第18話 提案

 放課後の生徒会議室。

「18歳以上婚姻奨励法に対応するイベントを考えよう」という微妙な議題が、黒板に書かれている。


「法案が国会で可決され、2週間が経過しようとしています。我々高校生の年から考えても、真剣に議論していくべき法律でしょう。そこで、会長がこの議題を提示したのです。皆、真面目に検討してみてください」


 クラス委員長で、生徒会では議長もしている塚原が発言した。


「んなこといってもなー。結婚したくない奴は、別にしなくてもいいんじゃね?」

「そうそう。18歳で結婚なんて無茶すぎるよ」

「オレは30にまで結婚したくないけどな―」

「でも、結婚しないだけで重税が課せられるんだろ? それってキツくねーか」


 会議室が騒がしくなる。皆様、ごもっとも。いくら少子高齢化が進み、おまけにパンデミックが流行してるからといっても、いくらなんでもこの法律は厳しすぎる。しかも、未婚のまま大学に進学すると、授業料が倍。だが、結婚して進学すると、授業料は半額となる。我々学生には、実に痛手。

 騒がしい会議室で、白くて繊細そうな手が挙がる。


「会長、どうぞ」


 塚原が会長を指名する。


「議長さん、どうもありがとう。皆さんもご静粛に。お願いします」


 会長がお淑やかに微笑む。それだけで、会議室のざわめきが収まった。ウム、実に素晴らしい営業スマイルだ。まぁオレに限り、スマイルだけで、会長から千円要求されそうだが。基本、スマイルは0円にしてください。


「今さっきもそうですが、この議題を出しただけで、皆さんが色々と喋ってくれました。つまり、それだけこの法律は議論の対象になるのです。ならば、各クラスでディスカッションを行ってみてはどうでしょうか? ディスカッションを行い、有意義な意見を募る。その後に、全校集会で各クラスから出された意見について議論する。つまり、二段構えのディスカッション形式にするのです。以上が、私の提案です」


 会長は意見を述べ終え、着席した。


「二段構えのディスカッションですか。流石です、会長」


 塚原の目がハート型になり、会長を褒め称える。会議室にいる皆もおおよそ肯定的で、肯定ペンギンであった。しかし、会長は前回同様、甘い。今回もエロ成分が足りておらぬわ!


「はい」

「杉内君、どうぞ」


 塚原がオレを指名する。


「ディスカッション、議論。大いに結構。しかし、もっと実践的になるべきじゃないですかね?」

「杉内君、実践的ってなにかしら?」


 会長は笑顔を絶やさずに口にする。けど、額に青筋を立てているのを、オレは見逃さなかった。


「フッ、実践的とはなにか、会長に教えてやろうではないか!」


 オレはここで一呼吸置き、溜めてから、もう一度口を開く。


「それはなぁ……フィーリングカップル大会だ!」

「な、なんだってーーー!」


 男子生徒が反応する。ウム、お約束の反応ありがとう。


「つまり、フィーリングカップル大会とはですね。男子5人と女子5人がテーブルに向い合って座り、男女でフリートークをする。『1番さんの趣味はなんですか?』と、いった具合にね。それで、場が煮詰まってきたら、数字のボタンを押す。すると、各自装着しているヘルメットに連動し、意中の相手の番号が表示されるって具合。3番と3番とか、意中の相手を示す数字がピタリ一致すれば、カップル成立という手筈って訳です」


 一気に捲し立てると、一部から拍手喝采が起こった。ウム、ウケた。

 気を良くしてふんぞり返っていると、女子が発言する。


「でも、それって、大告白大会ってことですよね。私はちょっと、そこまでの勇気がないかな。皆の前で、フラれちゃったら、やだし」

「そこはどうとでもなる。これはあくまでもイベントで、ゲーム感覚だ。『ノリでやっちゃいまいしたー』とか『しゃれですよ』で、十分通用する。それに、強制参加ではない。意中の相手がいないとか、自信がなければ、参加しなければいいだけの話だ」

「そっかー。なら安心かも」


 女子はオレの提案に賛成した。


「杉内君、そんなイベントをやってしまえば、学校はカップルだらけになり、風紀が乱れますよね? 私は会長の立場から見て、反対です」


 会長が穏やかな口調で告げた。まったく、アンタは押しかけ同棲とか実践しているくせに、どの口でそういうことを言うのかね。


「18歳以上婚姻奨励法と照らし合わせると、高校生のうちに理想のパートナーを見つけるのは悪い提案ではないと思いますが? この議題の趣旨に合っているんじゃないっスかね?」


 オレは反論する。会長とオレの視線が宙空でぶつかり、火花を散らした。

 ――と、突然、生徒会のオブザーバーを務めている蝶野先生が立ち上がった。


「けしからん」


 ボツリと呟く。


「で、ですよね、蝶野先生」


 会長が先生の言葉に同意する。


「フィーリングカップルだぁ?! まったく、うらやまけしからん! 先生も参加しますから、これ!」


 先生は黒板をバンバンと叩き、ウキョキョキョキョと奇っ怪な笑い声をあげた。出たな、妖怪婚活ばばぁ。


「はい、採決。杉内君のフィーリングカップルで決定。反対する奴はいないわよね?」


 ほぼ恫喝に近い先生の声。

 会長と塚原を除く全員が手を挙げ、オレの案は可決された。

 どさくさに紛れ、フィーリングカップル大会を盛り上げる前祝いに、軽音部でライブを開催しようと提案して、それもスンナリと採用された。よっしゃ、オレ樣大勝利。そこで生徒委会は終了となった。

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