テンプレ50 「勇者討伐準備 クロネとヤマト」

 クロネは王の間へと戻ると侍女に、ローブと動きやすい服を持つようにと命を下した。

 数分もすると、侍女はローブと黒を基調としたワンピースを持ってきたのだが、クロネは酷く悲しそうな表情を浮かべ、別の物を持ってくるように再び告げた。


「……テンペストが来る前のものを」


「ですが、魔王様、性能面でこれに勝るものはございませんが」


「……仲間の死で得る力など」


 侍女は首を振り、諌めるように声をかける。


「魔王様のお力に成れたのならば、この者たちも本望でしょう。クロネ様。我らの犠牲を無駄にしないためにも着てください」


 その言葉で、クロネは奥歯を噛み締めながらも、ローブとワンピースを受け取った。

 ローブとワンピースにはまるでクロネを守ろうとするかのように防御力が上がる魔法が施されていた。



 ヤマトはクロネから武器庫の物を持って行って良いと言われ、武器庫へと向かった。

 武器庫には鍵がかかっており、開けることが叶わなかったのだが、すぐに小走りにネズミの獣人が現れ錠を解いた。


「ネブラ様からの指示で、この中を案内させてもらいます」


 手には目録を持ち、どんな質問にも答えられるよう準備してある。

 毛並みもしっかりとはさみで整えられていることが伺え、ネズミの獣人の中ではかなり神経質な部類に入るだろう。


 ヤマトは武器庫へ足を踏み入れると、すぐに漆黒の鎧を見つけ、その妖艶とした雰囲気に思わず手を伸ばす。


「えっと、その鎧は、『呪いの鎧』ですね。強力な力を得られる代わりに1週間で死に至るようですね。着てみますか?」


「いや、そんなの誰も着ないわよッ!!」


 ヤマトは手を引っ込めると別の鎧を探した。

 視線を少し移すとすぐに別の鎧が見つかり、近くにまで寄ってみる。


「真紅の鎧なんて珍しいわね」


 毒々しいまでの朱に目を奪われ、着心地を確かめようと手に取る。


「えーっと、それは『デュラハンの鎧』ですね。ですがオカシイですね。確かそれは漆塗うるしぬりのような光沢のある黒だったと思ったんですが……、あっ、目録に追記がありました。どうやら、血の入ったタライに落としたそうですね。性能に変わりはないですし、着てみますか?」


「だから、着ないわよ! そんなのっ!!」


 ヤマトは投げ捨てるように、元の位置へと戻す。


「性能自体はかなり優秀ですし、『元』勇者なら、どうせ返り血ですぐ赤くなるのでは?」


「アタシ、そこまで無差別じゃないわよ! それに、中が血でべったりって着れるわけないでしょ!!」


「ふむ。なかなかワガママですね。では、こちらは?」


 ネズミの獣人が持ち出したのは、胸と胴を覆うだけの鎧と籠手こて脛当すねあてだった。


「これって……」


 ヤマトは苦笑いを浮かべながら聞く。


「そうです。これは、『アマゾネスの鎧』ですね。魔法の付与などはないですが、この武器庫の中で一番の硬度と軽さを誇る代物です」


「凄く素敵なデザインだと思うけど、これは無理ッ! 死ぬッ!! いや、殺される!!」


「確かに露出部は多いですが、ヤマトさんなら今の装備よりも戦えると思いますが?」


 ヤマトは首を横にブンブンッと振るい、鎧を突っ返す。


「攻撃してくるのが敵だけだと思っちゃダメよ! 本当に怖いのは味方からの攻撃なんだからねッ!!」


「なんか深いですね。まぁ、よく分かりませんが、これはヤメておきますか」


 ネズミの獣人は、最後に奥から無理矢理引き出してきた鎧を見せる。


「あとは、大した防御力もないこれくらいしかないですよ」


 再び持ってきたのも、一見普通の鎧だが、いささかサイズが大きく見える。


 ヤマトはジト目でその鎧を見ていると、ネズミが目録を見ながら説明を始める。


「これは特にいわくなどはないみたいですね。最近の開発です。なんでも持ち主のサイズに自動調整する鎧だそうですね。あとは通気性がいいだけで、失敗作の扱いですが……」


「是非これでッ!!」


 ヤマトはひったくるようにその鎧を掴んだ。

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