第6章
第188話 ランクアップの試験
翌朝、私達はエルニカの街付近から空間移動で、インタラス国の王都、コブラルにやって来た。
ここに、エリアスが贔屓にしていた武器屋があったからだった。
「アシュレイは今まで、鉄の剣を使っていたんだな。そんなんでよくやって来れたよな。」
「魔力を這わせて使っていたから、鉄の剣でも問題無かったんだけど……今回の事で、もっと強度のある剣を使わないといけないと思い知った。」
「まぁ、滅多にあんな奴らと戦う何て事ねぇだろうけど、アシュレイだと、もっと良い剣を持ってても良い位だったからな。」
「そうかな……」
エリアスに案内されて、武器屋にたどり着いた。
中に入ると、とくに剣が多く置いてあり、その他にも様々な武器が所狭しと並んでいた。
受付には、若い女性の姿があった。
「よう!ヴェーラ!久しぶりだな!」
「エリアス!帰ってきたの?!」
「まぁ、ちょっと寄っただけだ。アシュレイの剣を見に来てな。それと、俺の武器の手入れを頼む。」
「……分かったわ。そこの彼の武器は、どんな物を探しているの?」
「アシュレイは……そうだな、あんまり重くなく、長すぎねぇのが良いかな。」
「それじゃあ、女性が使うような剣になってしまうじゃない。ある程度重さがないと、切る時に余計に力が必要になるし、切った時の威力も弱くなるわ。重さがあるから当たった後振り抜けるのよ?エリアスも分かってるでしょ?彼はそんなに力がないのかしら?そんな彼と一緒に旅をしてて、エリアスに負担がかかっているんじゃないかしら?」
「ヴェーラ……?」
「素早さと的確さがあれば、短めで軽めのレイピアでも良いかもしれないけど……今までどんな剣を使っていたの?」
「今までは鉄の剣だけど……」
「それじゃあ、一つランクを上げる位の物で良いんじゃない?いきなり良い物を持ったって、そんな彼じゃ使いこなせないと思うわ。」
「いや、それは……」
「何、分かった風なこと言ってんだ?ヴェーラ。俺が代わりに対応するから、お前は鍛冶場の掃除をしておいてくれ。」
「でも……っ!」
奥から出てきた、この店の店主っぽい男が、ヴェーラを嗜める様に見る。
「……分かったわ……」
ヴェーラは渋々鍛冶場へと行った。
「おやっさん、久しぶりだな。」
「ヴェーラがすまなかったな。アイツ、エリアスの事を気に入ってたから、旅に連れ出したアンタの事が気にくわなかったみてぇなんだ。悪かったな。許してやってくれ。」
「いや……それは問題ない。」
「アンタは確か、Gランクだったな。どんな戦い方をするんだ?」
「なんでおやっさんまで、んな事知ってんだよ?」
「エリアスは王都じゃ一番の冒険者だったからな。おめぇが出て行った後も、旅に連れちまった奴の事は暫く噂になってたぜ?Gランクの癖にどうやってエリアスを取り込んだんだって。」
「何だそれっ!俺はアシュレイの旅に勝手についてったんだよ!なんでアシュレイが、んな風に言われなきゃなんねぇんだよ!」
「それだけエリアスは慕われてたんだ。皆、そうでも思わねぇと納得できなかったんだろ?」
「んだよっ!それっ!俺の方が納得いかねぇよ!」
「エリアス、そんなに怒らないで……!私は平気だから。」
「俺が平気じゃねぇよ!」
「落ち着いてくれ、エリアス。それだけエリアスは王都にとって、大切な存在だったって事さ。で、アシュレイだったか?アンタはどんな剣が良いんだ?」
「今まで、剣に魔力を這わせて使っていて、使う魔力の系統によって剣の強度や形、効果を変えていたんだ。だから、どんな剣が良いのか、正直分からないんだ。」
「……っ!そんな事ができんのか?!流石はエリアスが見込んだだけの事はある!」
「だろ?!ランクこそ上げてねぇが、アシュレイは俺より強ぇぜ?」
「何?!それは本当か!」
「俺がその力に惚れ込んだんだよ。アシュレイのお陰で、俺も強くなれてるしな。」
「エリアスより強いなんて考えられん……が、おめぇがそう言うなら本当なんだろう。分かった!俺がアシュレイに合う武器を作ってやる!」
「お!そうきたか!有難てぇ!頼むぜ!」
「それを踏まえて、アンタの戦い方を見たい。模擬戦でも出来ねぇか?」
「そうだな……どうする?俺と戦ってみっか?」
「……っ!いやだ!エリアスとは戦いたくない!」
「アシュレイ……そうだな、俺もアシュレイに剣を向けたくねぇな……」
「なんだなんだ?おめぇら!恋人同士みてぇによ!ワハハハっ!」
「そんなんじゃ……!」
「わぁってるって!じゃあ…どうするよ…?俺が作るんだ。下手なもんは作りたくねぇ。」
「……アシュレイ、この際だから、ランク上げねぇか?」
「え?ランク?」
「あぁ。ランク上げの試験を受ける時に、模擬戦をするんだ。それを見て貰ったら良いんじゃねぇか?」
「でも……」
「嫌なら構わねぇ。また違う方法考えよう。」
「……分かった。試験を受ける。」
「お?!試験受けんだな!ランクが上がれば、エリアスが良いように使われてる、なんて、誰も言わねぇだろうしな!」
「俺、そんな風に言われてたのかよっ!」
「それだけ皆、エリアスの事が好きだったのさ。あんまり怒んなよ?」
「ったく!俺がいねぇ間に何言われてっか、分かったモンじゃねぇなっ!」
「ごめん……エリアス……」
