エピローグ

テンプレ81 「テンプレの終り」

(ヤマトとクロネは大丈夫そうだな。ジョニー号も見た目にも問題なし! ルーとフェデック、その他も死んでないな。あとはあいつだけか)


 イスズはボロボロの体を引きづりながら、周囲を観察し、皆が大丈夫そうな事に安堵する。


 最後の懸念を確認すべく、イスズは運転席のドアを開ける。


「アリ。おい、生きてるか?」


 その問いかけに、運転席に転がる棒から弱々しく声が返ってきた。


「……ははっ、イスズか。なんとか、まだ生きてるぜ。死ぬときは美少女の腕の中って決めてたからな。なぁ、最後だし、クロネの元に連れて行ってくれないか?」


 イスズは無言でアリを掴むと、クロネの元へ向かった。


「トラック運転手として、お前だけはどこにも運んでなかったからな。サービスだ」


 クロネはアリを大切そうに抱きとめ、その瞳にはうっすらと涙が光る。


「……アリエイト」


「夢が叶ったぜ」


 アリは僅かに微笑みを浮かべた。


 イスズはそんなアリを送り届けると、今度は神の元へ。


「おい、テメー、神ならアリをなんとかしやがれ」


 ヤンキー座りで、ガンを飛ばしながら、神に脅迫めいた台詞を叩きつける。


「う、うう、この世界には明確な回復魔法というものは存在しない。よって一度傷ついたモノは復活しえないのじゃ。それが自然の摂理」


 ドンッ!


 神のすぐ横にイスズの拳が落ちる。


「い、いや、早まるな。じゃが、救う方法はある」


「それをさっさと言いやがれ」


「ここには、もう体はないが、元の世界ならば、過去と運命を操作し、死亡ではなくこん睡状態の歴史に改変すればアリエイトは復活するかもしれん」


「ここで死ぬよりはいいだろう。なら、それをしろ!」


「だが、問題もあるぞ。今の魔杖の状態では誰かが連れ帰らなくてはならん。果たしてそれが貴様に出来るか? この世界に未練があるのではないか?」


 神からの問いかけに、イスズは即答した。


「ヤマトとクロネがいるし、俺が去っても問題ないな。だから、早くしろってさっきから言ってるだろ!」


 神はその発言に思わず顔をしかめ、唸り声を上げる。


「ぐ、ぐぐ、今の方法を行えば助かるかもしれん、だが、イヤじゃッ!! 貴様が転生をOKするというならやってやる!」


「テメー、この後に及んでッ!」


 苦渋の選択を迫られ、イスズに焦りの色が浮かぶ。


「ぐっ……いいだろう転――」


 イスズが神の言葉を受け入れようとしたその時、


「困ったときは科学でなんでも解決! フェデックくんです!!」


 この場に似つかわしくない明るい声音で、イスズと神の間に割って入る。


「ボクだけ元が無傷でしたから、休まず好きなことして時間を潰していましたが、ずいぶん興味深い話をしてますね。要するに神様の力を使って、元の世界へのゲートを開ければいいんですよね! それならジョニー号を使えばなんとかなるかもしれないですっ」


「なっ! 貴様、ワシからの転生者のクセに邪魔するのかっ!」


 思わず神が声をあげると、フェデックはしゃがみ込み、神にだけ聞こえる声で呟いた。


「ボクは兵器として作ったロボが戦いで壊れる分には文句はありません。作業用ロボも作業して壊れる分にはいいです。でもね。ボクの意思でもなく、本来の使い方でもなく壊されたんですよ? ボクがどれだけ怒っているかわかってますよね」


 神は背筋にゾッとするものを覚え、それ以上何も言えなくなった。


 フェデックはジョニー号に何か取り付け、少しいじると、最後に電源プラグの様なものを神に突き刺した。


「ぐえっ!」


 神のうめき声が聞こえるが無視。


「さぁ、これでジョニー号に乗って時速50キロに到達すれば現代へ戻れるはずです!」


 イスズはアリと共に乗り込むと、


「お前には色々引っ掻き回されたが、最後には助かった」


「いえいえ、やっぱり勇者ロボ物を目指すなら最後はハッピーエンドでなきゃ」


 イスズはヤマトとクロネに目を向ける。


「お前らと出会えたおかげで簡単に目的が達成できた。だが、これからも油断するなよ。もしまた転生者にその地位を奪われたら、俺がお前らを先にぶん殴りにくるからなッ!」


 ヤマトは兜の中で笑顔を作る。


「この美少女最強勇者のヤマトがこれ以上負ける訳ないじゃない! 安心して帰りなさいよッ!!」


 クロネは不安そうな表情を浮かべるが、すぐにイスズならなんとかしてくれると思い直し、強い眼で見据える。


「……アリをよろしく。こっちは任せて」


 イスズは二人を見て安心したようにフッと微笑む。


「じゃあな。あばよッ!!」


 イスズは手を振りながら、ジョニー号を走らせ始めた。

 円形闘技場をグルグルと周り、50キロに到達すると、目の前に空間の歪みが現れた。


「これかっ!」


 ジョニー号はスピードを落とすことなく、その歪みへと入り、消えていった。


「行っちゃったわね。ワタシたちもまだまだ頑張らないとね」


 ヤマトの呟きにクロネも大きく頷き答えた。


 この後、ヤマトとクロネの活躍により、この世界、マヒアは平和な世となっていくのだが、それはまた別のお話。



「う、う~ん。ここは?」


 イスズはいつの間にか眠っており、眼を覚ますと見知らぬ場所に独りだった。


「病院か」


 周囲の風景と腕に刺さった点滴からそう結論付けた。

 イスズはベッドから起き上がると、点滴を引きずり、状況確認をすべくラウンジに置いてある新聞を手に取った。


「ハッ。これは良いニュースだ」


 イスズが思わず、そう呟いた新聞の見出しには、


『全国で事故率軽減。トラック事故の減少が要因か!?』

 

 それともう1つ。


『通り魔に刺された男性が2ヶ月のこん睡状態から目覚め、快方に向かっている』


「さて、俺も一眠りしたら、さっさと仕事に戻らないとな」


 イスズは誰にとも無く聞こえるように呟き、再びジョニー号と仕事することを思い描きながら病室へ戻った。



                  (了)

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トラック野郎 異世界へ行く~三十路トラックドライバーがテンプレ展開をブッ飛ばす!~ タカナシ @takanashi30

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