第135話 寝るつもりだった後輩ちゃん
俺と後輩ちゃんは迎えに来た桜先生の車に乗って俺たちの家にたどり着いた。夕食も食べてきた。
無事に…本当に何とか無事に生きてデートを終わることができた。
途中、魂が抜けて死んでた気もするけど……。
車を降りた桜先生は車の鍵を指で振り回しながら、ニヤニヤと微笑んでいる。
「じゃあ、お姉ちゃんは空気を読んで一人で寝るわね~! 空気を読んで!」
おやすみ~、とそのまま背を向けて一階の自分の部屋へと戻って行った。
桜先生よ。何故”空気を読んで”と二回言ったんだ!?
先生が空気を読んだせいで、俺と後輩ちゃんの間に変な空気が流れるだろうが!
「と、取り敢えず、家に上がるか」
「そ、そうですね」
少し挙動不審になりながら俺たちは二階に上がる。
ただいま、と言って玄関のドアを開け、ポチっと電気をつけてリビングに入る。
一気に疲れが襲ってきて、家に帰ってきたという実感が湧いてきた。今日は誰かさんのせいでとても疲れたぁ…。
「あぁ~、さっきお姉ちゃんにお土産を渡せばよかったです」
少し疲れた表情の後輩ちゃんが荷物を置きながら言った。
「そうだな。まあ明日でいいだろ。んっ? 何だこれ?」
リビングのテーブルの上に何やら箱が三つと手紙が置いてある。桜先生が置いたもののようだ。
手に取った手紙には以下の内容が書いてあった。
『 弟くんと妹ちゃんへ
使うなら使ってもいいし、使わなくていいよ~!
二人に任せま~す!
健闘を祈る♡
二人のお姉ちゃんより 』
手紙の横に置かれたものの内、二つは精力剤のドリンクだ。
そして、残りの一つは避妊具の箱だった
なんてものを買ってんだ!? このポンコツ教師! 余計な気を遣いすぎだ!
俺は手紙をバシッと叩いて、抗議の気持ちを込めて、下の部屋にいるだろう残念な教師に向かって床をゲシゲシと蹴る。
夜の騒音を喰らいやがれ!
「何やってるんですか? これは……お姉ちゃんから? ………………ひぅっ!?」
俺の行動を怪しんだ後輩ちゃんが、桜先生からのメッセージを読んで可愛らしく小さな声を上げ、あたふたと慌て始める。
顔を真っ赤にした後輩ちゃん。あわわ、と可愛らしく動揺している。
可愛い後輩ちゃんに免じて、騒音を止めてあげるか。でも、明日絶対にお説教する!
「後輩ちゃん。残念な姉さんのメッセージは気にせず、寝る準備をしようか」
「ね、寝る準備…!?」
後輩ちゃんの顔がもっと赤くなる。イケナイことを想像したのか、もじもじと恥ずかしそうだ。
「普通に寝る準備だから! そっちの意味じゃないから!」
「そっち……やっぱり今日……!?」
「あぁもう! お風呂はどうする? どっちが先に入る?」
「あの…では……私から……いろいろと準備がありますので…」
顔を真っ赤にして、小さくボソボソと恥ずかしそうに呟いた後輩ちゃんは、スススッと俺を避けて寝室へと入ってしまった。
一人残された俺は気まずい沈黙が訪れる。
「………………取り敢えず、風呂の準備をするか!」
俺は後輩ちゃんのお風呂の準備をするために、浴室へと移動するのだった。
お風呂の準備をして、後輩ちゃんに入るように促した。
後輩ちゃんがお風呂に入っている間、俺は一人ベッドの上で悶々と過ごしていた。
興奮と期待、緊張に不安に戸惑い。いろいろな感情が俺の心の中で渦巻いている。
今夜、俺と後輩ちゃんは大人の階段を上るだろう。後輩ちゃんもそのつもりだ。
俺と後輩ちゃんは愛を伝え合う。このベッドの上で……。
「うがぁぁああああああああああああああ!」
少し考えただけで身体がカァっと熱くなる。俺はベッドの上でバタバタと暴れた。
心がどうしようもなくて、暴れて解消しようと思ったのに、ベッドから後輩ちゃんの香りが漂って、俺は更に興奮してしまう。
どうしよう! どうしよう! どうしよう! どうしよう! どうしよう!
