第9話 良縁

「ただいまー」


 玄関を開ける。


「お帰りなさい。響ちゃんもお帰りなさい。疲れたでしょ?」


 お袋が会長に話しかける。


「いえ、それほどでも。有意義な話も出来たことですし。それじゃあ、お邪魔します」


 会長は頭を下げ、折り目正しく靴を揃えた。


「どうぞ、上がって下さいな。皆、リビングにいますよ」


 お袋が会長を招き入れる。会長がお袋の脇を通り抜け、オレも素通りしようとしたら、襟首を掴まれた。


「で、どうなのよ、響ちゃんとは? どうするつもりなの?」


 お袋は目を爛々と輝かせ、問い詰めてくる。ちょっと目が血走っているんですけど。


「取り敢えず、付き合うことにしました」


 素直に答えた。「友達として」というのは、敢えて伏せておいて。

 お袋は飛び上がって喜び、足早にリビングに行く。


「ちょっと、良一さん。涼平と響さんが付き合うことになったんですって」


 お袋の声がリビングから聞こえてくる。そんなに大声で喧伝しなくてもいいっての。

 お袋に遅れてオレもリビングに入る。すると、専務が会長に向かって、言葉を投げかけていた。


「響も涼平君と付き合うってことに賛成したのか?」

「はい。涼平君はいい人そうなので、私に異存はありません」


 会長は爽やかに微笑み、穏やかな口調で口にする。うわぁ、やっぱこの人、変わり身早い。外面だけは百点だな。外面は。


「そうか。それは目出度いな」


 専務は満足そうに頷く。

「わーいわーい。良縁だよ。良縁だよー」


 専務の隣で金髪を振り乱し、親父幼女は無邪気に喜んだ。いや、お前は黙れ。


「そうかぁ。お兄ちゃん、お婿さんになっちゃうんだね……」


 なにやらしんみりとする良介。


「でも、妹として祝福してあげなくっちゃね!」


 良介はグッと拳を握る。ややこしくなるから、お前も黙れ。


「響さん、お腹すいたでしょ? 今さっきお寿司を注文したから、出前が来るまで待っててね」


 ニコニコ顔で言うお袋。


 程なくして出前が届き、皆でワイワイと話ながら、寿司をつまんだ。


 和気あいあいとした中、チラリと会長を見る。透き通るような白い肌に、スッと通った鼻筋。形の良い唇でお寿司をつまむ。ちょっと見とれて、不覚にもドギマギしてしまった。

 皆が騒ぐ中、会長と特に会話もせず、オレは黙々と寿司を頬張った。

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