第219話 囚われの身


気づくと、私は部屋で寝かされていた。

いい加減、こんな風にして倒れてしまう自分に苛立ってしまう……


服はまた法衣のドレスに着替えさせられていた。

ベッドから下りて、辺りを見渡す。


ここは何処なんだろう……?


部屋の家具や調度品等は、高級そうな物ばかりだった。


窓から外を見てみる。

見たこともない景色がそこにはあった。


大きな街で、大きな建物がいっぱいある。

ここは……お城?

かなり高い場所にある部屋だ……

下の広場では、兵達が訓練をしている。

中庭で、優雅にティータイムを楽しんでいる貴婦人が見える。


今になって気づいた。

私は左手にピンクの石を握り締めたままだった。


ディルクの事を想って握ってみた。

すると、すぐに声が聞こえた。



『アシュリー!』


「ディルク!」


『無事か?!何もされてないか?!』


「うん……大丈夫。」


『良かった……心配した……』


「ごめん……心配させて……」


『いや、良い。無事なら良いんだ。そこがどこか分かるか?』


「初めての場所だから分からないけど……お城にいると思う……」


『グリオルド国の王都か……』


「人質を取られたみたいなんだ。」


『人質?エリアスと言うAランクの冒険者か?!』


「違う……知り合った女の子で、アンナって言う子なんだ。」


『そんな子を人質に……?』


「私達と知り合ったから捕らわれてしまったんなら、放ってはおけない……」


『ひとまずアシュリーは大人しくしていて貰えるか?こちらで何とかしてみせる。』


「何とか出来るの?」


『俺は必ずアシュリーを守る。』


「無理はしないで!自分で出来ることはするから……」


『大丈夫だ。アシュリーは何も心配しなくて良い。』


「そんな事言って、いつもディルクは無理をする……」


『大丈夫だ。……アシュリー……』


「なに……?」


『俺の気持ちはずっと変わらないからな……』


「……ディルク……」


『また連絡する。』


「うん……」




握り締めていた首飾りを、自分の首にかける。


私の迂闊な行動が、また人に迷惑をかけてしまった……


アンナはなにも関係ないのに。


ただ、エリアスと街を歩いただけなのに……



そんな事を考えていると、扉が開いて人が入ってきた。



「聖女様!目が覚めたんだね!」


「貴方は……?」


「僕はニコラウス。この国の王子だよ。美しい聖女が見つかったって聞いて、いてもたってもいられなくて会いに来たんだ。聞いていた通り……いや、思ってた以上に美しいっ!」


「……私をここに連れて来るのに、人質を捕ったと聞いた。この国はそんな事をするんだな。」


「それは仕方がないんだ。許して欲しい……」


「アンナを……人質を解放して欲しい。」


「それはまだ出来ないよ。ごめんね?」


「どうすれば解放されるんだ?」


「そうだね、聖女様が何も抵抗せずに、この国の聖女として働いてくれるのが分かったら、解放する事が出来るんだけどな。」


「アンナはただ知り合っただけで、何も関係のない人なんだ!そんな曖昧な条件では、いつになったら解放されるか分からないじゃないか!」


「まぁ、落ち着いてよ。人質と言っても、何も拷問している訳じゃないよ。ここで当分の間、暮らして貰うだけさ。まぁ、聖女様の行動によっては対応が変わるかも知れないけどね。」


「………っ!」


「それよりさ、僕の妃にならないか?」


「は?何を言っている?」


「聖女様を一目で気に入っちゃったんだ。僕と結婚したらさ、王族になれて贅沢出来るんだよ。」


「そんな事には興味がない。」


「えー?!酷いな。こんなに良い条件なんて無いよ?僕は顔も良いし優しいし、王子だしさ。庶民からは考えられない存在なんだよ?!」


「私には約束した人がいる……」


「それは残念だね。ソイツとはもう会う事は出来ないよ。君は一生ここで暮らす事になるんだから。それよりさ、諦めて僕と結婚しちゃいなよ。」


「ふざけるな……」


「まぁさ、連れて来られたばっかりだから、そんな反応でも今は仕方ないよね。そのうち僕のモノにしちゃうからね。じゃあね。」



ニコラウス王子は片手をヒラヒラさせて、部屋から出ていった。


ふざけた男だ……


あんなのが王子なんて、この国の先が思いやられるな……


しかし、アンナが酷い扱いをされていなさそうだったので、それには安心した。


彼女に申し訳ない……


エリアスは私が帰って来ないから気になってるんじゃないかな。


つい喧嘩みたいになって出てきちゃったけど、本気でエリアスの事を怒ってた訳じゃないんだ。



エリアス……



夜になったらまた傷痕が痛むんじゃないかな……



一人で大丈夫だろうか……?



私は無事だから心配しないで



勝手な行動しちゃってごめんなさい……








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