第119話 魔界に住んでる後輩ちゃん
「やってきました! 後輩ちゃんのおうちー!」
わぁーパチパチ! 拍手拍手!
「変なこと言ってないで上がってください」
「あっ、はい、お邪魔します」
というわけで、後輩ちゃんのお家にお邪魔させていただきます。
SOSを貰った俺は後輩ちゃんのお部屋、いや汚部屋の掃除に来ました。
Tシャツに短パン姿というラフな格好で出迎えてくれた後輩ちゃん。今日も可愛い。
後輩ちゃんのお家は一階建ての平屋。そこそこ大きい。後輩ちゃんに案内されながら汚部屋に向かう。
「後輩ちゃん後輩ちゃん。ご両親は?」
俺を案内していた後輩ちゃんが振り返った。
「ラブラブなウチの両親は二人でお出かけに行きました。母からの伝言です。『私たちには手に負えない。娘を対価に何とかして!』だそうです」
「………………逃げたか」
後輩ちゃんのご両親は、ごちゃごちゃになった部屋の掃除を諦めて逃げたな。全部俺に押し付ける気だな!
「はい。匙を投げて逃げました。母からの追伸です。『夕食前に戻るから、それまで好きにしていいわよ。娘と汗だくになるなり、お風呂で汗を流すなり、ご自由に。体力を使い果たしたら泊ってもいいわよ』だそうです。それほどじゃないと思うんですけどねぇ」
後輩ちゃん。それは絶対お掃除じゃないことを言っていると思うんだけど。まあ、考えておこう。
「さて、着きました! お掃除をお願いします!」
「……おぉ」
後輩ちゃんの部屋の前に着いた俺は思わず声が漏れた。
ドアの隙間から漏れ出す紫や黒の煙。瘴気だ。妹の楓が恐れる魔界の空気だ。あのドアの向こうは人が生きていけない壮絶な魔界となっているだろう。
俺はゴクリと唾を飲み込んで覚悟を決める。
ソッとドアノブに手を伸ばし、ゆっくりとドアを開けていく。ドライアイスの煙のように漏れ出す紫や黒色の瘴気。俺は顔をひきつらせた。
扉の向こうは後輩ちゃんの汚部屋。あちこちに下着や衣服が散乱し、机の上はテーブルが見えないくらい物がごちゃごちゃしている。お化粧品がぐちゃぐちゃだ。本や漫画も投げ捨ててある。ベッドもぐっちゃぐちゃ。
よくこの中で生活できるな。感心する。
「ねっ? それほどないでしょ?」
魔界に足を踏み入れた処女ッてる痴女の魔王が部屋の中でクルリと一回転する。可愛らしい姿だけど、脚で服を踏んでますよ。
「………数日でこれとか結構すごいぞ。さて、頑張りますか! まずは換気だー!」
閉められていたカーテンをガバっと開ける。そして、窓をガラガラと開けた。それでも、部屋の中は暗い。空気がどんよりと澱み、そして重い。
「後輩ちゃん! 洗濯籠を持って来て! 今すぐ!」
「Yes,sir!」
後輩ちゃんが敬礼して洗濯籠を取りに行った。
まずは足の踏み場もない衣服をどうにかしなければ。下着まで落ちてるし。これ、絶対使用済みだ。
「持ってきましたー!」
シュタッと洗濯籠を持ってきた後輩ちゃん。後輩ちゃんにもお掃除を手伝ってもらおう。
「後輩ちゃん。洋服を籠に放り込んで!」
「はーい!」
俺は後輩ちゃんと一緒に服を籠に入れ始める。流石に家事能力皆無の後輩ちゃんでも服を籠に入れることは出来るのだ。出来るのにいつもしないんだよなぁ。この面倒くさがりさんめ!
服をポイポイしていると、脱ぎ散らかされた下着が目に入る。灰色の下着だ。俺は手に取って後輩ちゃんに問いかける。
「後輩ちゃん? なんで部屋に下着が落ちているんだ? お風呂に入るとき、脱衣所で脱ぐだろ? ここで脱いでいるのか?」
後輩ちゃんはブンブンと首を横に振る。
「裸族のお母さんじゃないので、そんなこと実家ではしませんよ! あっちの先輩の部屋ならしてますけど」
えっ!? 衝撃の事実が発覚しました! 俺の部屋で下着を脱いでいるそうです! そういえば時々脱いだ下着が落ちていたなぁ。
「先輩が今持っている下着はナイトブラです。夜用の下着です。朝起きたらスッポーンと脱ぎ捨てて、新しい下着に替えるのです!」
なるほど。納得した。だからこの部屋にも下着が落ちているのか。
俺が手に持った下着を見つめて一人納得していると、後輩ちゃんがニヤリと笑った。
「それ、使用済みですよ。クンカクンカしたりぺろぺろしますか? 私、しばらくの間別の部屋にいたほうがいいですか? それとも、お手伝いしましょうか?」
俺は無表情でニヤニヤと下ネタを言って揶揄ってきた後輩ちゃんの頭にチョップを落とす。
「あぅっ!」
後輩ちゃんが頭を押さえて蹲る。まったく! 俺が本気だったらどうするつもりなんだ! 後輩ちゃんは今頃襲われているぞ! もっと自分を大切にしろ!
