第162話 テントの中には
エリアスと、まずは食事をしにお店に入った。
それから街を回って、色んなお店を見た。
アクシタス国の街はどこも市場や露店が多く、活気があるのが特徴的だったが、国境を越えてすぐ近くの街なのに、全く雰囲気が違う。
それはこの街だけなのか、マルティノア教国全体がそうなのかは分からないけど、街全体が、なんだか重々しいと言うか、明るさがないと言うか、そんな雰囲気が漂っている様に感じる。
勿論、お店の人の対応が悪い訳でもないし、余所者を嫌っているような感じでもない。
しかし、何かあまり良くない印象を受けてしまう。
なんとも住みにくそうな街だ。
そんな印象を胸に街を歩いていると、あるテントが目についた。
何だろう?と思って立ち止まると、呼び込みの男に声をかけられた。
「兄さん達、どうだい?見ていかないかい?」
「何が見れるんだ?」
「まぁ、面白いモンさ。気晴らしになる事請け合いだぜ!」
「エリアス…どうする?」
「まぁ、どんなモンか見てみるのも良いか。」
「毎度ありっ!」
何かはよく分からなかったが、銅貨を2枚支払って、エリアスと2人でテントに入ってみた。
テントの中は薄暗くなっていて、他にも数人客らしい男がいた。
檻の様なのがいくつか目に入る。
そこには、幼い子供が入れられていた。
「何だ?ここは……?」
「エリアスっ!もしかしてここは、奴隷になる子を売ってる場所なのか?!」
「兄ちゃん達、知らずに入ってきたのか?そうだぜ、ここでは奴隷を売ってるのさ。気に入った奴がいれば買えるぜ?あと、奥にいる奴。あれは傑作だぜ。奴隷が逃亡したから戒めを受けてんだけどな、金さえ払えばヤれるぜ?兄ちゃんもストレス解消にどうだ?」
話し掛けて来た男は下衆な笑いを浮かべて、言うだけ言って去っていった。
「エリアス……」
この異様な雰囲気に飲まれそうで、思わずエリアスの肘辺りの服を両手で掴んでしまう。
エリアスもこの場所が気に入らない感じで、私の手の上に、手を重ねてきた。
奥にいる奴……?
ゆっくりと進んで、一番奥にある檻まで来て
エリアスと私はその場所で動けなくなってしまった。
檻の中には、首輪に繋がれた女の人がいた。
その人には、手足がなかった。
全裸にされて、犬のように、下に置かれたご飯を、顔を近づけて食べていた。
一瞬、言葉が出なかった。
なんだこれ……
なんでこんな事っ!
「……アデル………」
「………え…?」
「兄ちゃん達、な、笑えるだろ?コイツは逃げ出したからな、こうやって見世物にされてんのさ。ハハハっ!バカだよなぁー。きったねぇ女だろ。ハハハハっ!」
下衆に笑っていた男を、エリアスが思いっきり殴り飛ばした。
男はぶっ飛んで、そのまま倒れた。
エリアスはすぐに檻まで行って
「アデル!アデルだろ!!俺が分かるか!アデル!エリアスだっ!」
「…………エリ……ア"…ス……」
虚ろな目で、女性はエリアスを見る。
「何だよ!なんでこんな事になってんだよ!アデルっ!」
檻を掴んで、ガタガタと揺らし続ける。
女性を全裸で
腕も 脚も切り落として
こんな所で見世物にして
人を何だと思ってるんだ!!
「おい!何やってるんだっ!」
騒ぎを聞き付けて、あちこちから従業員と思われる男達がやって来た。
私は雷魔法で、やって来た男達や客達も、皆を感電させてその場に沈めた。
「エリアス!檻は破れるか?!私は子供達を連れ出す!」
「こんな檻ぐれぇっ!」
エリアスは魔法を掛け合わせて、檻を粉々にし、アデルと言う女性の元へ行った。
外套を外して彼女に被せ、首輪を外して抱き抱える様に私の元まで来た。
私も檻を破り、子供達に自分に捕まるよう言って、皆で空間移動でその場を逃げ出した。
たどり着いた所は、イルナミの街の孤児院の前。
奴隷に売られそうになっていた子供達は、何が起きたか分からずに、ただブルブルと震えたり泣き出したりしていた。
「皆、もう大丈夫だから。安心して。」
落ち着かせる様に、目線を合わして微笑む。
私達の声が聞こえたのか、教会の中からシスターが出てきた。
「あら、アシュレイさん、エリアスさん、どうされましたか?その子達は……」
「シスター、お願いがあります。ひとまず中に入らせて貰っても良いですか?」
「ええ、それは勿論……」
それから皆で教会の中に入り、一息ついた。
エリアスとアデルと言う女性は、シスターの部屋へ通された。
まだ何が何やら分かっていない子供達は、シスターから温かいお茶とお菓子を差し出されると、皆泣きながら頬張っていた。
食事もろくに食べさせて貰えなかったんだろう……
私はシスターに事情を話し、子供達の面倒をここで見て貰えないかとお願いした。
それから、白金貨5枚を差し出した。
「アシュレイさん!ここで子供達の面倒を見るのは構いませんが、こんなには頂けませんっ!」
「シスター、これは遠慮して欲しくありません。子供達の為には少ない位です。お願いします。」
そう言って頭を下げると、観念したように受け取ってくれた。
孤児院にいた子供達は何事かと覗いていたが、やはりそこは子供同士だからか、徐々に打ち解けて行った様だった。
シスターの部屋に行き、エリアスとアデルの様子を伺う。
「エリアス……」
「アシュレイか……」
エリアスは泣いていたのか、目が真っ赤だった。
アデルは眠っているようだった。
ベッドの横の椅子に座って、エリアスが心配そうにアデルを見ていた。
「彼女は……大丈夫だろうか……?」
ベッドに寝かされたアデルを見て、エリアスに聞いてみる。
「……分かんねぇ………アデルは…俺と逃げ出せた唯一の生き残りだ……奴隷にされて……俺は魔眼のお陰で捨てられて……それから何日も何日もずっと探したけど……アデルは見つかんなくて……まさか……あの国でこんな目にあってたなんてっ……!」
「酷すぎる……」
私も気づくと涙が溢れていた。
「怖がらずに……!俺がマルティノアまで探しに行ってれば……っ!」
「エリアス……もう自分を責めないで……悪いのはエリアスじゃない。エリアスは何にも悪くないっ!」
その声が聞こえたからか、ゆっくりとアデルが目を開けた。
「アデル!大丈夫か?!俺が分かるか?」
アデルは目から涙をいっぱい流して
「…エリア"ス……見な……で…」
そう言って顔をエリアスから遠ざけた。
私はアデルの涙を拭こうとして、思わず彼女に右手で触ってしまった……
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