テンプレ57 「犯人は」
100キロほど走行し、気持ちよく睡眠を貪った翌日、イスズが目を覚ますと、1人の幼女が
「誰だ。こいつ?」
こんな場所でこんな不自然に出会うのは十中八九、勇者パーティだと思うのだが、だからといって寝ている幼女に攻撃する程イスズは非道ではなく、毛布をそっとかけた。
そのまま放置し、顔を洗っていると、クロネが起きてきた。
心なしか、足元がおぼつかず、ジョニー号に掴まりながら歩んでいた。
「……おはようございます! 今、火をつけます!」
精一杯の大声を出しているようだが、普段のイスズの声よりも小さい。
「おい。大丈夫か?」
イスズはクロネの顔色を伺おうとしたが、フードを目深にかぶり表情が伺えない。普段ならば人前でもない限りここまで深くはかぶっていないことがイスズの不安を確信へと変える。
「絶対に体調悪いだろ、お前!」
イスズはフードを無理矢理
「……火を」
そう言い残してクロネは気を失う。
「おっと!」
地面へと倒れる前にイスズはその太い腕で抱きかかえる。
クロネの身体は異様なまでに冷たく、すぐにただ事ではないと察し、ジョニー号の中の布団へと寝かせ、未だに
「痛いっ!! ちょっ。何? 敵襲!?」
ヤマトは飛び起きると、苦しそうな表情で横になっているクロネを見つけ、駆け寄った。
「どうしたのよ!? まさか新手の勇者パーティの攻撃?」
ヤマトの問いに答えるすべを持たないイスズは、「わからん」と吐き捨てるように言うことしかできなかった。
次に外にいる少女が敵でクロネに何かした可能性を考えたイスズはルーを探す。
すでに彼女は起きていたようで、ジョニー号の中には居なかった。
周囲を探索すると、こそこそと何かをしているルーを見つけ、イスズは声をかけた。
「おい。何してたんだ?」
イスズは不審に思いながら尋ねると、あっけらかんとした様子でルーは今の行動を話し出した。
「あっ、これ~? なんかリミットくんが作ってくれた遠くの相手とも連絡がとれる装置で、こっちの進行状況を伝えてたんだ! 隠れてしか使えなかったからようやく連絡がとれて一安心って感じだよ~」
ルーはまるで自慢するかのように、その装置を見せ付ける。
それはだいぶ大きめのトランシーバーのような装置で、一瞬でイスズを納得させた。
「まぁ、それはあとで壊すとして、変な小さい少女が寝ているんだが、お前の仲間か? それからクロネの体調が
「小さい少女? それなら、格闘家のスイちゃんかな~? あとクロネちゃん、体調悪いの? そんなこと出来るのはうちのパーティにはいないよ」
「なら、クロネの今の症状とは関係ないな」
「うん。ボクちゃんもそう思う」
ルーはそこで何かを思いついたように、手をポンッと打つと、まるで名案を答えた子供のような笑顔で答えた。
「ボクちゃんじゃ良くわからないけど、なんでも出来ると噂の
「そうだな。アリに聞いてみるか」
イスズはジョニー号へと戻って行き、ルーも本当に幼女がスイかどうか確かめる為、一緒に戻った。
※
イスズは助手席に持たれかけさせてある魔杖アリエイトを乱暴に掴むと車外へと引っ張り出した。
いつもなら、小言の1つでも呟くアリだが、この日は弱々しい声で、あいさつを返すだけだった。
「お前までどうした? もっとシャッキリしろ!」
「うう、イスズ、このトラックはヤバイぞ」
意味深な事を言うアリだが、イスズは別のところに引っかかり、手に力が込められる。
「俺のジョニー号に何いちゃもんつけてんだテメー」
今までどんな使用にも耐え抜いてきたアリの身体が
「痛い、痛い! ちょっと待って! マジで! ジョニー号の所為じゃないから。落ち着いてオレの話を聞いて!」
ジョニー号の所為じゃないという発言で、仕方なく力を緩める。
アリは痛みを分散させるように身体をくねらせてから、現状を語り出した。
「あれは昨日の夜の事だ。オレは身体に違和感を感じて目を覚ましたんだ。その違和感の正体はすぐにわかった。なぜならオレの身体から魔力が何者かによって吸われていたんだからな。このままではマズイって思ったオレは犯人を探そうと周囲を
「で、誰が犯人だったんだ?」
「犯人はジョニー号だった! オレの魔力が吸われるのに呼応するかのように、燃料計のメーターがぐんぐん回復していったんだ。ほらフェデックが言っていたじゃねぇか。太陽光と魔力を燃料に走るように改造したって。たぶん燃料がなくなると、車内にいる者から魔力を奪って燃料にする仕組みだったんだ!」
「ジョニー号がそういう仕組みにされたってことは理解した。だが、それとお前がダルそうにしていることと何か関係あるのか?」
「あるある! 大有りだ!! オレら魔力で身体を動かすモノや魔物にとって魔力がなくなるっていうのは死活問題だし、人間だって完全に空になると倒れるんだぜ!」
「なるほど、ならクロネが倒れたのも魔力不足か」
イスズが顎に手をあてながら呟いた言葉を聞いて、アリは怒鳴り散らした。
「ハアァァ!! クロネ倒れたのかよ!! アホか、なんでそれを先に言わないんだ!! ほら行くぞイスズ。オレを連れてけ!! ほら急げって!!」
アリの気迫に押されたイスズはすぐに荷台へと向かい、クロネと再会した。
クロネは先ほどまでと変わらずに顔を苦悶に歪め横たわっている。
違いといえば、毛布の枚数が増え、額に濡れた布が置かれているくらいだった。
「アタシにはこんな看病とも言えない事しかできないけど……」
ヤマトは不安そうな瞳で、戻ってきたイスズを見る。
「アリっ! どうだ!?」
「ああ、これなら軽症だ。今日1日ゆっくりすれば問題ない。ジョニー号に急に魔力を吸われて体がついていかなかったんだろう。ほら、オレらも急に気温が暑くなったり寒くなったりすると倒れるだろ」
「体が資本だから、トラック乗りはそれくらいじゃ倒れんぞ? だが、ニュースではよくそういった話は聞くな」
「イスズ……、お前、マジにオレと同じ人間か?」
そのとき、クロネは意識を取り戻し、声を上げる。
「……う、うぅ、ボク、……ワタシは大丈夫です。す、少し休めば」
うっすらと作る笑みはまるで周囲を心配させないように無理に明るく振舞う母親のそれと同じように見えた。
「うるさいっ!! 休むときはシッカリ休め!! お前みたいに無理して働こうとすると
指で起きようとするクロネの額を突くと、力なく布団へと戻らされた。
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