第129話 遊園地デートと後輩ちゃん その5

 

 観覧車から降りて15分ほど経った頃、ベンチに座り、俺の身体にぐてーっともたれかかって、頭から蒸気を発生させていた後輩ちゃんが復活した。


 まだ顔は真っ赤。俺が差し出した水をコクリと飲んだ。後輩ちゃんの喉が艶めかしく動いて、冷たい水を嚥下する。



「ふぅ…やっと落ち着いてきました。危うく堕ちるところでしたよ」


「堕ちるってどこに?」


「先輩と快楽の世界にです! いや~積極的で荒々しい先輩は素敵でしたぁ…!」



 そ、そうですか。後輩ちゃんが嬉しそうなので安心しました。容赦なくキスしてしまったからね。


 観覧車の中での出来事を思い出して、後輩ちゃんがうっとりとしている。


 キスの余韻に浸っている後輩ちゃんが指で唇をなぞっている。その仕草が艶美でとても色っぽい。


 あっ、後輩ちゃんに見惚れてしまった男性が地面に崩れ落ちてピクピクしている。とても気持ち悪い。


 後輩ちゃんが何やら腕を組んで真剣に悩み始めた。



「ふむ。メガネっ娘モードが先輩の琴線に触れたと……なるほど…。もしかして、先輩ってコスプレとか好きですか?」



 後輩ちゃんがメガネをクイっと上げて、真剣な顔で問いかけてきた。


 俺も真剣で真面目な顔で答える。



「な、何を言っているんだい、山田さん? ぼ、僕はコスプレなんか好きじゃないですよ?」


「………先輩。いろいろとおかしいですよ。私のことを名字で呼ぶとか、一人称が僕とか。別に誤魔化すほどのことでもないと思うのですが…」



 な、何のことかなー? 後輩ちゃんのメイド服とか巫女服とかミニスカサンタとか想像したことないですよー。本当だよー。嘘じゃないよー。信じてー。



「えーコホン。まあ、コスプレについてはそれなりというか、どちらかというと、コスプレが好きというより、滅多に見れない後輩ちゃんが見たいという気持ちが強いかな」


「なるほど~! 時々見せるからいいんですね? なるほどなるほど。では、メガネっ娘モード終了です」


「あぁ~!」



 後輩ちゃんがメガネを外してしまった。滅茶苦茶可愛かったのに…。


 残念そうな俺を見て後輩ちゃんがクスクスと笑い始める。



「そんなに残念そうにしなくても家でつけてあげますよ。家に帰ってからのお楽しみです。さあ、先輩! 遊園地デートの続きを始めましょう!」



 俺の手を引っ張って立ち上がった後輩ちゃんは、光の角度とか背景の遊園地とかで絵になるくらい綺麗だった。


 俺はそのままボーっと見惚れてしまう。



「先輩? どうかしましたか?」



 後輩ちゃんが俺の瞳を覗き込んでくる。俺は後輩ちゃんの声でハッと我に返った。



「な、何でもない! 行くか後輩ちゃん!」


「はい!」



 俺と後輩ちゃんは手を繋いで、次の目的地に向かって歩いて行った。


 まあ、当然ながら、地面に倒れ伏している男性たちのことは放っておく。真夏の地面は熱くないのかな? まっ、どうでもいいけど。


 次の目的地に決めていたのは女の子の憧れ、メリーゴーラウンド!


 家族連れや女性同士で遊びに来た人が多い。そして、意外とカップルも多かった。


 可愛らしい馬や馬車に乗っている、見た目だけ楽しそうにしている成人男性や高校生らしき男子たち。ご愁傷様です。


 俺? 俺は別に気にならない。というか、内心では結構楽しみにしている。絶対に秘密だけど!



「おぉー! 可愛いです! …………先輩? 私の顔に何かついてます?」



 じっと後輩ちゃんを見ていた俺に気づいて訝し気に問いかけてきた。



「あっ、いや、後輩ちゃんもちゃんとした女の子なんだなぁって」


「おいコラ。先輩は普段私のことをどんな風に思っているんですか!?」


「エロい痴女の後輩ちゃん」


「くっ! 否定できない! ………って、先輩が草食すぎるんですよ! 私は普通です! 恋する乙女だったらこれくらい普通なんです! エロいのは認めますけど…」



 エロいのは認めちゃうんだ。最近は、楓によっていろいろとイケナイ知識を刷り込まれているようだからなぁ。桜先生も加わったしなぁ。


 あの頃中学時代の純情な後輩ちゃんはもういないんだ…。



「何故遠い目をしているのか問い詰めたいところですが、止めておきます。今は目の前のメリーゴーラウンドです! そろそろ私たちの番ですよ!」



 いろいろと喋っている間に俺たちの番が来たようだ。


 係員さんに従って、俺たちは好きな馬に乗り始める。


 女性の係員さんが馬を選んでいる俺たちに声をかけてきた。



「カップル用の二人乗りの馬もございますが、いかがでしょうか?」


「えぇっ!? 先輩!」



 後輩ちゃんが目を輝かせて俺を見つめる。後輩ちゃんは綺麗な瞳で、乗りたいです、と訴えている。


 もちろん、俺も賛成だ。



「それでお願いします」


「では、ご案内いたしますね」



 ニッコリと微笑んだ係員の女性が案内してくれた先には、ちょっと大きな二人乗り用の馬がいた。馬、というか一角獣ユニコーン? 頭から角が生えている。


 後輩ちゃんが背に乗るのを手伝って、俺は後輩ちゃんの後ろに跨った。


 後輩ちゃんがいつものように俺に身体を預けてくる。甘い香りと温もりが心地いい。



「落ちないように気を付けてくださいね、俺のお姫様」


「ひゃぅっ!?」



 後輩ちゃんの耳元で囁いたらビクッと身体が跳ね、俺の太ももをペチペチと叩いて抗議してきた。


 恥ずかしがる後輩ちゃんって可愛いですなぁ。もっとイジメたくなる。


 顔を真っ赤にした後輩ちゃんが振り返った。



「で、では、落ちないようにしっかりと私を抱きしめてください、私の王子様」



 くっ! そうきましたか。そう返してきますか! だんだんと耐性がついてきましたね。


 可愛いお姫様からのご要望だ。俺は後輩ちゃんをギュッと抱きしめる。


 係員のアナウンスで、メリーゴーラウンドが回り始める。


 可愛らしい音楽の中、俺たちの乗っている一角獣ユニコーンが上下に揺れる。


 わぁあ、と楽しそうな後輩ちゃんの声が聞こえてきた。


 悪戯心がくすぐられた俺は、後輩ちゃんの耳元で優しく囁く。



「葉月。俺には堕ちてもいいんだぞ?」


「ひゃぅっ………………もう身も心も堕ちてますよ、先輩のばか!」



 耳まで真っ赤にした後輩ちゃんがボソッと呟いた。


 メリーゴーラウンドは数分間の間、お互いに身も心も堕ちてしまっている俺たちを乗せて、クルクルと回っていた。


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