第241話 愛する人
眠りが浅くなってきてゆっくりと目を覚ますと、私はディルクの腕の中にいた。
こんな風に、目覚めたら好きな人の腕の中にいる幸せに……幸せ過ぎて、なんだか怖くなって、思わずディルクの胸に顔を埋める……
「…アシュリー……?」
「あ、ディルク……起こしちゃった…?」
「ん……あぁ……」
「ごめん……まだ外は暗いから、寝てて?」
「ん……アシュリー……」
「うん?」
「…このまま……俺の傍にいてくれ……」
「それは……」
「もうあんな思いは……したくない……」
「でも……」
「アシュリーの母親は……何とかする……」
「え……?」
「……心配しなくて良いから……アシュリー……」
「ディルク……」
「…ずっと……傍に……」
ディルクが私を抱き締めたまま、また眠りについた……
眠っているディルクにそっとキスをして、ゆっくりとその腕の中から抜け出す。
まだディルクの残した痛みを体に感じる……
思い出すと、何だか恥ずかしくて……でも嬉しくて……幸せな想いが胸に溢れる……
今までずっと男を装ってきて、なんで女の子に生まれてきてしまったんだろうっていつも考えてしまって、女である自分が嫌だったけれど……
私が男じゃなくて……女の子で良かったって
ディルクに抱かれて
初めてそう思える事ができたんだ……
静かにテーブルにあった服と装備を身に付ける。
すぐに帰って来るから待ってて、って、私はエリアスにそう告げて別れて……
エリアスはきっと心配している筈だ。
とにかく無事な姿を見せないと……
「あれ……?なんで……?」
今になって気付いた。
私の左手首に、能力制御の腕輪がされてあったんだ。
すぐにディルクの左手首を確認する。
そこには左手首にあったはずの腕輪が無くなっていた。
「なんで……?ディルク……どうして……?」
私が誰にも触れられ無いことを……
ディルクは気にしてくれていたんだろうか……
だからエリアスに外す事を言ってたのかな……
ディルクの気持ちが嬉しくて、でも、そうなったらディルクは誰にでも簡単には触れられなくなるんだと思うと切なくなって、眠っているディルクの左手首をそっと撫でる……
それから左手を両手で包み込んで、頬にあてる……
私……
ディルクの傍にいる。
このまま、ディルクと一緒にいる。
でもその前に、その事をエリアスに伝えに行かないと……
エリアスは私が帰ってこないから、ずっと待っているかも知れない。
まずはエリアスの元に行って……
それから話しをしないといけない。
エリアス……
ずっと私の傍にいてくれると言ってくれていた……
私の事を心配して、守ってくれたエリアス……
もしまた傷付いたら、誰がエリアスの助けになってあげられる……?
エリアスの悲しんだ表情を思い出して
エリアスの笑った顔を思い出して
一緒に笑いあった日々を思い出して
別れるのは……正直辛い……
本当なら離れたくない……
けど……
不意に扉の外で音がした。
何だろう?と思って、扉を開けて外に出てみる。
薄暗い廊下の、少し歩いた先には銀の髪の人が……
「えっ!?お母さん!?」
「アシュリー!」
「なんで?!なんでこんな所にいるのっ!」
「アシュリー!貴女こそ!……会いたかった……っ!」
思わず私達は抱き合う……
「お母さん、なんでここにいるの?なんで私の前からいなくなったのっ!」
「アシュリー……ごめんなさい……あれから成長したのね……こんなにキレイになって……」
「……お母さん……それ……聖女の法衣……ここで囚われていたの?!」
「違うわ。私は自らここに来たのよ。」
「なんで?!ちゃんと教えてっ!」
「それより……アシュリー……ここはリディの……リドディルクの部屋の筈だけど……なぜここから出て来たの?」
「え……あの、それは……え?お母さん、ディルクを知ってるの?……あ、でもそうか、ディルクは皇帝だから、知ってて当然なのか……」
「貴方達……もしかして……っ!」
「え、あ、その……うん……私……ディルクの事が……好きなんだ……」
「アシュリーっ!ダメよ!それはいけない事なのよ!」
「え……なんで……」
「リドディルクと貴女はっ!」
「やめて!お母さんっ!」
「アシュリー……もしかして……気づいているの……?」
「良いんだ!ディルクが誰でもっ!関係ないっ!」
「アシュリー……っ!どうして……リディも……貴女も……そんな事を言うの……どうして……っ!」
「お母さん……?」
「ダメよ……そんな事……許せないわ……絶対に……許してはいけない事なのよ……!」
「でも……!」
その時、ディルクの部屋の扉が開いた。
ディルクが、扉からこちらを確認する様に辺りを見ていた。
「あ……ディルク……」
「アシュリー、何やって……ラリサ王妃!?」
「え……なに……王妃……?」
「アシュリーっ!ダメよ!貴女はリディと双子の兄妹なのよっ!」
「え……」
「ラリサ王妃っ!」
「貴方達は結ばれてはいけないの!それは許されない事なのっ!」
「でも……お母さん……!」
母が私を後ろから抱き寄せて、額に手をやって
「アシュリー……ごめんなさい……全て忘れなさい……思い出してはいけない……忘れるのよ……」
私の耳許で呟く母の声が、頭に
「な……に……?」
「アシュリーに何を……っ!」
「貴女の愛する人を忘れるのよ……忘れなさい……それから……私達が旅をして……楽しかった場所を思い出しなさい……」
「楽しかった……場所……」
「ラリサ王妃っ!頼むからやめてくれ!アシュリーを離してくれっ!」
後ろから抱き抱えられていた腕が離れた……
頭がなんか……フラフラする……
目の前からは走って私の元に来ようとする……
あれは……あれ…は……だ…れ……?
手を伸ばして
その人は私を掴もうとするけれど
目の前が歪んで行って
私はそのまま
暗闇に飲まれていった……
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