第111話 市民プールと後輩ちゃん 浮き輪でプカプカ
ベンチから立ち上がった俺と後輩ちゃんはプールサイドを歩いている。
水着姿の後輩ちゃんが俺の腕にくっついている。水着越しだけど、はっきり伝わってくる後輩ちゃんの柔らかさ。ついつい視線がいってしまう。そして、必ず後輩ちゃんと視線が合う。
悪戯っぽい輝きが宿る後輩ちゃんの綺麗な瞳。下から覗き込むような上目遣い。口元が微かに緩んでいる。
「どうしたんですかぁ~? 私が可愛くて見惚れちゃいましたかぁ~? それとも、先輩の超絶好みのおっぱいが気になりますかぁ~?」
後輩ちゃんは楽しそうだな。ニヤニヤと揶揄ってくる。
よし、こういう時は素直に認めれば、後輩ちゃんは恥ずかしがるはずだ!
「折角の後輩ちゃんの水着姿だぞ! 目に焼き付けたいじゃないか! それに、俺も年頃の男子高校生だぞ! 気になるのは仕方がないじゃないか!」
「先輩のえっち」
なん…だと!? 後輩ちゃんが恥ずかしがらないだと!? 俺の返答を予想して、心に予防線を張り、対策を立てていたのか!?
後輩ちゃんは顔を赤らめることなくニヤニヤと笑っている。くっ、やられた。
「ここは人が多いので我慢してくださいね、えっちな先輩!」
後輩ちゃんはニヤニヤからニマニマに変わる。悔しい。俺も反撃してやる!
「人がいなければ我慢しなくていいのか?」
必殺! 後輩ちゃんの耳にかっこよく囁く! これは効いたはずだ!
しかし、後輩ちゃんの返答はあっさりしていた。
「ええ。人がいなければ我慢しなくていいですよ」
なん…だと!? 効いていない!? 恥ずかしがることなくサラリと言ったぞ! 本当に我慢しなくていいのか? あんなことやこんなことをしてもいいのか? 人がいなければ俺、我慢できないかもしれないぞ?
「恥ずかしいですが、私も頑張りますので…」
恥ずかしそうに目を伏せる後輩ちゃん。何この可愛い生き物は? あっ、後輩ちゃんか。
俺が後輩ちゃんに見惚れて、理性と欲望が戦って固まっていると、後輩ちゃんがニヤリと笑った。
「な~んてね! 冗談です! 流石に家の外は難易度が高すぎます。家の中ならいいのですが」
そうなんだ。冗談なのか。家の中ならいいんだ。今度家の中でちょっと欲を解放しよう。
そんなことを考えていると、後輩ちゃんが何かを見つけてはしゃぎ始める。
「あっ! 先輩! あれ見てください、あれ! 浮き輪の貸し出しがありますよ! 無料ですって! 行きましょう!」
連れていかれた先には浮き輪の貸し出し所があった。空気が入っていない浮き輪などが置いてある。
なになに? 『浮き輪の貸し出しは無料で自由。自分で空気を入れて使用し、返却の際には空気を抜くように』、だって? 親切なのか親切じゃないのかわからないサービスだな。足で踏むタイプの空気入れがあるだけマシか。
「二人用の浮き輪がありますよ! 先輩先輩! これ膨らませてください!」
「かしこまりました。俺のお姫様」
二人用の浮き輪? 初めて知ったな。でも、お姫様のご命令だ。頑張って空気を入れますか。
シュコシュコと空気を入れて膨らむ浮き輪。二人用だからちょっと大きいな。足が疲れる。でも、後輩ちゃんのために頑張る。
ようやく膨らんだ浮き輪。後輩ちゃんが片手で持って、反対の手で俺の手を握る。
浮き輪を持つ後輩ちゃんは何か似合うな。
「まずは、浮き輪と先輩を持って流れるプールへと行きます」
はいはい。後輩ちゃんに持たれて流れるプールへと移動しました。
「浮き輪を浮かべて先輩が乗ります」
はいはい。浮き輪の穴にお尻が入るように乗り込むですね。浮き輪に全身を預けるような一般的な乗り方だな。
「そして、先輩の上に私が乗ります。あとは流れるプールで浮かぶだけです」
はいはい。俺の上に後輩ちゃんが乗ってきましたな。俺の胸に後輩ちゃんがもたれかかるような体勢。まあ、いつも家でしている俺が後ろから抱きしめるような体勢だ。でも、いつもよりはっきりと後輩ちゃんの身体の感触が伝わってくる。お互いに薄い水着だから、柔らかさがリアルだ。
二人で乗ってもプカプカと浮かぶ浮き輪。水の流れに従って流れていく。
後輩ちゃんは安心したように脱力してもたれかかってくる。
「ふへぇ…安心しますぅ…人が多いと疲れます…」
「後輩ちゃん? 結構恥ずかしいのですが」
周りからの視線が痛い。殺意の視線と羨望の視線。男性から殺意は多いけど、カップルからは羨望の眼差しが強いな。
「周りは気にしなくていいんですよ。先輩は私の身体を触るなり弄るなり好きにしてください」
流石にそういう度胸はないけど、後輩ちゃんのお尻の感触が直に伝わってくるから、密かに堪能しておこう。
