第135話 強情だった


舞台袖から裏手の方に行くと、物音が聞こえてきた。


どうやら戦闘している様だった。


見ると、男3人に、十数人の男達が戦っていた。


この場面だけ見ると、どちらが敵か味方か分からない。


暫く様子を伺う。


3人の方は、かなり手練れの者達の様だ。


しかし、相手側の人数が多く、手こずっていた。


そのうち、風魔法トルネードが発生した。


こんな狭い場所で、色んな物を巻き添えにするこんな魔法を使ってくるとは、どんなに頭の悪い奴なんだ!


トルネードは檻の方まで進んで行く。


その檻を庇う様に結界を張って、中にいる人達を守ろうとしている。


彼達が助けに来た者達なんだろう。


すかさず俺は、光魔法でトルネードを浄化した。


驚いた様な顔をして、3人の男達が俺を見る。


確認すると、やはり男達は助けに来た冒険者達だった。


男達の感情を読むと、嘘は言っていなかった。


それから、敵と思われる者達に雷魔法で感電させる。


一瞬にして皆がバタバタと倒れて行った。


その後、光魔法で浄化も施しておくと、目覚めたら改心して、2度と悪い事をしなくなる。

それどころか、自ら自首してくれるのだ。


檻を見ると、「リディ!」と言って、姉上が歩み出て来た。


やはり囚われていたのか!


余程怖い思いをしたのだろう。

目に涙を貯めながら、安堵の表情をしていた。

姉上が、こんな表情を俺に向けたのは初めてじゃないだろうか……。


施錠されていたので、火魔法で高温にし、それから氷魔法で一気に冷まして鍵を壊す。


中にいる人達が泣きながら出てきた。


冒険者達は、外にいる仲間に託すからと、出口まで誘導して行った。




「姉上、大丈夫ですか?」


「お前のせいなんだから!私達は、お前を探し出す為にっ!」


俺の胸元の服を掴みながら、そう言って涙を一滴、ポロリと流した。


「申し訳ありません…。。」


それ以上何も言えなくて、ただ佇んでいた。


姉上が俺の服を掴みながら、顔を埋めて来る。


恐怖の感情と、安堵の感情が入り交じって、姉上が静かに泣いていた。


姉上の頭の上に、そっと手をやり、恐怖の感情を取り除く。


一瞬、頭がグラリとしたが、何とか持ちこたえる。



「アンネローゼ様、一緒に出口に向かいましょう。」


ゾランが動かない姉上に、そう言うと


「嫌よ。私はこれでも騎士なのよ。こんな仕打ちを受けて、このまま引き下がれないわ。」


恐怖の感情がなくなったお陰で、強気になった姉上がそんな事を言い出した。


「しかし、アンネローゼ様の今の状態では何も出来ません。」


「リディ、剣を貸しなさい。私がアイツ等をやっつけてやるわ!」


「姉上、今は一旦この場から離れて落ち着くべきかと……。」


「お前達は好きにすれば良いわ。私は一人でも行く。」



この気性だから、一人で外出して拐われたんだろうに…。。

本当に困った人だ。



「分かりました。では俺も一緒に行きます。」


そう言って、持っている剣を渡した。


姉上はそれを受け取ると、涙を拭いて、前室を出ていこうとする。


「どこに行くんですか?アンネローゼ様!」


「ゾラン、この部屋を出て右へ行くと、大きな控え室があるわ。そこに幹部連中がいるはずよ。」


流石だ。

囚われていても、しっかり確認していたんだな。


俺とゾランも続いて行く事にした。


前室を出ると、あちこちで人が倒れていた。


あの冒険者達が残した功績だろう。


姉上が先導し、その控え室まで歩いて行く。


進むにつれて、あの感情が近づいてきた。



アシュリー、君はこの先にいるのか?!



無事なのか?!



気づくと俺は走り出していた。







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