テンプレ64 「宣伝ポスター」

 ファシアンを倒したクロネだったが、現状、かつてない程の窮地に立たされていた。

 

 フェデックは叩けば起きると言っていたが、イスズを叩いて起こす? 誰が?

 結果、イスズの目の前で仁王立ちする状況になっていた。

 ヤマトやルー、ましてやアリを叩き起こすことに抵抗は一切ないクロネだったが、イスズ相手となると話しは別。

 何度も脳内でイスズのパンチをかわすイメトレをし、意を決して、叩こうとしたその時、


「イスズさん、いつまで寝てるんですか? もう仕事の時間ですよ。起きてください!」


 フェデックはなんともないように、イスズの頬をペシペシと叩く。


「う、うぅ、し、ごと? ハッ!」


 イスズは目を覚ますと、頬を叩くフェデックと目が合う。


「あっ、ようやく起きましたね!」


「仕事は……、いや、そうか。助かった」


 イスズからの反撃もお叱りもなく、やりすごしたフェデックを見て、「……すごい」とクロネは思わず感嘆の声を漏らした。

 


 気を取り直し、イスズ一行は門へと向かう。

 ヤマトはおろおろとしながらも入場することができた。しかし、イスズとクロネ、ついでに掴まれているアリは、関所にて構える門番を前に立ち往生していた。


 門番は明らかにイスズを睨んでいた。

 そして、イスズも睨まれる覚えがあった。


 クロネはローブをますます目深にかぶりながら、イスズに確認するように呟いた。


「……あの門番ってこの前ムリヤリ通った時の」


「たぶんな」


 イスズが初めてこの大都市に訪れた際、入場料を払うよう言ってきた門番であり、同時にイスズに殴られ意識を失った門番である。

 直接殴ったイスズはもちろん、前回暴れたクロネもバツが悪そうにしていた。


「今回はちゃんと金もあるし、素直に通してくれるとは思うが……」


「……通れなかったら、またやるしか」


 2人は意を決して向かい、前回のことなど、さも知らないかのように澄ましていると、「おい!」と門番の方からやはり声をかけてきた。


「お前、この前のッ!」


 しかし、すぐに門番は怒りの表情を消し本来の業務へと戻る。


「通行料、確かに。ふんっ、前回のことを許す訳はないが、今回は入れた方が俺の溜飲りゅういんが下がるからな。通してやるぜ。せいぜい情けない姿をさらすんだな」


「どういうことだ?」


 イスズは怪訝けげんな表情を見せて、門番に問い詰める。


「お前、あの勇者リミットと戦うんだろ。お前程度すぐにやられちまうだろ!」


 門番の不可解な発言に、イスズは考え込んだ。

 だが、その思考はすぐにヤマトによって邪魔された。


「ちょっとイスズ、こんなん張ってあるんだけどッ!!」


 ヤマトはまるで写真のように精巧に描かれたポスターを持って戻ってきた。


 そのポスターには、そして、そこには、『勇者VS魔王 世紀のデスマッチがついに!!』とでかでかと書かれ、勇者リミットとテンペストの顔まで載っていた。

 さらに端の方に、前哨戦として魔王の配下、銀河イスズVS勇者パーティの剣士の戦いがマッチされていた。


「クソっ! そういう事か」


 イスズは金を押し付けるように渡すと、ポスターをビリビリに破いた。


 邪険に扱われた門番はイスズの後ろ姿を見ながら唾を吐き捨て、絶対に勝負を観に行ってやると誓った。彼は休みを取る為、その日の勤務態度はいつにも増して精力的だったという。

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