第6話 見合い相手

 良介とお袋に叩き起こされ、目を覚ました。二人に急かされ、わたわたとネイビーのスーツを着る。


「お兄ちゃん、早く早く。お見合いの人来ちゃうよ」


 良一が急かしてくる。


「うっせーな。大丈夫だっての」


 洗面台の鏡を覗き込み、ワックスで髪をひねる。ヘアセットも服装もバッチリ整え、洗面所から日本間に移動し、座布団の上に座った。

 それから10分もしないうちに、呼び鈴の音が聞こえてきた。

 うわっ、ついに来たか。オレの見合い相手とやらが。き、緊張なんかしてないんだからねっ!


「どうも今日は」

「あらあら専務さん。どうぞ上がって下さい」

「これは杉内の奥様。本日はお日柄もよく」

「本当ですねぇ。こちらこそよろしくお願い致します」

「あっ、専務だー。いらっしゃ~い」


 廊下から声が聞こえてくる。うう、心臓が高鳴る。胸が熱くなってきたぜ。そりゃそうだ。17にして、初めての見合い。動悸も早まってくるって。


「ちょっと、お兄ちゃん。相手の人、すっごい美人さんだよ」


 良介が襖を開け、ひょっこりと顔を出す。そんな情報を入れて、オレを惑わせるのはやめなさい! ますますドキドキするだろうが! 

 いやいや、そうじゃないだろうが。まずは落ち着けよ。オレには春野さんという素敵な人がいる。見合い相手なんかに、惑わされないぞ!


 そうこう思っているうちに、廊下を歩く音が近づいてくる。


 ドキッドキッ。

 それは一歩一歩確実に近づいてくる。

 ドキッドキンッ。

 からりと襖が開いた。

 うお、もう辛抱堪らん。胸が張り裂けそうだ。


「貴方がオレの見合い相手っ……」


 目を見開いた。美人さんでなく、人の良さそうなおっさんが佇んでいる。オレの見合い相手はおっさんだったのか?! 日本はいつから同性婚が認められたんだよ!


「いや、ワシは響の父親だが。娘は後ろにいるよ」


 人の良さそうなおっさんが声を出す。ああ、この人が専務なのね。


「私、心音響と申します。不束者ですが、今日は宜しくお願いします」


 流れるようなサラサラの黒いロングヘアーをした頭が下げられる。ロングヘアーの女子は一礼し、頭を上げた。見慣れた顔がそこにあった。


「会長……何やってるんスカ?」

「こちらがお見合い相手の心音響ちゃんよ」


 お袋があっけらかんとしている。

 見合いの相手は会長だって? そ、そんなバカな!

 口をポカリと開け、暫し呆然とした後、「な、なんだってー!」と心の中で絶叫した。

 か、かかか会長。アンタ、何やってるスか?


「涼平ちゃんたら、相手が美人さんで照れてしまったのですね。だけどね、だけどね。良一の方が美少女さんなんだよぉ」


 親父が専務の脇からひょっこりと顔を出す。しかし、親父の言葉など、耳に入ってこなかった。放心状態。

 改めて、会長の整った顔をあっけに取られながら眺めた。

 どうなってんだ、これ?! 凶兆じゃ! 天変地異の前触れじゃーーー!


 そのまま仰向けにぶっ倒れそうになる。どうしてこうなった?

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