9章14節

 その日、山向こうで燃え上がる炎に、カイルワーンはただ立ち尽くしていた。

 背筋を伸ばし、顔を上げ、真っ直ぐに己の罪を正視する。

 大陸統一暦1000年4月5日、その運命をカティスとカイルワーンはカザンリクで受け止めた。

 二人はあの後、一月をカザンリクで過ごした。宿では金がかかりすぎるから、小さな家を借り、そこで村人の手伝いをして日々を過ごした。

 それには二つの理由があった。一つ目は勿論、カイルワーンの療養のため。レーゲンスベルグへ戻るためには、まずカイルワーンが体調を回復させることが必須で、それには一月もの時間を必要とした。

 そしてもう一つは、サンブレストの最後を見届けるためだった。

 カイルワーンは、何も言おうとしなかった。そして、何もしようとしなかった。だが借りていた家に戻ると、音をたてて床に崩れ落ち、そして。

 隠そうともせず、声を上げて泣いた。

 カティスはそんな彼をなだめることもせず、かける言葉もなく、ただ無言でかたわらにありつづけた。

 惨劇も、残された村人の悲痛も、近隣の人々の困惑と動揺も全て見届け、レーゲンスベルグに戻った二人の前には、責務が山積みになっていた。一月でたまった仕事もそうであるが、サンブレストの一件を受けて、情勢の激変は火を見るより明らかだ。それに対して打たなければならない布石は山のように存在し、それらを二人は淡々とこなした。

 彼らを迎えたレーゲンスベルグの人たちは、当然のようにこの一月の釈明を求めた。だが二人は黙し、決してそのことを語ろうとはしなかった――途中の経過までを知っている、隠し事などできそうもないセプタードと、ブレイリーだけを除いて。

 そうしてサンブレストの大虐殺の経緯を聞いた二人もまた、同じように沈黙する――その内心は、量りようもなかったが。

 かくしてサンブレスト以来、レーゲンスベルグの時間は、慌ただしくも淡々と過ぎていった。そしてカティスとカイルワーン、二人が運命の一瞬を迎えるまでは、まだ一時の余裕があった。

 まだほんの一瞬の、余裕が。

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