第4話 委員会

 放課後、会議室で生徒委員会が催された。


「来週、球技大会が開催されますが、なにか提案はありますか?」


 生徒会議長をやっている塚原が議題を読み上げる。

 それに対し、生徒会長の心根が、細くて繊細そうな手をすっと挙げる。


「会長、どうぞ」


 塚原が会長を指名する。


「秋の体育祭に比べ、5月に執り行う球技大会は目立ちません。まずは、お昼の放送、ポスター等での告知の徹底ですね。それと、新しい球技を取り入れましょう。えっと、競技種目は……」


 そこで会長が草案に目を落とす。ふむ、切れ長の二重で凛とした瞳だな。やっぱ、美少女だ。しかし、塚原が会長をターゲットにするとは、いいとこに目をつけたな。


「サッカー、野球。室内ではバレーとバスケットボールね。あと、テニスと卓球を付け加えてもいいかもしれません。新しい球技を取り入れることによって、大会の新鮮味が増し、皆さんがより一層興味を持ってくれるはずです」


 会長が発言し、着席する。会議室に「成る程」「さすが会長、目の付け所が違う」といった、賞賛に似た声が漏れる。

 だが、甘い。会長の発案は、エロ成分が足りない。


「はい」

「はい、杉内君。どうぞ」

 塚原がオレを指名する。


「テニスとバレーと卓球は、男女混合にしたらいいんじゃないッスか? 例のへんちくりんな法案も通っちゃたし、この際、積極的に男女とのコミュニケーションをはかった方がいいかと思うのですよ。これ即ち、ジェンダーフリー!」


 オレの発言に対し、男子から「おおっ!」と、どよめきが沸き上がる。当然の結果だ。男なら誰しも、女子といちゃこらしたいのだから。


「いいぞ杉内! ナイスアイディア!」と、大勢の男子から声が上がる。オレは余裕たっぷりに手を振って応えた。球技大会では、ラケットを取りつつ、女子の手を取り、腰も取るのですね。分かります。


 そこで採決がとられた。満場一致でオレと会長の提案が採用された。それから、淡々と議題は進行していき、閉会となった。


「いやいや。中々いい提案をしたな、杉内」

「まぁな。あとはいかに女子と密着しつつ、競技をするかにかかっている」


 オレと塚原は会議室を後にして、廊下を歩きながら喋った。

 玄関口まで近づいたところで、会議室に議題をメモしたノートを忘れてきたことを思い出す。


「わりっ、塚原。ノート忘れてきちまった。先に帰っててくれ」

 塚原に手を合わせ、会議室に戻った。


 会議室の扉を開けようとしたしたところで、なにやらオレに対する罵声が聞こえてきた。気になり、ソロッと扉を少しだけ開け、隙間から中を伺ってみる。


「私よりいい提案出しやがって。一体、何様のつもりよ?! 許せないわ! 死ね死ね! 杉内のばーーーか!」


 ビターン。会長がオレのノートを床に叩きつけている。


「私より目立つなんて許せない!」


 会長は怒りに燃えた顔をしている。美形が怒った表情をするとこえーな。

 終いには、グリグリとノートを足で踏んだ。いや、オレのノートに、なにやってんの?

 耐えきれなくなり、オレはわざとらしく音を立て、扉を開く。

 会長はオレに気づき、ガラリと表情を変え、笑顔を見せた。


「あ、杉内君。君のノートが落ちていたわよ」


 会長はノートを拾い、オレに差し出す。


「なんかこのノート妙に汚れてない? 足跡がくっきりとついてるし」


 ボロボロになったノートを摘まみつつ、ジト目で会長を見る。


「あら、御免なさいね。うっかり踏んづけちゃった。響、失敗しちゃった。テヘッ」


 ペロッと舌を出し、可愛らしさアピールをする会長。この期に及んで、なにやってんの、この人。


「はぁ……ほんじゃ、会長。お先に失礼します」


 頭を振りながら、会議室を後にした。なんというか、会長の見てはいけない一面を目撃してしまった。ほんのちょっと、会長よりいい提案をしただけなのに、あの悪態。よっぽどプライドが高いのかねぇ。折角の美人さんなのにアレじゃ、勿体無ねーな。


