第111話 盗賊の男
暫くディルクとの会話の余韻に浸っていると、レクスがどこかから戻ってきた。
「アッシュ、もう大丈夫か?」
「あ、うん、レクス。ごめん。」
「謝らなくてもいいぞ!俺、それで良いって思ったんだからな!」
「うん。そうか。ありがとう。」
「それで、何の話をしたんだ?」
「インタラスの王都にディルクは行くそうだから、そこに寄ろうと思う。」
「それは紫の石から遠くならないのか?」
「むしろ近くなるよ。」
「それなら良いと思うぞ!」
そんな訳で、インタラスの王都に立ち寄る事になった。
相変わらず、紫の石は移動しているようで、動きが複雑だ。
どんな人が持っているんだろう。
そして、紫の石にはどんな効果があるんだろう……
次の日も、紫の石の光を求めて南西に向かう。
所々で出合う魔物を倒して行き、捌いて収納し、また進む。
基本的には街道を進んでいるのだが、魔物の気配がすれば、率先的に倒す様にしている。
この辺りは村から王都へ行く街道で、商人や貴族の馬車が多く通っている。
なので、たまに盗賊も現れるが、大抵は護衛を雇っているので、問題なく通り過ぎていく。
乗り合い馬車も通ってはいるのだが、そんな馬車の中は狭く、なるべく人と触れない様にしたい私としては、馬車を利用することは出来ないのだ。
街道を歩いていると、横を馬車が通りすぎた。
と、思ったら、後ろから馬に乗った者達がその馬車を追いかける様にして通りすぎて行った。
何事かと思って見ていると、馬車が襲われ始めた。
急いで襲われている馬車の元へ走った。
「アッシュ!なんだ?どうするんだ!?」
「馬車が盗賊に襲われている!助けに行く!」
目の前で襲われているのを見過ごす事は出来ない。
風の魔法で走る速度を上げて馬車に追い付く。
商人の馬車の様で、行商に行く道中のようだった。
盗賊は全員で8人。
人数が多いな。
護衛の者も応戦しているが、やり手の盗賊なのか、護衛の者達は切られて倒れていた。
すぐに雷魔法で盗賊達を感電させる。
何も言わずに、馬から崩れ落ちる盗賊達。
乗り手の無くなった馬達は、どこかに走って行く。
しかし、全員に雷魔法をあてた筈なのに、1人倒れない者がいた。
「お前、何をした?」
睨みながら、私に問いかける。
「手の内を明かすと思うのか?」
言いながら、さっきより強めに雷魔法をあてるが、それでも男は平然としていた。
「雷魔法か。詠唱も無しで見ただけで。すげぇな。お前、何者だ?」
「これだけ浴びせても平然としている方が凄いと思うが。そっちこそ何者だ?」
私達のやり取りに、商人達はガタガタ震えていた。
気を抜くと、こちらが殺られそうな殺気を感じる。
この男はヤバい……
闇魔法で体の内側を腐食させる様にする。
「くっ!これは!キッツいなぁー!」
言いながら、無数の氷の矢を放ってきた。
一本の矢は太さが5㎝程ある、大きな氷の矢だった。
男はかなりの魔法上級者だ。
しかも、詠唱もしていなかった。
咄嗟に避けようとするも体が動かない!
いつの間にか、魔法で体を拘束されていた様だ。
光魔法で体を浄化し、かかってあった魔法の効果を無くす。
が、対応が少し遅くなった。
一本の氷の矢が私の左肩を貫いた。
「うくっ!……テネブレ!」
黒い光の粒が集まってくる。
それが1つになると、テネブレが現れた。
私の状況を確認すると、テネブレは怒った様に男に襲いかかる。
男の周りは暗闇に覆われる様にして、視界を遮る。
「!!こいつはヤベェ!!」
そう言うと、体から光を放って闇に隙間を作り出し、そこから逃げて行った。
テネブレの暗闇が消えていき、私の元まで戻ってくる。
「アシュリー、なぜもっと早くに我を呼ばぬ!?」
「大丈夫だ、テネブレ……助かった、ありがとう……」
「アッシュ!アッシュ!大丈夫か?!」
「レクス、大丈夫……だ。」
左肩の痛みに耐えながら、ルキスを呼ぶ。
名残り惜しそうに、この場では何も出来ないと判断し、テネブレは帰って行った。
「ルキスっ!逃げた男は光魔法を使っていたっ、追い付けるか……?」
「それよりも貴女の事が心配だわ!」
「私には自身で回復魔法が発動している……暫くすると治る……はず……」
気づくと左肩からは結構な血が流れ出ていた。
頭がふらつく……
商人が私の元に駆け寄ってくる。
しかし、私の左肩辺りをなんとかしようと左手を触った途端、恐怖に顔を歪ませて逃げて行った。
あぁ……左手の魔力制御……出来てなかった……
魅了は……大丈夫だけど……
左手までは……届かない……
レクス 大丈夫……
もう少し……したら……
回復………す……る…
そこで意識を失った……
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