「アシュレイが謝る事なんて、何もねぇよ!」
「ハハハ!おめぇら仲が良いな!ヴェーラが妬くのも仕方ねぇな!」
そんな事があって、私はランクを上げる試験を受ける事にした。
試験を受ける為、私とエリアス、武器屋の店主と3人でギルドに向かう。
店番はヴェーラに任せた様だ。
ギルド内に入ると、そこにいた冒険者や、ギルド職員達が、エリアスを見て驚いた顔をして、挙って皆集まってきた。
「エリアス!どうした!帰ってきたのか?!」
「久しぶり!こっちに来いよ!話し聞かせてくれよ!」
「もう旅はやめたのか?!その方がいい!帰って来いよ!」
「上級の依頼があんだよ!俺と一緒に受けてくれ!」
矢継ぎ早に、エリアスに質問が集まる。
皆に取り囲まれたエリアスは笑いながら、質問に答えていた。
私はそれを遠くで見ていた。
一緒に見ていた店主が話しかけてくる。
「エリアス、人気あんだろ?アイツは面倒見も良かったしな、強くて優しいって、女にも人気だったのさ。金も稼げるしな。」
「そうなんだな。でも、人気があるのは分かる。エリアスは良い奴だから。」
エリアスが皆と嬉しそうに話しているのを見て、私も嬉しくなったんだ。
私との旅で、エリアスには悲しい事がいっぱい続いたから……
これで少しでも、エリアスが元気になってくれれば良いんだけど……
「エリアスが他の奴と楽しそうにしてんのに、何でアンタは嬉しそうなんだ?」
「え?まぁ、そうだな、エリアスには笑っていて欲しいからな。」
「本当に恋人みてぇな事言いやがって。じゃあ、エリアスがここに残るっつったら、アンタはどうすんだ?」
「……エリアスがそう決めたんなら、それで良い。私はずっと一人で旅をしてたんだ。それが元に戻るだけだ。」
「呆気ねぇな。そんなもんか。まぁ、エリアスに帰ってきて欲しかったのは、うちのヴェーラだけじゃねえ。他にも、ギルド職員の女達もエリアス狙いだったし、冒険者の女も、ここら辺の店の女達も、皆がエリアスと良い関係になりたがってたぜ?」
「モテてたんだな。」
「まぁ、エリアスも適度に遊んでたんじゃねぇか?特定の誰かを作る事は無かったけどな。」
「そうなんだ……」
「何話してたんだよ?」
一通り落ち着いたのか、エリアスがこちらにやって来た。
「エリアスがモテていた、と聞いていた。」
「え?!何だそれ?!俺ってモテてたのか?!」
「適度に遊んでたって。」
「……っ!おやっさん!何言ってくれてんだよ!俺そんな遊んでねぇだろ?!」
「そんな焦る事じゃねぇだろ?エリアスは自分がモテてたのに気づかなかったのか?」
「そんなん知らねぇよ!言ってくれれば良かったのに!」
「じゃあ、うちのヴェーラなんかどうだ?アイツはエリアスをいたくお気に入りだぜ?」
「いや……それは……そんな事より!試験受ける事言いに行こうぜ!」
「うちの娘がそんな事呼ばわりか……まぁ良い。さっさと受付してこい。」
ちょっとムカついた顔をした店主を後に、エリアスとカウンターへ行き、試験の受付を申し出る。
「ランクアップの試験ですか?勿論受付ますよ!今のランクは……Gでしたよね?」
「おめぇも知ってんのかよ。ったく、しょうがねぇなぁ。」
「あ、その、はい……知ってました…すみません。」
「謝らなくて良いよ。」
「あ、試験はどのランクを受けられます?」
「アシュレイ、どうするよ?自分が受けたいランクの試験を受けれんだけど、まぁ、殆どの奴が、一つ一つ確実に試験を受けて行くな。自信がある奴は2つ3つ上のランクの試験をする奴もいるけどな。」
「そうなんだな。どうしようか……」
「アシュレイなら、一気に上のランクの試験受けても問題ねぇとは思うけど……ひとまず、Cランク辺りで良いんじゃねぇか?」
「……っ!いきなりCランクですか?!それはちょっと、いくらなんでもっ!」
「こう言ってるけど、エリアスはCランク辺りが良いと思ってるのか?」
「勿論、アシュレイだとAランクでも問題ないと思うけどな。決めるのはアシュレイだ。」
「じゃあ、……Cランクで。」
「本当にCランクを受けられるんですか?!Gから一気に?!上のランクの試験を受けるのは金額も高くなりますよ?!受からなくても、試験代はお返しできませんよ?!」
「んなこと心配してんじゃねぇよ。いいから、Cランクの試験で頼むぜ。」
「本当に良いんですね?!……分かりました。では、準備をしますので、少しお待ち下さい……」
受付の娘が、ギルドの奥へと走って行った。
このやり取りを聞いていたのか、ワラワラとギルド内にいた人達が集まってくる。
「一気にCランクまで上げんのか?!前代未聞だぜ!こりゃあ見物だな!」
「エリアスでも最初はDランクからだったろ?!このギルドで初めてじゃねえか?!」
「試験、俺達も見に行こうぜ!」
何やら凄い騒ぎになってる……
エリアスが押し寄せる人達から、私を離す様にして、前に立つ。
さりげなく優しいんだな……エリアスは……
それから試験を受ける為に、ギルドの奥にある訓練場まで行く。
どんな相手が待っているんだろう……
初めての経験に、緊張しながら試験場まで向かうのだった。
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