第22話 八つ当たり

 軽音部の部室からエレキギターの音が鳴り響く。

 またトチった。コードチェンジに失敗し、不協和音がギターアンプから聞こえてくる。


「あーあ。ダメダメ。ストップ、ストップ」


 宏美が演奏中に待ったをかけた。


「どうしたのさ、涼平。今日は春野さんが来てないからって、気を緩めているんじゃないだろうね?」

「んなことはないよ。ちょっと考え事をしていただけだ」

「演奏中に考え事なんて以ての外だよ。たるんでるよ。初めてのライブも近いんだから、もっと集中してよね」


 怒り収まらないといったカンジの宏美。まだ突っかかってきやがる。


「ライブつったて、放課後30分だけだ。それも音楽室で。体育館を借りて、大々的に出来るわけじゃない。そんなミニミニライブなんか気合が入んねーよ」


 口を尖らせるオレ。


「でも、ミニライブでも成功させなきゃ。実績を作っていけば、秋の文化祭で、ちゃんとやれるはずだよ。体育館で堂々とライブ出来るよ」

「フン。オレは文化祭より、とっととライブハウスに出たいだけど」

「それにしたって、初めのミニライブを成功させなきゃ到底ムリだよ。昨日まではあんなに張り切って練習していたじゃないか。一体、どうしちゃったのさ?」


 オレと宏美の言い争いを聞いていたタクは、ドラムスティックを回し、ボソリと口にする。


「演奏が調子悪い要因は、他にあるんじゃないの? なんか、心配事とかさ」


 他のメンツにはタクの言葉に深い意味は感じ取れなかっただろうが、オレはムッとした。アンプの電源を落とし、乱暴にシールドを引っこ抜き、ギターをケースに仕舞い、ストラップを肩にかける。


「ちょっと。練習中にどこに行くのさ?」


 踵を返したオレの背中に、容赦なく宏美の声がかけられる。


「帰る。どうせ調子悪いし、やっても無駄だ」

「ちょっと、涼平! あんたねぇ」

「なにカリカリしてんだよ、宏美。今日一日くらい練習休んでも問題ないだろ。――って、ハハン。アレか。お前が怒っているのって、オレが弁当を作ってもらうの拒否ったからだろ? それで八つ当たりしてんだろ?」


 言ってから、しまったと思った。皆がいる前でなんてことを口走るんだ。オレが当たり散らしてどうすんだよ? まったく最悪だ。


「それとこれとは、関係ない……よ……」


 宏美の声が上擦る。涙声。彼女は大きな瞳に涙をためている。

 後味が悪くなり、オレは逃げ帰るように、部室から出ようとすると、ブンと音を立てながら、ドラムスティックが回転しながら飛んできて、後頭部に当たった。


「アレくらいで、おたおたして。みっともないぜ、涼平ちゃん」


 タクが鋭い目つきで見ている。それが、どうにもオレを断罪しているように感じられ、一刻も早く、この場から逃げ去りたくなった。

 タクに言葉を返さず、オレはドアの取手に手をかける。

 丁度その時、部室のドアが開いた。春野さんが息を切らせながら、廊下に立っている。


「は、春野さん……」


 思わず口ごもってしまう。そんなオレに向かい、春野さんはにこやかな笑顔を向けてきた。


「皆、喜んで。今度のライブのビラが刷り上がったよ。図案、一生懸命考えた甲斐がありましたー。頼み込んで、学校のコピー機も使わせてもらえたし、頑張った甲斐があったよー」


 春野さんはライブ宣伝のビラを持った手を高々と掲げた。


「お、海ちゃん、やるー。早速、皆でビラ配りに行こうか。丁度、いい頃合いだし、下校する生徒に、校門前で配るしかないっしょ」


 タクが春野さんからビラを受け取り、宏美に手渡す。


「さ、宏美ちゃん。一緒に配ろうよ」

「そ、そうだね」


 宏美は手で目をこすり、ビラを手にした。


「杉内君も。はい」


 春野さんは無邪気な顔をしながら、オレにビラを差し出した。その優しさが、逆にオレを苛ませる。


「くっ!」


 オレは唇を噛み、一人で廊下を駆け出した。

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