第2話 2つのお弁当

「――と、言う訳で、家の中が滅茶苦茶になっちまったんだよ」


 幼馴染みで腐れ縁の宏美に向かって、今朝の出来事を織り交ぜながら愚痴った。


「それは大変だね」

 宏美は眉根を寄せ、ウムムと唸る。オレの話を深刻に受け止めているようだ。


「それはそうと、宏美」

「何だい? 涼平」

「で、お前はいつから美少年になったんだっけ?」


 問うと、宏美が二重まぶたの大きな瞳をこちらに向けてくる。おいおい、無駄に睫毛なげーよ。


「1年半前からだよ」


 宏美の言葉に、オレは大きく溜息をついた。


 まぁ、ここまで来たら、補足する必要もないかもしれないが、一応説明しておこう。宏美はTSパンデミックにかかり、美少女から美少年へと華麗に転身したのだ。美少年といっても、ジャニーズ系の方ではない。なんつーか、宝塚系の方だ。さぞかし、モテそうだよな、女子に。いや、それだと、百合になっちま……わないのか。今は男子だから、大丈夫なんだよ。それにしても、ややこしいことこの上なし。


「お前が美少年になってから1年半か……んで、宏美の場合はどんくらいの潜伏期間があったんだっけ?」

「そうだねぇ。定期健診で『TSパンデミックにかかってます』って、お医者さんに宣告されてから、1ヶ月後に男の子になっちゃったから、潜伏期間は1ヶ月だね」

「ムム、そうか。弟の場合はいきなりだったな。親父から病原菌をもらったと仮定して……大体、3日くらいで発症したことになるな。ったく。潜伏期間もまちまちとは、本当に嫌な病気だぜ」


 ブツクサ愚痴っていると、宏美が顔を赤らめ、何やらもじもじとし始めた。


「と、ところで、さ。涼平」

「どした?」

「あの。そのね……」


 宏美は人差し指をツンツンと合わせる。それから、徐ろに「こ、これ!」と、ピンクの布に包まれた四角い物体を差し出してきた。これは弁当か?


「ああ、うん。受け取れない」

「なんでさ?! ボクが男の子になっちゃったから? 男子が作った弁当は受け取れないっていうの?」


 男の子つーか、男の娘つーか。微妙だよな、お前。


「いや、妹から弁当を渡されたから。二つもいらん」


 オレはギンガムチェックの布に包まれた弁当箱を宏美に見せる。


「へ、妹。君には妹なんかいないじゃないか?」

「さっき言っただろ。良介が妹になったって」

「ああ、そうか。そうだよね……じゃあ、妹のお弁当の方が大事だよね……」


 宏美は肩をすぼめ、しゅんとした。そんなにガックリすんなよ。なんとなく、罪悪感を覚えちまうじゃないか。


「二人分の弁当か……こうなったら、平らげてやろうじゃないの。ほれ、寄越せ」


 宏美に手を差し出す。


「え、でも……」

「いいから」

「二つもお弁当を食べたら、お腹がパンクしちゃうよ」

「男に二言はない」


 オレは宏美を真っ直ぐに見据えた。しかし、なんだな。コイツ、見れば見るほど、美少年。ボーイッシュのショートカットにキリッとした眉で、より一層宝塚だ。もういっそ、お前はオスカルでいいよ。って、性別が逆か。ややこしい。


「じゃ、じゃあ」


 宏美が弁当を渡し、ポッと頬を赤くする。なんというか、男なのにその仕草止めろ。このままなら、禁断のルート(ホモ)に突入しちまうじゃないか。


「と、ところでさ。今日の軽音部の部活はどうする?」


 宏美は照れを誤魔化すように、話題を変えてきた。


「あ、オレ今日はパス。生徒委員会があるんだわ」

「そうか。君がいないと部の連中が締まらなくってさ。来てくれないのは、残念だよ」

「委員会が早めに終わったら、行くかもしれない。だけど、あまり期待するなよ?」


 そこでふと商店街にある大時計に目を遣ると、ちょっとヤバめの時間になっていた。


「宏美、ダッシュだ。急がないと遅刻しちまうぞ」

「嘘、もうこんな時間?!」


 宏美はスマホを取り出し、時間を確認し、驚きの声を上げる。それから二人して、学校まで走ることにした。

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