俺は後輩ちゃんを抱きしめるようにお腹に手を回した。そして、いつものようにお腹をふにふにする。
「おぉ! 先輩が触ってきました。ヘタレると思ったのに」
「俺はただ抱きしめているだけです。お腹なんか触っていません」
「そうですかそうですか。では、見ないふりをしてあげましょう」
俺は後輩ちゃんを抱きしめながら密かにお腹をふにふにする。浮き輪に乗って流れるプールをプカプカと流れていく。結構これだけでも楽しいな。
プカプカと流れていると後輩ちゃんがのんびりと問いかけてきた。
「先輩? 水着と洋服ってそんなに違いますか? 最近は薄着なので生地の薄さはあんまり変わらないと思いますよ?」
「う~ん。意識の違いかな? 後輩ちゃんは水着のビキニ姿と下着姿では恥ずかしさの度合いが違うだろ? それと似たような感じかな?」
「わかるようなわからないような…まあ、いいです。興奮している先輩を私の身体…というかお尻で周りの目から隠してあげましょう! 感謝してください!」
大変ありがたいですが、その柔らかなお尻が原因の一つなんですよ。だから地味に動かして刺激しないでください。結構敏感なんですから。
プカプカと流れるプールで一周程揺られたとき、何やらおんぶしているバカップルと遭遇した。楓と裕也だ。
「あぁー! お兄ちゃんと葉月ちゃんだ! 二人がイチャイチャしてる!」
「おぉ! ラブラブカップルだな! このプールで一番イチャイチャしているカップルじゃないか?」
「俺たちはただ浮き輪に乗って浮かんでいるだけだぞ! どこがイチャイチャしているんだ!?」
抱きしめ合ったりキスしたり手を繋いでいるのがイチャイチャと言うんだ。俺はただ後輩ちゃんに乗られているというか、後ろから抱きしめてお腹をふにふにしているだけだ。
………………おっ? 抱きしめているならイチャイチャに入るな。そうか。俺たちはイチャイチャしているのか。
楓は名探偵のように裕也の背中でビシッと俺たちを指さしてくる。
「その行為自体だよ! 周りに見せつけるように身体を密着させて浮き輪に乗っているなんてイチャイチャそのものだよ! 羨ましい! 私たちもしたい!」
ふむ。この浮き輪プカプカはバカップルからも羨ましいと思うのか。
俺の身体の上でリラックスしている後輩ちゃんがのんびりと言った。
「無料で浮き輪を貸し出しているところがあったよ。これもそこから借りた浮き輪」
「葉月ちゃん情報提供感謝します! 早速行こっ! ユウくん!」
「おう!」
バカップルが急いで貸し出し所に向かった。俺たちの真似をしてイチャイチャするんだろうなぁ。放っておこう。
俺たちは流れるプールの二周目に突入する。プカプカと水の流れに身を任せる。
「これ、のんびりしていいな。プカプカ揺れて、ふにふにしてるし、いい香りがして落ち着く」
「先輩? 途中から私についての感想になっていませんか? ふにふにとかいい香りとか! それに、落ち着くどころか興奮しているじゃないですか!」
おっと、つい本音が出てしまったようだ。誤魔化さないとな。
「なんのことかなー?」
「何という棒読み口調………まあ、いいですけどね! 先輩が私を意識してくれている証拠なので嬉しいです。私も今ナイスアイデアと思っていたところでした。プカプカ揺れて、温かくて、いい香りがして、ちょっと力強くゴツゴツしながらも、私を包み込んでくれる優しい安心感のある包容力。ずっとこの状態のまま抱きしめられていたいです」
「後輩ちゃんや? 途中から俺についての感想になったんだけど? 後輩ちゃんってそういう風に思っていたんだ。知らなかった」
「なんのことですかー?」
後輩ちゃん、棒読み口調ですよ。誤魔化すならもっと頑張りましょうよ。
俺たちはプカプカと流れるプールで浮かんでいる。穏やかな時間が流れる。
後輩ちゃんを抱きしめながらのんびりと呟く。
「落ち着くなぁ」
「ですねぇ」
「幸せだなぁ」
「ですねぇ」
「気持ちいいなぁ」
「ですねぇ…………あれ? それは私のお腹やお尻の感触ですか?」
「なんのことかなー?」
「まあ、いいです。たっぷりと堪能してください」
そうします。
後輩ちゃんを抱きしめて、プカプカプカプカと浮き輪に乗って流れていく。
俺たちは二人でイチャイチャしながら流れるプールを何周も漂っていた。
その後、楓と裕也も俺たちと同じようにプールに漂い始め、他のカップルも次々と真似をし始めた。そして、流れるプールはカップルが乗った二人乗りの浮き輪でいっぱいになって埋め尽くされてしまったとさ。
気まずくて流れるプールを使用できなくなった皆さん、何かごめんなさい!
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