第236話 帝都エルディシル


空間移動で、馬車から降りた場所まで戻って来た。

それから歩いてオルギアン帝国の帝都エルディシルまで進んで行く。

このまま街道を歩いて行くと、徒歩で10日程で到着するとの事だった。


いつもの様に道中、脇に森がある地帯では魔物を探して狩っていく。

今回は、新しい剣を試したくって、なるべく私が一人で剣を使って倒していく事にした。


気配がしたので、急いでその場所まで走って行くと、コカトリスがいた。

この魔物は石化を使って来るが、私には効かないので、怯むことなく剣を振るっていく。


剣に炎を這わせて、石化が効いていると思っているコカトリスの首目掛けて横凪ぎに剣を振るうと、コカトリスの首は勢いよく飛んでいき、一気に燃えて炭になった。



「やっぱすげぇな。その剣。」


「うん、凄く扱いやすいし、威力が凄いんだ。前の剣より力も魔力も少ないのに、効果は倍以上だ。」


「流石、おやっさんが作った剣だな。」


「うん!エリアスがお金の事とか気にせずに作ってって言ってくれたから、こんなに良い剣に出会えた。エリアス、ありがとう!」


「これくらい、どうって事ねぇよ。色気のねぇ贈り物だけどな。」


「私には充分過ぎるくらいだ!」


「……アイツには……」


「え?」


「ディルクには……なんか貰ったり……したのか……?」


「ディルクに?……あ、うん。ピンクの首飾りを貰った。」


「今着けてる、それか?」


「うん。これを握ると、ディルクと話しが出来るんだ。」


「そんな効果があんのか?!……くそっ!」


「どうしたんだ?エリアス?」


「どうもしねぇよ!」



ここ最近、エリアスはこんな感じだ。

こんな時ディルクはどうした?とか聞いてくる。

でも、ディルクといた時間より、エリアスといる方が多くって、エリアスに言える事なんてあまり無いんだ。

なにか気になる事でもあるんだろうか?


それに、歩く時は私と手を繋いでくる。

男同士で手を繋いでる様にも見られるから、と言っても、前は気にしていたのに、最近は気にせずにずっと手を繋いだままだ。


それに距離が近い!


なんか、ずっとくっついている。

まるで母親に付いて回る子供みたいだ。


あ!もしかして!


母親の事を知ってから色々考えたりして、母親にするような事を再現しようとしているんじゃないかな?!


そう言えば母はこうも言っていた。

男の人はいつまでたっても子供なのよって。

それはこう言う事なのか!?


そうだ……


きっとそうなんだ!


そう思うと、エリアスの行動になんだか納得する。

ちょっと切ない気持ちになってエリアスを、つい見詰めてしまう……



「……アシュレイ……なんか……勘違いしてねぇか……?」


「なにが?」


「……なんかアシュレイの俺を見る目が……いや……まぁ良いけど……」


「……エリアスも……甘えたかったんだろうなって……思って……」


「え?」


「あ、ううん、何でもないよ!あ!またコカトリス!」



やって来たコカトリスに、今度は風魔法を這わせて剣を振るうと、コカトリスの全身を風が包み込み、身体中の羽が全て抜けて皮だけになった。

それから雷魔法で心臓を狙って仕留める。


エリアスは、この羽毛はキレイに抜けているから、高く売れそうだって喜んでいた。

これからはコカトリスには風魔法だな!って二人で笑い合った。

丸裸のコカトリスを捌いて、収納しておく。

コカトリスも、高く買い取って貰える素材だ。


そうやって出合う魔物を倒して行きながら、オルギアンへの道程を歩いて行った。


また私達を付けている感じはしたけれど、殺意は感じないし敵では無さそうだったから、少し警戒しつつもそのままにして、オルギアンまで進んで行った。


野宿をしたり、時には王都コブラルに戻り食料調達と素材換金し、疲れたら宿で眠り、順調に歩いて行って9日目の夕方頃、オルギアン帝国の帝都エルディシルに到着した。


インタラス国王都コブラルから、オルギアン帝国帝都エルディシルまでの道程は、実際は遠いんだろうけど、空間移動のお陰で然程疲れる事なく、食料が尽きる事もなく、順調にやって来れた。


オルギアン帝国には来た事はあったが帝都は初めてだった。

私はその大きな城壁に、まず驚いてしまった。

それは、まるで砦の様で、簡単には攻め込まれ無いようにされているし、兵達の動きは洗練されていて、無駄なく守備良く城壁を、この都を守っているのが見ているだけで感じ取れる。


門へ行き、依頼で来た旨を伝え、ギルドカードを見せる。

すると、門番に騎士舎へ行く様に言われる。

着いたのは夕方だったが、依頼内容が気になったので、普段なら騎士舎へ行くのは明日にしていたところだったが、言われてそのまま向かうことにした。


しかし、依頼を受けたのは私だけだったので、エリアスとは一旦別れて、私一人で向かうことにする。

エリアスは帝都にある、今まで行ったどこの国よりも大きかったギルドの酒場で、待っていて貰うことにした。



「じゃあ、エリアス、行ってくる!」


「あぁ。気を付けてな。もし、依頼内容を聞いた後受けたくない事だとしたら、断っても問題ないと思うぜ?」


「分かった。あ、そうだエリアス。」


「なんだ?」


「これ、預かっておいてくれないかな……」


「ん?なんだ?」



私は白の石が入った革袋と、石を嵌めた短剣と、頭に着けていた魔力制御の石が着いたベルトを外してエリアスに渡した。



「え……なんでだ……?」


「ん?……なんとなく……?」


「なんだよ、それ……」


「え、なんだろう?分からないけど、持ってて欲しくって?」


「待て、アシュレイ。何か思う事とかあんのか?」


「いや……そうじゃないけど……」



エリアスが不意に私を抱き寄せる……



「エリアス、皆見てる……」


「どうでも良い……んな事より……なんだよ?なんでいつも身に付けてるモンを俺に預けていくんだよ?」


「いや、本当に何か考えがあっての事じゃないから、気にしないで欲しい。騎士舎に行くって事は、騎士達に会うって事だろ?なんか装備している物が多かったら警戒されるかな、とか思うし……」


「本当にそれだけか?」


「……うん……あまり深い意味はないから……」


「なら良いけどよ……」


「依頼を聞いたら、すぐに帰ってくるから。だからここで待ってて。」


「……あぁ……けど、本当に大丈夫か……?」



それでもエリアスは不安そうな顔をする。



「あ、そうだ。だったらこれも預かってて。」



私は右手の革手袋を外して、それもエリアスに手渡した。



「こんな無防備な状態なのに、私が何処にも行く訳がないだろ?だから心配しないで、ここで待ってて!」


「……分かったよ……」



エリアスは名残惜しそうに私を離した。


けど、私もなんでこんな事をしたのか、自分でもよく分かっていなかった。


ただ、なんかそうしたくなったんだ……


それからエリアスと別れて、騎士舎へ向かう。


エリアスとそれから会う事が出来なくなるなんて、その時の私には分かる筈もなかったんだ……






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