第246話 ミーシャの事情 5


デートをした翌日、いつもの様にリドディルク様の元へ報告に行く。


昨日はほぼ仕事が出来なかったから、報告出来ることは殆どなかったけれど、纏めた資料をお渡しして、それを元に見解を示す。



「現在のところは以上となっております。」


「そうか。では引き続き頼む。ところで、昨日はどうだった?」


「突然話題を変えすぎじゃないですか?」


「昨日のデートについては、ゾランから報告が無かったのでな。」


「そ、それは必要だったのですか?!」


「いや、俺が聞きたいだけだ。言いたくないのであれば、無理に言う必要はないが。」


「そう言う訳では……楽しかったです……」


「そうか。それで?」


「それで……とは?」


「アンジェリカと結婚を視野に入れられそうなのか?」


「えっ!?そこまではっ!ただ一日一緒にいただけですよ!?」


「何を言っている。その為のデートだろう?向こうは乗り気だぞ?」


「……え…それはどう言う……?」


「先程ジスカール子爵が直接来てな。どうにかこの縁談をまとめたい、と言ってきたんだ。昨日のデートでアンジェリカが、更にゾランを気に入った様だと言っていた。」


「えぇー……」


「ゾランは乗り気ではないのか?」


「その……確かに、アンジェリカ様はとても可愛らしく、素敵な女性だと思いました。昨日は私も楽しかったですし、久し振りに息抜きが出来た様に感じました……」


「ほう……」


「ですが……」


「何か思うところがあるのか?」


「……やはり私はまだ、身を固める意思はございません。」


「……そうか。」


「はい。」


「まぁ、そう言う事と捉えておこう。では、俺から断りの連絡を入れておく。これで構わないか?」


「申し訳ございません……」


「なに、謝る必要等ない。それよりも……」


「はい?」


「そろそろ気づいた方が良いんじゃないか?」


「え?何をです?」


「本当にこう言うことには鈍感なんだな……」


「だから、なんなんですか?!」


「それは俺が言うことでは無いからな。あ、それと、ミーシャが昨日から落ち込んでいるが、ゾランは何が原因か分かっているか?」


「いえ……私も昨日帰ってきてから話したのですが、何も言って貰えませんでした……」


「まぁ、そうだろうな。」


「何かご存知なんですか?!」


「大体な。」


「何があってミーシャは落ち込んでいるんです?!教えて下さいっ!」


「これも俺が言う事ではないからな。もっとよくミーシャを見ておく事だな。」


「え……私はミーシャの事を見ていない訳ではありませんが……」


「俺からの助言は以上だ。仕事に戻れ。」


「あ、はい……」



執務室を出て自室へと向かう。


リドディルク様には何が分かっていて、何を気づけと言うのか……

仕事の事なら、何を気にされていてどうされたいのか分かるから、次に何をすべきかがすぐに分かって行動できる。


けれど、仕事以外の事となると、どうすれば良いのかよく分からない。

それだけ仕事ばかりで、他に何も無かったからなのか……

仕事が生き甲斐みたいなものだから、それ以外に目を向ける事が今まで無かったから、いきなり今回の様な事を言われても困ってしまうな……


そんな事を考えていたら、ちょっと気分を落ち着かせたくなった。

食堂でお茶を貰ってから自室に戻ろう。


そう思って食堂へ行くと、そこにはミーシャとコルネールの息子の執事見習いのダミアがいて……


抱き合っていた……!


驚いて思わず立ち止まって二人の事を見続けてしまった……



「あ!ゾラン様っ!」



慌ててミーシャがダミアから離れる。



「あ、あのっ!これはっ!」


「あ、いや、ちょっとビックリしてしまっただけだから……あ、お茶を貰おうと思ってここに来たんだ……」


「あ、すぐに用意しますけどっ!その、ゾラン様っ!」


「あ、じゃあ、僕の部屋に持ってきてくれるかな?悪いね、仕事を増やして……」


「いえっ!そんな事はっ!」


「じゃあ……」



僕はそそくさと食堂から出ていった。


ビックリしたっ!


ビックリしたっ!!


ミーシャがダミアとなんてっ!


知らなかったっ!


でも、そうか、そう言う人がいても不思議ではない年齢なんだし、ミーシャは可愛いし、そうか、そうなんだな……


ダミアはまだ執事見習いだけど、要領も良くて手際も良くて、空気も読めて良く気がつく、執事としては申し分ない技量を持ち合わせている男だ。

真面目だし、ちゃんと仕事をするし、良い人材だ。


そうか……


ミーシャとダミアが……


そうだったんだ……


じゃあ、昨日ミーシャが落ち込んでいたのは何だったんだろう?

喧嘩でもしたんだろうか?

まぁ、付き合っていると何かしらあるだろうけど……


自室に戻って、デスクチェアーに腰かけて、資料を手にとって仕事をしようとするけれど何も頭に入って来ない。

考えてしまうのは、何故かミーシャとダミアの事だった。


ノックがして、ミーシャがお茶を持って来てくれた。



「あの、ゾラン様、さっきのは……」


「あぁ、ちょっとビックリしたけど、そうだったんだね。いや、知らなかったから驚いたよ。」


「いえ、そうじゃないんですっ!私はダミアさんとはそうじゃなくて……っ!」


「ダミアはよく働くし、仕事も出来るし、まだ見習いだけれど、結婚するには良いんじゃないかな?」


「……なんでですかっ!私っ!結婚とか、そんな事は考えた事はありませんっ!」


「まだ今はそうかも知れないけど、いずれは結婚するだろう?色んな人を見て、その目を養う事は悪い事じゃないよ。」


「しませんっ!私は誰とも結婚なんてしませんっ!そんな事できませんっ!ゾラン様なんてっ!嫌いですっ!!」


「え……?」



ミーシャが泣きながら部屋を出て行った。


あんなに怒ると思っていなかったから、僕はただ呆然とその場に立ち尽くした……


何かいけない事でも言ってしまったんだろうか……?








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