テンプレ63 「勇者パーティ 魔法使い」

 ファシアンは仕切り直しとばかりに不敵な笑みを浮かべ声を張り上げた。


「そっちに転生者がつくなら、こっちも本気を出しますよ! 固有魔法発動ッ!! Welcome to the World異世界へようこそ


 オレンジ色の魔法陣が広がり始めると、クロネはその範囲に驚愕した。


「……広い」


 魔法陣は都市1つ丸ごと呑み込むほどの広さにまで広がり、オレンジ色の光を怪しく放つ。


 魔法陣の生成が終わると、クロネは同時に微かな倦怠感を覚えた。


「……っ!? この魔法陣の効果は」


「あ、やっぱり魔法使いの方々には分かっちゃいますか。そうです。この魔法陣は陣の中に居る人たちから少しずつだけ魔力をもらう能力! その名も龍玉りゅうぎょく魔法陣です!!」


「あっ! その元ネタはボクでも分かります!! 分けてくれじゃなくて、強制的に奪っている辺り全然違いますよね。ちょっとリスペクトが足りないですね!」


「まさか非難されるなんてッ! でも、同じ世界から来ていると話が早くていいですね! では理解したところでッ!!」


 ファシアンは火球をいくつも生み出し、一斉に掃射する。

 クロネは向かってくる火球を見据えながらも、恐怖で逃げることもなく、淡々とフェデックへと話しかけた。


「……で、どうすれば勝てるの?」


「まず火球には水ですね! もしくは岩でガードしてください」


「……それなら問題ない」


 クロネは自身の足元の土をせり上げると、巨大な岩が火球の行く手を塞いだ。

 岩に火球が数十発と当たり表面を黒焦げにしていった。もし、その場にいたら消し炭になっていただろう。


「……次は?」


 クロネの言葉にはフェデックの指示はどんな状況でも全力で答えようと覚悟を決めた響があった。


「クロネさん、いいですね! AIロボを操縦しているような気になってきましたよ!!」


 フェデックは嬉々として、ファシアンが行っている状況を説明する。


「科学っていうのは事象じしょうを研究することです。つまり、どういう原理で火が起きるかを解明する学問って言えばいいかな。まぁ、そういうヤツです。だから属性がある魔法は全部攻略されるし、全部強化できます。だからそれ以外の攻撃、あとは魔法使いが苦手な攻撃なら活路があるはずです。という訳で全速前進ですッ!!」


「……わかった。それだけで充分」


 というクロネの言葉と共にファシアンの魔法が再び展開された。

 

「火球によって熱せられた空気に水蒸気、雲ができるには充分ね」


 いつの間にかクロネの頭上に雷雲が発生し、今か今かと待ちわびるようにゴロゴロと轟音を響かせる。


「行けッ!!」

 

「クロネさん、バリアです! 重力を操作して雷の軌道を変えてください! それがボクらの世界に伝わるバリアの方法です!」


 ファシアンの号令と共に雷がクロネ目がけ落ちると思われたが、雷は逆に天へと向かって放たれる。


「重力が変わった! さっきのドリルもそうですね!」


「反射バリアですね! 最高です!! あっ! じゃあ、次はこれを重くしてください!!」


 フェデックは拳が先端についたアームを宙へと撃ち出す。

 その拳はファシアンの頭上で止まる。そのタイミングで魔法が掛かり、何倍もの重力を受け、落下する。


「喰らえ! ハンマーデーモン・アンド・ブレイブ!!」


 フェデックは技名を高らかに叫ぶ。


「確かに重力をどうこうするのはムリだけど、さっき見せたのは失敗でしたね!」


 ファシアンは角度を計算し片手から炎を出して推進力とすると、流転する石のように転がり、ハンマーの範囲から抜け出す。


「さぁ! 反撃開始です! ……えっ?」


 立ち上がったファシアンの目の前にはクロネが立っていた。

 その両腕には氷で出来た籠手こてを装備し、肘からは威力をブーストさせるべく炎が揺らめく。


「……この攻撃は逃げるしかない。逃げる方向が分かれば、近づくのは簡単」


 科学でもどうしようもない回避するしかない攻撃。それによってファシアンの行動を予測し、魔法使いが苦手とする近接戦闘へと持ち込むことができた。


 肘の炎が勢い良く噴射されると共にクロネの拳がファシアンへと向かう。


「ちょっ!? 魔法使いが近接攻撃!?」


 目を丸くしながらも、思考は止めず、瞬時に防御できる方法を考え、アリが使うのと同じような空気の壁を作り防御した。


「……予想内。もう一発」


 反対の腕の炎が揺らめき、拳が発射される。


「クッ!」


 ファシアンは反対の拳も壁を作り出し止める。


「ふ、防いだ。これで――」


 これで反撃に移れると言おうとした瞬間、クロネからの、「リブート」という言葉にハッとし、次撃へと備えた。


 始めに殴った拳が再び襲う。さらに次の拳、さらに次。

 その度に空気の壁を作り防ぐが、そうすると今度は反対の拳がやってくるというイタチごっこだった。


 右、左、斜め上、斜め下と縦横無尽に繰り出される拳、その動きにファシアンは現代の知識を当てはめ、叫んだ。


「デンプシーロール!?」


「違います! これこそ! 全ての壁を打ち貫く必殺技ッ!」


 一息タメを入れてから、


「ブロウクン・ブリットォォォォォォッ!!!!!!」


 もはやキャラが違うと言われそうな程、フェデックは大声で高らかに技名を叫ぶ。


 ファシアンの壁を作る魔力量は十全だが、毎回位置を予測し壁を作り出すのは精神力を使い、そしてふと油断すると。

 ゴリッと鈍い音を立てて脇腹へと拳がめり込む。


「ぐぅうう!!」


 唸り声を上げるが、苦しさに負け壁を作れなくなった瞬間、死が待っていると思うとファシアンは気が抜けず再度壁を必死に作り出す。


 しかし、長くは続かず、精神は疲弊し、防御の手が疎かになった瞬間、クロネの拳がファシアンのあごを捉えた。

 激しく脳を揺らす一撃にファシアンの意識は吹き飛んだ。


 ファシアンが気絶したのを確認すると、クロネの腕から氷は溶け、炎は徐々に消えた。


「ふっ、ボクたちの勝利です」


 クロネはコクリと頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る