第6話 母との思い出

 

 俺の母さんは凄く優しくて綺麗な人だった。


 料理が出来て優しくて、女手一つで俺を育ててくれたただ1人の本当の家族だ。



 俺が怪我した時、母さんは直ぐに治療をしてくれた。俺が泣いてしまった時、母さんは一緒になって泣いてくれた。俺が贈り物をすると母さんは本当に嬉しそうに喜んでくれた。俺が遊びたいと言ったら一緒に遊んでくれた。

 楽しい時も、悲しい時も、辛い時も、いつも一緒にいてくれたのは母さん。俺はそんな母さんが大好きだった。


 俺が何か悪い事をすると必ず叱ってくれた。それが当然であるかのように。そこには母さんの優しさを感じた。

 母さんと過ごす日々はとても楽しかった。父親なんて要らないくらいに。ずっとこんな時が続けばいいのにと何度思ったことか。



 そんな母さんは俺が13の時、事故で亡くなってしまった。



 俺はいつも通りカイロと遊んでいた。その日はカイロが用があるから、と言って早めに切り上げた。

 だが、俺はまだ遊び足りなかったので普段通らない道を通って家に帰った。ちなみに普段通らない道を進めたのはカイロだった。退屈なら別の道から通ればいいとの事だ。俺にはそんな事思いつかなかったので驚いた。流石カイロと言ったところだ。




「ただいま〜。母さんお腹すいたよ〜」


 俺が家に帰る頃には夕方になっていた。何時もならこの時間になると母さんは夕食の支度をしている。だが今日は母さんがいない。家中探しても見当たらない。何処かに出かけたのだろうか。


「·····お腹すいたよ、母さん」


 俺は待つ事にした。待つ事出来ないからだ。この時間には家を出ては行けない、それが母さんとの約束だったからだ。



 翌日、目が覚めても母さんの姿は無かった。代わりに俺の家のドアを強く叩く音がした。


「ふぁ〜い、どちら様」 

「ライト!! ライトかい?! たっ大変だよ!!」


 朝早くに慌てて俺の家に入ってきたのは隣の家のガーマルさんだ。

 どうしたんだろう、こんな朝早くに。


「あっあんたの、おお母さんが崖に落ちて·····」

「ーーえ?」



 俺はガーマルさんの言葉を信じられなかった。つい昨日の朝、元気に俺を見送った母さんが死んだ? そんなのありえない。きっとガーマルさんの悪いイタズラだ。俺はそう信じた。

 だが、現実はそう甘くはなかった。



 母さんが死に俺は絶望した。

 心の拠り所である母さんが死んだ。もう会えない。もう二度話すことさえ出来ないと分かった時、涙が止まらなかった。母さんが大変な目に遭ってるというのに俺は遊んでいた。それが悔しくて、憎くてたまらなかった。


 俺は家に閉じこもった。同時に心も閉じた。いっそもう死んでやろうとさえ思った。何度も。だが、そんな俺を救ってくれたのがカイロだった。あいつはいつも俺に優しかった。


 俺はカイロのおかげで俺は立ち直ることが出来た。カイロが俺の心の傷を治してくれたのだ。



 それから俺はカイロと前以上に親しくなれた気がする。親友だと思っていた。それからカイロのおかげで恋人が出来た。フライデという少女で、一目惚れだった。カイロ改めてすごいと思った。俺のカイロに対しての憧れは増していく一方だった。

 だがそれも一瞬で終わった。恋人を奪われ、親友だと思っていたカイロに裏切られた。目の前でキスをされた。目の前でフライデが犯され、俺はただそれを見せられるだけ。



 それだけならば諦めもつく。フライデは、俺には手に余る存在だった、フライデはカイロを選んだ、それだけの事だ。

 だが、カイロは俺に言った。俺の母さんを殺したのは自分だと。嘲笑うように。


 きっとカイロには俺が果実か何かに見えたのだろう。美味くなるまでじっと待ち、手を加えて、時が来たら食らう。


 その時、俺の中の何かが壊れるような音がした。何かを失ったような感覚がした。憎かった。悲しかった。痛かった。辛かった。そんな負の感情が溢れ出してきた。


 俺は誓った。必ず復讐すると、強くなると。

 これが俺の復讐の始まりだ。




「待っててね母さん。·····必ず強くなるから。必ず仇を取ってくるから」

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