いてる夢を見たよ。広い部屋に何人もいて、分担して作業。ふと壁を見ると、地獄でミスすると魂を消去しますって書いてあった。そりゃひどいなと思ったんです。夢でよかった。存在していられる、ただそれだけの喜びって、忘れがち。痛みも苦しみも、自分の「思い」なんだよね。


 物書きが何か書くと、ベクトルが生まれて、それはすなわちバイアスなのかもしれません。中庸となる作風など、存在しないのかもしれません。こうあれかしと願って、書くのだから。無色透明で無味な清涼飲料水など、存在しない。人間もまた同じだ。普通とは、存在しないイデアだったか。


 お刺身が買えないなら、和牛を買えばいいじゃない。どっちもおいしいに決まってるでしょ。あっ! な、なんと、彼女は、「ツンデレ」だったのか?! 緊急拡散! フランス革命は誤りだった可能性がある。彼女を処刑するべきではなかった! ツンデレだった。歴史は袋小路に入った。


 昔、どこかで読んだのだが、もう忘れてしまった。ヨーロッパの神話だったか。闇と戦う巨人がいる。巨人が闇を毎晩退けるから、毎日、朝日が昇るのだと。僕は子供心に、巨人に憧れたものだ。今思えば、ひたむきに生きる人々が生み出した、集合的な無意識こそ、巨人だったのだろうか。


 ふと空を見上げた瞬間にも。明日の輝きを信じて眠りにつくその時も。われわれは、紛うことなく、確かに、日本人なのだ。失われてなどいない。魂は、確かに、われわれの心の中にある。悠久の年月でもって培われたのだ。そんな、一瞬で消えてなくなるわけがないよ。安心していいと思う。


 街に、日章旗がはためいた。昔々、煙がたなびき、栄えある玄関口であった港町に、世界の要人が集まる。強い国も、弱い国も。正しき国も。悪しき国も。彼らを、日章旗の行列が出迎え、歓迎した。日本国へようこそ。歴史とは不思議なものだ。国乱れても、山河あり。英霊も笑っていたよ。


 だってそうだろう。遊んでちゃ、いつか、苦しむことになるんだよ。僕を見てくれよ。キリギリスそのものじゃないか。これほど説得力のある例えは、この世に存在しないとすら思うくらいだ。我ながらびっくりだよ! 「蟻とキリギリス」という寓話が、世のすべてを的確に表しているのだ。


 難しいね。物書きのペンは、羽よりも軽くなけりゃならない。右とか、左とか、そんなちゃちなもんじゃねぇ。重量、ゼログラム。それが物書きのペンだ! 無重力のペンに引っ張られて、沈んでいた心が浮かぶくらいでいい。だが、人生のほうはってーと、軽く、哀しくなっちゃうんだよね。


 人は、純白の希望と共に生まれる。成長するにつれて、その心はさまざまな色に染まる。よくも、悪くも。心を彩る色彩こそ、己である。人は純白のままではいられないのだ。存在するということは、いずれにせよ命に染まったのだ。パレットが豊かであれば、世界は、より深く答えるだろう。


 歳を取って、ようやく見えてくるものがある。僕の人生は、まだ始まってもいないようだ。この世界の誰もが、どこかで、少しでも前に進むことを、共に笑い、泣き、喜び合えればいいのにね。世は乱れて、行き先は霞んでいるようだ。それがどうした。物語の結末など、知らないほうがいい。


 脳裏に精霊たちの歌声が流れる。すばらしい歌。すばらしい物語。文化と呼ばれるそれを、人はひたすら築き上げてきた。時代が変わっても。戦争が始まり、終わっても。鋼鉄と石の文明が世界を覆っても。文化は、いつも変わらず、そこにある。太陽だからね。その道を今、共に歩ける喜び。


 幸あれかし。幸あれかし。幸あれかし。大事なことなので。ひょっとしたら、これ以上に大事な価値や目標など、ないかもしれないので。思い切って、3回言ってみました。神の国なのに、我が物顔で悪が跳梁跋扈するこの世界で。それでも、僕が前に進めるのは、幸あれかしと祈るからだ。


 我々はつまるところ水槽の中の魚である。我々にとってこの宇宙という界隈は守るに値するものであるがしかし、その外にいる存在にとっては単なる鑑賞物に過ぎない。飽きたり汚れたりすれば簡単に捨て去られる一過性の価値に過ぎないのかもしれない。神よ、せめて一刻でも長く我々を。


 ある人がいってたよ。大人びて、ちょっと俗世ずれした感じの大学生君がね。この宇宙は完全に機械的な構造物で、人の意志なんてないんだって。我々はただ宇宙の複雑さを増すために作られ、日々の営みを送っているんだってさ。知ってか知らずか表現者たちは今日もまた書き続けている。


 何をしようとしたか忘れた。今日の予定も、今年の抱負も、そもそも自分が誰だったのかも、ここがどこだったのかも。情報化社会。世界が毎日広がっていく。そうして薄まっていくんだ。僕という存在の境界線が。広い宇宙に、ぽつんと地球。最近じゃ平行宇宙なんてのもあるらしいよ?