「うわぁぁああああああああああああああ!」
「何しているんですか、先輩?」
寝室のドアのところから、少し緊張を含んだ呆れた声が聞こえた。
いつの間にか後輩ちゃんはお風呂から上がったらしい。火照った肌がピンクに染まって色っぽい。
ベッドで暴れていた俺は、シュタッと何事もなかったかのようにベッドに座る。
「何もしてませんよ?」
「お風呂、お先しました。次どうぞ」
「は、はい! 行ってまいります!」
俺は緊張で手と足が一緒になりながら、お風呂へと向かうのであった。
それから、あまり記憶がない。時間の感覚もない。
興奮で熱くなった体を冷たいシャワーで冷やし、身体が冷えたら熱いシャワーで体を温める。これを何度も何度も繰り返していた。もう、緊張で訳がわからなかった。
どのくらいお風呂に入っていたのだろう。
パジャマに着替えて髪も乾かした俺は、喉が渇いたからキッチンへと向かった。
ふと、リビングのテーブルの上に目が行った。精力剤の箱が一つ開けられ、一瓶飲み干されている。
俺じゃない。ということは後輩ちゃんだ。
「俺も………………覚悟を決めるか!」
精力剤の箱を乱暴に開け、瓶のふたを開けて一気に中身を飲んだ。
味は緊張で全然わからなかった。でも、全部飲んだ。飲んでしまった。
もう後には引けない。
俺は頬をバシッと叩くと、深呼吸して寝室のドアをゆっくり開けた。
「お待たせ、葉月」
「………」
後輩ちゃんから返事はない。ベッドの上で背を向けて丸まったまま動かない。
服は透けたネグリジェ。いや、ベビードールというのだろうか。黒い過激な下着を身に付け、緊張のためなのか微動だにしない。
透け透けで過激な布のため、綺麗な脚やお尻が丸見えだ。
俺の身体がカァっと興奮する。
猛烈に緊張と興奮をしながらベッドに座った。そして、後輩ちゃんの身体に優しく触れる。
「葉月…………………………葉月…? あれっ? 葉月さ~ん?」
軽く揺らしてみるが、全く反応がない。
後輩ちゃんの身体がコテンと脱力して仰向けになった。
「………………………………寝てるし」
後輩ちゃんは俺の枕を抱きしめて、気持ちよさそうに寝ている。精神的にも肉体的にも疲労はあったのだろう。スヤスヤと可愛らしい寝息をたてている。
「はぁ…」
残念さと安堵が入り混じった、大きな大きなため息をついた。
マジかぁ…。寝てるのかぁ。いや、寝顔は可愛いけど、このタイミングで寝ちゃう? 俺、結構覚悟決めたよ? そういう事するつもりだったよ?
起こしたいけど、こんなに気持ちよさそうに寝ている後輩ちゃんを起こせない。
仕方がない。このまま何もせず寝よう!
ヘタレた俺は後輩ちゃんの隣に横になって、枕返してもらう。
抱き枕がなくなった後輩ちゃんが、眠ったまま無意識に俺を抱きしめてきた。俺も過激な下着の後輩ちゃんを優しく抱きしめて抱き枕にする。
「後輩ちゃんのばか! でも、おやすみ。大好きだよ」
俺は後輩ちゃんにキスをして、彼女の温もりと柔らかさとあまい香りを楽しみながら静かに瞳を閉じる。
そして、ドッと襲ってきた疲れに身を任せ、すぐに夢の世界へと旅立っていった。
<おまけ>
先輩がお風呂に入った。私は自分の身体を眺め、最終確認を行う。
「ムダ毛処理よし! 身体の隅々まで洗浄よし! 口臭よし! ティッシュよし! タオルよし! 避妊具よし! 自分の身体よし! オールオーケー!」
誕生日プレゼントに貰った黒いベビードールに身を包んだ私は全ての確認を終わった。
シーンっと静まり返った寝室が、高まった緊張を更に増幅する。
あわわ…とうとうこの日が…先輩と結ばれる日が来たんだ…あわわわわ…。
どうしよう! どうしよう! どうしよう! どうしよう! どうしよう~!
私の身体が緊張でカッチカチになるのがわかる。
ふと、脳裏にリビングに置かれた箱が思い出された。
「………………せっかくだし飲んでみよう」
リビングに行って、テーブルの上に置かれている精力剤の箱を荒っぽく開ける。
そして、中身をグビグビと飲んだ。
「………………緊張で味がわからない。でも、飲んじゃった」
もう後には引けないな。全て先輩に任せよう!
再び寝室に戻ってベッドにダイブする。
「どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう! うわぁぁああああああああああああああ! うがぁぁああああああああああああああ! うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
手足をばたつかせて暴れまくる。そうじゃないと緊張でおかしくなりそう。
こういう時は、精神安定剤を……。
先輩の枕を手に取って抱きしめる。そして、クンカクンカと匂いを嗅ぐ。
「あぁ……落ち着く……先輩の香り……好き……」
クンクンと枕を嗅いで高ぶった精神を落ち着かせる。
遠くで先輩がドライヤーで髪を乾かす音がする。そろそろ運命の時間だ。
「…とうとうこの日が来たんだ……わたし……も………がんばら……ない………………と……」
決意する私と裏腹に、リラックスしすぎた私の視界は真っ暗になっていった。
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