「………………ヘタレ」
後輩ちゃんが何か呟いた気がするが、気のせいだと思う。うん、気のせいだ。ヘタレという言葉なんか聞こえていない。俺は聞いていないんだ!
散らかっていた服を全部拾って、洗濯機のボタンをポチっと押す。洗濯機が動いている間に次の掃除に移ろう。次は本の整理だ。
「漫画……恋愛小説……エロ漫画……小説……小説……エロ本……漫画……って、あれ? 今二つほどおかしなものが混ざっていなかったか?」
「んっ? 何のことでしょうか? 楓ちゃんから借りたエロ本なんてありませんよ?」
全ては楓の仕業か。後で叱っておこう。
後輩ちゃんは手渡された本を本棚に入れていたのだが、一冊の本を手に取ってパラパラと読み始めた。
「後輩ちゃん? 何読んでいるんだ?」
「エロ漫画です。読みます?」
「………」
物凄く気になるけど、止めておきます。物凄く気になるけど。
というか、俺の前で堂々とエロ漫画を読み始めないでください! いろいろと危ないから!
エロ本をじっくりを読み始めた後輩ちゃんを視界に入れないようにして、俺は後輩ちゃんの机の上の掃除に取り掛かる。メイク道具を整理整頓して、机の上をフキフキと拭く。
「後輩ちゃんて化粧するんだな」
「………はいっ? 化粧ですか? ええ、しますよ。一応お勉強してます。でも、お化粧したら先輩にスリスリできなくなるので、先輩の前ではしたことありませんね」
エロ漫画から顔を上げた後輩ちゃんが答えてくれた。
化粧するかしないかの基準は俺にスリスリできるかどうかなのか。後輩ちゃんはノーメイクでもすごく綺麗で可愛いので化粧する必要ないと思います。
というか、後輩ちゃん。顔が赤くて雰囲気が色っぽくなっているのでエロ漫画を読むのをやめてください。いろいろと危ないです。
後輩ちゃんから目を逸らし、俺は掃除を続ける。
洗濯物を干し、ベッドのシーツなども洗濯し、床を掃除機で綺麗に掃除する。ベッドの下まできっちり丁寧に!
ベッドの下からエロ本が出てくるとは思わなかったけど…。ベッドの下にエロ本を隠すとか、男子がすることだよね? 女子がすることじゃないよね? そう思ったけど、黙って後輩ちゃんに差し出しました。
最近、後輩ちゃんは桜先生と一緒に堂々とエロ本を読んでるから、慣れてしまった。慣れって恐ろしいね。
「取り敢えず終わったー!」
「わぁー! パチパチパチー!」
手を叩かずに口でパチパチと言っている後輩ちゃん。
午前を全部使って後輩ちゃんのお部屋が浄化されました。俺が来たときのような魔界は存在しない。瘴気は全て浄化され、天界のようにピカピカと輝ている。
洗濯物が乾いたら取り込んで、畳んでタンスに直すということが残っているけど、あと数時間かかりそうだ。
「先輩! ありがとうございます!」
「いえいえ。どういたしまして」
「さて、これから私のお仕事の番です! 先輩を癒します………と言いたいところなのですが」
すると、グルグルとお腹の鳴る音がした。俺じゃない。後輩ちゃんのお腹の音だ。
後輩ちゃんが恥ずかしそうにお腹を押さえている。
「先にご飯食べたいです」
「わかった。とびっきり美味しいのを作るから、その代わり、たっぷりと癒してくれ」
「了解です! たっぷりねっとり癒してあげましょう!」
いや、ねっとりはいらないです。
取り敢えず、後輩ちゃんのためにお昼ご飯を作ろう。俺もおなか減った。
「さあ、レッツゴー!」
後輩ちゃんが俺の手を取ってキッチンへと連れて行く。
でも、俺はあることに気づいた。俺、今掃除して埃っぽい。
「後輩ちゃん? 先にシャワー浴びていい?」
「………仕方がないです。少し我慢してます」
とても残念そうな後輩ちゃん。
俺は超特急でシャワーを済ませたことは言うまでもない。
<おまけ>
ジャーっとシャワーを浴びる俺。扉の外から後輩ちゃんの声が聞こえてくる。
「せんぱーい! 扉開けてもいいですか?」
「ダメ! 俺今裸だから絶対ダメ!」
「良いじゃないですか! 私は先輩の裸なんか見慣れています!」
「俺は慣れてないの!」
「じゃあ、出てくるのをここで待ってますね!」
「出て行けよ! 絶対に出ろよ! 本当に出て行けよ!」
「………」
しばらくしても音がしない。もう大丈夫だろう。浴室から出るか。
ガチャリ!
脱衣所で体育座りで待機している後輩ちゃんと目が合った。
「きゃぁああああああああ! なんでいるだぁあああああああ!」
「出ろ出ろと言っていたので、お約束通り”出て行くな”ということかと思いまして」
「あれはテレビのお約束!」
「なるほどぉ~!」
「なるほどって……いいから早く出ていけ!」
「はーい!」
ということがありました。
また後輩ちゃんに裸を見られた…グスン。
もう、後輩ちゃんのところにしかお婿に行けない…。
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