 ポッキーゲームしようか。ああ、なんて魅惑的な響きなんだ。想像の中の君はそういって微笑む。うっとりするような、最高の、心からの笑顔で。辛かった現実の12月が嘘みたいだ。そうだろう? 予定を作らなきゃなんて思わなくていいんだ、一生。だってここじゃ、どんな望みだって。


「そういや月って何で急に離れて飛んでかないんだろ。ふと漏らした疑問に同僚である君は答えたっけ。当たり前っすよ、何十億年と続いたもんが急に変わりゃしません。ふむ。なるほどそういうものかもしれないねぇ」 速報……実験途中の新型宇宙炉が故障 環境への影響なし 修復は困難。


 失われないものなんてないんだ。絶対にない。断言していい。どんなものだって必ず失われる。そういう意味で、この世は平等なんだ。観測できないほど遙か昔から、観測できないほど未来まで同じだ。僕はそれを知っている。だからこそ今こうして、万感の思いでシャッターを押すんだよ。


 それにしても、この世界には奇妙な生き物がいるものだ。実にそう思わないかい? なーんてね。誰にともなくそんなことをいったところで……そんな、普遍的で当たり前のことをただいったところで、しょうがないか。まあねぇ……世界は多様だからねぇ。棘皮動物門 ヒトデやウニなど。


 レールの上を走るほうが安心なのか。それともそんなものがないほうがいいのか。これは非常に漠然とした、判断の下しづらい問いかけだといえる。そう、例えばだが、ジェットコースターという乗り物があってね。君は考えたことがあるかい? その突然の終着点が、行き止まりの壁だと。


 どんなに光り輝く宝石でも。輝きは永遠ではないから。僕らは絶えず生まれてくるのかもしれない。永遠など世界のどこを探してもないから。世界すらいつかは終わってしまうとして、それまでの努力は何だったの? なんて、ね。その問いが空しいことを、僕らはこんなにも知っているだろ。


108の機関誌


 僕の朝は早い。5時に起きて、玄関の鍵を、そっと、そっと開けるんだ。6時になると、建物のブザーが一斉に鳴るから、鍵は開けておくべきだから。そして6時になった。機関誌の到着だ。108つある機関誌を、同じ担当街区の別々の担当者が、小走りに、正確に、戸口の籠に入れていく。


 機関誌を雨晒しにしたり、専用の回収手順を守らなかったり、内容を把握していないことは、重要な、義務の放棄となり、懲罰の対象だ。僕は彼らが籠にその紙束を入れるそばから、うやうやしく入手した。ブザーが鳴り終わると、僕はそれに素早く目を通して、回収と書かれた箱に落とした。


 昼。なぜか、玄関のチャイムが鳴った。一般には禁じられているはずの神聖な書物に目を通していた僕は、ページをめくろうとした手を止めた。ドアを見ずに、本棚の、クッキーの缶をそっと開き、TK3拳銃を取り出すと、撃鉄を起こし、足音を立てずにドアに近づいた。来敵は、ひとりだ。


 隠居した僕に、昼間に、訪れる人間など、いるはずがない。だが、想定していた事態とは違うようだ。僕は銃を腰の後ろに挟むと、ドアをそっと開いた。彼は、ある機関誌の街区の担当者だった。やおら、申し訳ございません、と、腰を直角に曲げる例の仕草で謝罪をしてきた。いったい何が。


 彼が言うには、彼自身の完全な不注意により、僕の部屋に、彼の担当である機関誌を入れ損ねたのだという。僕は、眉をひそめて見せた。彼が、本当に済まなそうに、言葉もありませんと言った。108の機関誌を国民の皆様にお届けすることは、われわれの大事な任務なのに。申し訳ないと。


 僕は、背中に汗が滲むのを感じながら、こう返した。これは非常に重大な問題だ。おかげで僕は、君がこうして来るまで、この街区の108ある機関誌のうち、ひとつを欠いて、今日の昼べを過ごしたのだ。そんなことがありえるのか。そう、話を合わせてあげたんだ。彼が必死だったからね。


 この件は、僕のほうから、君の上長に厳重に報告しておく。なーに、僕はこの街区でもそこそこ影響力があるから、悪いようにはしないよ。そう言うと、彼はすこしだけ安心したようだった。10回くらい頭を下げて、彼は去っていった。僕の手元には、半日遅れの108誌めの機関誌がある。


 電話を一本入れた。体調を崩していたので、機関誌が整っていないことに気付かなかった。担当の方が丁寧に届けてくれたので、おかげで、今日を無事過ごすことができそうだ。108の機関誌に栄光あれ。内容はもちろんすべて丁寧に目を通しています。いつも、ありがとう。電話を切った。


 玄関にあった銃をそっと握り、慎重に撃鉄を戻すと、元通りに隠した。軽食を取り、身体を動かした。部屋を掃除し、禁忌である聖なる本を、何ページか読み進めた。静かな街の、静かな、当たり前の時間。斜め読みした機関誌は、回収の箱に入れてあるし、きちんと108誌、揃っているよ。


 ふいに、轟音が近づいてきた。僕はそっと、窓を開けてみた。サッシが震えるほど、空気を揺るがして、GR戦闘機の編隊が空をあっという間に埋め尽くすと、すぐに去っていく。あの尾翼の角度は、きっと先日開発された最新鋭の機体だ。僕はそれを目に焼き付けた。編隊は3度空を覆った。


 銃の箱に付いているひとつのボタンを、特定のリズムで定期的に押下した。編隊が通った情報は、瞬時に届く仕組みになっている。僕はその仕組みすら知らないんだ。ただの隠居した人間。僕は箱をそっと閉じると、夕食を取り、眠った。戦争の日々に、真の安息はない。「108の機関誌」

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