第307話 癒しの時間と後輩ちゃん
鼻血を噴き出して大量出血した俺は、貧血でフラフラしながらも、洗濯などの家事をした。
頑張った。非常に頑張った。後輩ちゃんと桜先生は家事能力皆無だから、俺がするしかないんだ。血が足りないのに家事を頑張る俺って偉い!
「そうですね。先輩は偉いです! 感謝の気持ちを込めてナデナデしてあげましょう。へいっ! かも~ん!」
寝室のベッドの上に座った後輩ちゃんが、太ももをペチペチと叩いている。どうやら、膝枕してあげる、ということらしい。
くっ! とても魅力的な提案なのだが、今日は後輩ちゃんのことをとても意識してしまっている。そんな状況で膝枕されたら、俺はどうにかなってしまいそうだ。具体的にはまた鼻血が噴き出すとか…。
「先輩かも~ん♡」
妖艶な微笑みを浮かべた後輩ちゃんは、クイックイッと手招きしてくる。俺は無意識にフラフラと近寄ってしまった。無意識って怖い。
飛んで火にいる夏の虫。後輩ちゃんは火で、俺は虫。あっ、後輩ちゃんは昆虫が苦手だっけ? まあいいや。自ら進んで危険の中に入り込むことわざだから、今の状況とはちょっと違う気がするけど。
それとも、食虫植物に誘われた虫か? 捕食されてしまうのか? って、こっちでも俺は虫扱いか。言ってるのは俺自身だけど。
柔らかい後輩ちゃんの太ももに頭を乗せる。甘い香りで包まれる。至福だ。
「ふっふっふ。先輩を癒すのが私のお仕事なのです。たぁ~っぷりと癒してあげますね~♡」
「お、お願いします」
「は~い。身も心もトロットロに蕩けさせてやりますよ」
「お、お手柔らかに」
後輩ちゃんの甘~い声。少し挑発的で悪戯っぽい。それが大人の色気を引き立てている。
このまま身も心も後輩ちゃんに委ねたら、俺はどうなってしまうのだろう?
見上げると、二つの山が…平均よりも大きな山が、超至近距離にある。あの美しいお胸が…。
くっ! 考えるな。考えてはダメだ。思い出してはいけない! お年頃の俺には刺激が強すぎる!
そう思えば思うほど、鮮明に思い出してしまうのは何故だろう?
「あっ。思い出しましたね? 先輩のえっち」
頬を朱に染めが後輩ちゃんの恥ずかしそうな顔が、ひょいっと現れた。むむむ、と拗ねたような可愛らしい呻き声を上げると、俺の額をぺちっと叩いてきた。そのままナデナデと頭を撫でてくれる。
とても気持ちいい。癒される。
「先輩のばかー。あほー。へたれー」
「うっさい」
俺が目を瞑ったら、ツンツンと頬を指で突いてきた。鼻も触ったり、押しつぶしたり、後輩ちゃんは楽しそうに俺の顔を弄る。
後輩ちゃんの人差し指がスゥーッと唇を撫でてきた。ちょっと悪戯したくなったので、突然パクっと口を開けて噛みつこうとする。
ビクゥッと後輩ちゃんが驚いた震動が太ももから伝わってきた。残念ながら噛みつくことはできなかったけど。
再び、ちょん…ちょんちょん、と触ってきたので、パクっとするが逃げられた。クスクスと笑い声が聞こえてくる。
次こそは! 気配を感じ取って………今だ!
「はむっ!」
「ひょわぅっ!?」
「
「びっくりしたぁ。私の指が先輩に食べられちゃいました」
楽しげな後輩ちゃんの声。歯を立てずに唇でハムハムしているが、一向に指を引き抜こうとしない。このままハムハムしていていいのか? 舐めるぞ?
俺の唇の感触を楽しんだ後輩ちゃんは、満足したようでスポッと抜き取った。目を開けると、俺の唾液がついて濡れた人差し指を見せつけていた。
拭うのかな、と思っていたら、後輩ちゃんは自分の口に近づけていって、パクっと咥えた。
「な、何やってんだっ!?」
「こういうのがお約束かと。口の周りについたご飯粒をパクっと食べる的な…」
「今のは全然違うだろ!」
「ですが、先輩とは沢山キスをしているので、これくらい今更じゃないですか? それに、エロくありませんでした?」
「………………エロかったです」
「先輩もします? 今舐めた指がここにありますよ?」
「………………え、遠慮します」
「本当に? 全然引きませんよ? むしろ嬉しいです…」
「くっ! や、やりません…。今は…」
「ふふっ。では今度」
くそう! 本当のことを言えば、とても魅力的な提案でした。でも、心の中の天使のほうが悪魔よりも僅かに強かったんだ。接戦でした。
ちなみに、俺の中の天使と悪魔は二人ずついる。天使姿と悪魔姿の後輩ちゃんと桜先生だ。デフォルメされた天使の二人と悪魔の二人がわちゃわちゃしている姿はとても可愛かったです。
膝枕され、頭をナデナデされたら、昨日と一昨日の疲れが再び襲ってきた。一晩眠っただけでは回復しなかったらしい。疲れたのは肉体よりも精神のほうが酷かったし。心が癒されていくのを感じる。
「葉月…ありがとな」
「いいんですよ。私は先輩を癒すことしかできませんから。疲れた時は私で癒されてください。コンテストは大変だったでしょう?」
「くっ! 思い出させないでくれ! 折角忘れていたのに! 俺の新たな黒歴史が!?」
「あっ。ごめんなさい」
「飛んでけ~! 忘却の彼方に飛んでけ~!」
「もっと思い出させてやりましょうか?」
「止めろぉ~! だったら俺も! 多くの生徒の前で告白合戦を…」
「あーあー! 聞こえませ~ん! 何のことだかさっぱり~!」
後輩ちゃんだって黒歴史になっているじゃないか。もうこの話題に触れるのは止めよう。俺たちにはメリットがない。デメリットだけだ。
「先輩。膝枕が疲れました。抱き枕モードになります」
「はーい。どうぞー」
「わーい」
「それと、扉の隙間から覗いてる姉さんもどうぞー」
「えっ!? 気づいてたの!?」
「バレバレだ」
「私たちのことずっと見てたね」
動揺してバタンと倒れ込むように寝室に入ってきたのは、覗き魔の桜先生。ずっと視線を感じていた。丸わかりだ。
「俺の抱き枕になるか? ならないのか? 三秒で決めろ」
「なる!」
光の速度で即答した桜先生が、スススッとベッドに近寄って横になった。
ふむ。柔らかくて気持ちよくて温かくて甘い抱き枕が二つもある。とても癒される。
俺たち三人は、のんびりとした癒しの時間を過ごすのであった。
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