 校庭を歩いていると、仲良く喋っているタクと春野さんを発見した。


「涼平ちゃん、生徒会お疲れー」


 タクが手を振る。


「いや、チミィ。春野さんとなに親しげに喋ってやがるの?」


 憧れの春野さんと着易く喋っていたタクに嫉妬心が湧き、彼を睨め付ける。


「海ちゃんと、今迄あんま話してなかったけど、喋ってみると意外にフランクで、いい感じだよ」

「もー、匠君。意外とかって余計だよ」


 ちょっと膨れてみせる春野さん。怒ったポーズも可愛いなぁ。


「ほんじゃ、僕は書店に寄っていかなきゃだから、一足先に。またねー」

 オレに気を利かせたらしく、タクが一人で駆けだしていく。オレと春野さんはポツンと校庭に取り残された。


「は、春野さん。それじゃ、一緒に帰ろうか?」

「うん、いいよ」


 春野さんは少しだけ栗色に染まったゆるふわウェーブの髪をなびかせ、そう返した。

 夕暮れの中を二人で歩いて行く。どうにも上手く言葉が出てこないので、ちょっとした沈黙が続いた。とはいえ、喋らなくては、春野さんとの仲が進展しないぞ。彼女のことを知るためにも、色々話してみるんだ。


「そういえば、春野さん。幼稚園の頃に転校したんだって?」


 オレは昼休みのネタを思い出し、切り出してみる。


「あっ、匠君ったら喋っちゃったのね。でも、隠すほどのことでもないし、まぁいいですよね」


 春野さんが可愛らしい笑顔を向けてくる。ちょっと垂れ目のぱっちりした二重瞼の目。可愛いよ春野さん、可愛いよ。なんつーの。レッサーパンダみたいな愛くるしさがあるよな。


「えっと、春野さん。なんでも引っ越した時、離れ離れになった男の子が気になっているとかマジ?」

「うー、匠君ったら。それも喋っちゃったのね。もう、しょうがないんだから」


 ちょっとだけ怒った顔をし、春野さんは言葉を繋ぐ。


「そうなのです。未だにその男の子のことが気になっているのです。ほんのちょっとだけね。うん、ほんのちょっとだけ……」


 春野さんははにかんだ。茜色の夕日に、春野さんのライトブラウンの髪がよく映えていた。


「それでその……春野さん。今、好きな人とかいちゃったりします? たとえば、タクなんかとか」

「うーん。匠君はちょっとね。だって、モテそうじゃない。彼女になったら苦労しそうだよ。もっと普通で実直な人の方が好みかな。例えば、塚原委員長とか……」


 ゲッ、ここで塚原の名前が出てくるとは思わなかった。クソッ、オレもおちゃらけてないで、もっと実直になろう。


「……あと、君とかね」


 一瞬間があって、春野さんはポツリと呟く。


「マジっすか?」

「まぁ、例えですから。でも今は、ちょっと男子と付き合いたい気持ちとかってないかな。女子の友達同士でワイワイと喋っているいのが好きで。皆とは、お友達でいたいかな。なーんて、私ってば、ちょっと子供っぽいかな?」


 ペロッと舌を出し、悪戯っぽい笑みを見せる春野さん。ウハッ、ヤベェ。危うくキュン死するところだった。なんて凶悪な笑顔なんだ。


「そ、そんな事ないよ。春野さんは全然子供っぽくなんかないよ」

「そんなフォローなんてしなくても大丈夫ですよ。エヘヘ」


 そこで春野さんは足を止めた。


「私のお家こっちだから。それじゃあね、杉内君。送ってくれてありがとう。君と話が出来て良かったよ。それじゃあ、ばいばーい」


 春野さんはそう言い残し、オレンジ色の夕日の方へと駈け出していった。


 嗚呼、なんて至福の時間だったんだ。改めて惚れ直したぜ、春野さん。よし、まずは、彼女と一緒に下校出来るように頑張ろう。これは努力目標だ。セコい目標だが、一歩一歩。スッテプバイスップだな。


 そう思いながら、オレはスキップを踏み、家路へと着いた。

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