テンプレ69 「勇者パーティ 剣士」

「それじゃ、ウンファルちゃん対イスズくんの対戦、始めるよ~。レディ、ファイト!!」


 ルーの声と共に、ウンファルは飛び出し、大剣のラッシュを振り下ろす。

 イスズはそれをアリで受け止める。


 力押しでそのまま押しつぶそうとするウンファルに対し、蹴りを放ち一旦距離を取る。


「おおっと、いきなりの凄まじい攻防だぁ。リミットさん解説をお願いします」


 ルーはニヤニヤとしながら唐突にリミットへと振る。


「今回はインテリジェンスウェポンとその使い手の勝負となった訳だけど。今の動きを見る限りではウンファルの方が使いこなしているよね。その証拠に大剣にも関わらずその重さを一切感じさせない動きをしている。それに対してイスズさんは魔杖を持っているけど魔法的な動きは全くしてなくて、完全にただの棒として使っているからね」


「おおっ! 予想以上にしっかり解説してくれるんだね! ついでにヤマトちゃんは?」


「へっ!? アタシ? そ、そうね。まぁ、そうは言ってもイスズとウンファルの戦闘力自体に結構差があるみたいだし、使いこなしているとはいっても勝つのは厳しいんじゃない? しかもあの格好はダメね。下手したら殺されるわよ」


 ヤマトの指摘は正しいようで、ウンファルと相対するイスズはどんどんと顔が曇っていく。

 イスズの顔など見る余裕もないウンファルはラッシュを右から振り下ろし、左から薙ぎ、下から振り上げ、正面から突く。


 しかし、その攻撃全てがアリによって受け止められ、ときにかわされた。

 ウンファルが大きく振りかぶった瞬間、イスズの拳が腹部を捉えた。


「ガハッッ!!」


 呻き声をあげ、その場で膝をつく。

 その様子を見たヤマトは思わず立ち上がり叫んだ。


「ほらぁ~ッ!! そんな防御力の低そうな装備だからッ!!」


 半分以上やっかみであり、兜の下の表情が容易に想像できるほど浮いた声音だった。


「う~ん、ウンファルちゃんはこのまま終わっちゃうかな? どう思います解説のリミットさん?」


「装備の隙を突かれたとはいえ、彼女にはそれを補う筋肉の鎧があるし、まだまだ大丈夫だと思うよ。それに固有魔法もまだ使ってないしね」


 リミットの言葉通り、ウンファルはすぐに立ち上がり、剣を構える。

 そして再び大剣をイスズへと向かって振るう。


 イスズはそれに対し最早ピクリとも動かず、不機嫌そうな顔を増々歪め、「……アリ」と一言呟いた。


「あいよ」


 聞こえる者には聞こえるその声もどこか浮かない拍子で、先ほどまでの怒りに燃える様子はなかった。むしろ悲しみすら感じさせた。

 けだるそうにしながらもアリは空気の壁を作り出し、ウンファルの攻撃を防ぐ。


「なぜ、全部、防がれる」


「くっ、ウンファルこうなったらあれをやるよ!」


 ラッシュの呼びかけにウンファルは頷くと2人同時に声を上げた。


Welcome to the World私たちの世界へようこそ


 ラッシュの宝玉が光り、刀剣全体がぼんやりとした黄色の光に包まれる。


「オオオオッッ!!」


 ウンファルは雄叫おたけびをあげると、ラッシュを覆う光が徐々に巨大化し、リングの半分ほどの長さに到達すると力任せに横薙いだ。


「逃げ場、ないぞッ!!」


「飛べッ! イスズ!!」


「わかってる!」


 イスズは大きく跳躍すると、空中へと避けた。


「その行動は予定通りだ」


 ラッシュの光はいつの間にか本来の大きさに戻っており、ウンファルも構え直していた。

 しかし、どう見てもイスズまで攻撃は届きそうになかったのだが、大剣を大きく振った。

 ラッシュを包んでいた黄色の光りが斬撃として放たれ、イスズを襲う。


「おっと、こいつはヤバイかも」


 アリは壁を作り出し、備えるがラッシュの攻撃は容易に切り裂きイスズへと迫る。


「ヤベー、イスズ、どうにかしろッ!」


「予測できることがらは対処できる。そうやって事故を皆、回避してきた。アホみたいな正面衝突をトラック乗りがするかよッ!!」


 イスズはアリの作った壁の破片を蹴ると空中で位置を変えた。


「アリ、もう1つ出せ。このままブン殴る!」


「おうよっ! あのクソッたれな大剣にオレの怒りを思い知らせてやれ!」


 アリが出した壁を足場に今度はウンファルへと向かって急降下する。

 拳を振りぬき、叩いた先は、ラッシュの方であった。


「テメーさっきから、ぐちゃぐちゃとうるせぇんだよっ!!」


 謎のセリフと共に、叩きつける。


「ぐっ、おおおおっっ!」


 折らんばかりの勢いに、ラッシュは苦悶の声を漏らす。


「わ、私の声が聞こえていたのか? 念話は指定者以外には聞こえないはずなのに」


「ああ、アリのおかげでな。テメー、そこの痴女に右から振れとか左から薙げとか、全部指示して過保護か!? そのせいで、全部避けられるし、防げるんだよ。俺に勝てないのは全部テメーのせいだぜ」


 その言葉を聞いていたウンファルは肩をわなわなと震わせ、憎悪の表情をイスズへと向け、叫びながら突撃してきた。


「先生、バカにするなっ! 虐めるなっ!」


 先ほどまでと変わらない剣筋けんすじで襲い掛かるそれを、今度は必死に避ける。


「先生がいなければ、今頃。助けてくれた。先生だけ!」


 いくつかの攻撃を完全にはさばききれず、イスズの肌にうっすらと切り傷をつけていく。

 その様子に驚いた様子を浮かべるラッシュは、それと同時に宝玉内にうるみが生まれる。


 ウンファルの攻撃は全てラッシュが指示しようと思った行動であり、尚且つ指示を受けてから動くまでのタイムラグがない分、素早く切り込んでいた。


「こんなに成長していたなんて……」


「子供はいつだって大人の予想を裏切るもんだ。それは過保護にしてたんじゃ気づけねぇ。一度は失敗させてやるのも子供のためなんだよッ!」


 ガンッ!

 

 アリでラッシュを受け止めると、イスズは拳を強く握った。


「女だから顔は勘弁してやるが、覚悟は決めろよ!」


 腹部へ向け、イスズの全力の拳が注がれた。


「…………ッ!!」


 声すら上げることもできず、腹部を押さえつつ、へたり込む。

 ウンファルはなんとか息を整えようと、「ハッハッ」と荒く呼吸をする。


 それでも立とうと、大剣を地面へ突きたて杖代わりにする。


「ウンファル、ウンファル、もういい! いいんだ。私たちの完敗だ。戦闘でも人間としても……。私が愚かだったのだ、許してくれ」


「せん、せい、悪く、な……い……」


 ウンファルは意識を失い、地面へと倒れ伏すが、ラッシュのことは最後まで離さなかった。

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