テンプレ49 「ギャンブル その2」

「で、勝負の方法は?」


「それじゃ、ちゃちゃっと決着がつくようにコインはどう?」


 ルーは1ゴールドを取り出すと、指で弾いた。

 宙を舞うコインは表の国王の横顔が彫られた面と裏の活力の象徴の太陽が描かれた面を交互に見せながら落ち、再びルーの手へと収まる。


「これがどちらの手に入っているのかを当てるってのは?」


「OK。それでいいわよ。ただし、アタシにイカサマは通用しないと思っておいた方がいいわよ」


 ヤマトは不敵な笑みを浮かべ、ルーを見据える。


「へ~。ずいぶん印象が違うね~。絶対ドジッ子だと思ってたのに、やっぱり『元』勇者なだけはあるのかな。大丈夫安心してよ。見つかるようなイカサマはしないから」


 ルーはニコリと微笑むとコインを弾いた。

 

 そのコインを見つめるヤマトの瞳はいつの間にか銀色へと変化しており、コインだけでなく、ルーの動向の全てを監視していた。


 そして、コインがルーの手の中に納まろうとしたその時、ガシッと力強くヤマトによってルーの腕が掴まれた。


「とんだウソつきね。そんなイカサマ丸見えよ」


 さらに力を込めると、ルーの手から投げたモノとは別のコインが地面へと落ちる。


「大方、アタシが宣言した方と反対の手にあるコインを見せて負けを認めさせる気だったんでしょ」


「あちゃ~。本当にバレちゃったよ~。ついでにイカサマがばれたペナルティは、バレたときに掴まれた箇所は暴力無効にならないことだよ」


「そう? なら遠慮なく」


 ヤマトは一言呟くと、ルーの腕を軽く捻った。


「えっ!?」


 ルーの視界は天地逆さまになり、次の瞬間にはドンッと音を立てて衝撃が体を襲う。

 自身が投げ飛ばされたと理解すると、まるで合わせたかのように痛みがやってきた。


「痛ててっ。まさか投げられるとは思わなかったよ。てっきり腕の骨くらい折られるかと思ったんだけど、流石『元』勇者のヤマトちゃん。優しいね!」


「そりゃあ、アタシは勇者だからね!」


 ボコボコの鎧でもわかりやすく、豊満な胸を張った。


「むむっ。ボクちゃんに対する煽りまでいれてくるとは流石と言わざるを得ないね」


 ルーは決して小さい訳ではないが、人並みの胸を庇うように両手で隠す。


「さて、それじゃ賭けを続けようか。今度は本当にイカサマしないよ」


 ピンッと弾かれたコインはゆっくりと頂点へと達し、落下を始める。

 その瞬間、目にも止まらぬ速さでルーの手が動き、コインに近づいては離れを繰り返す。そしていつの間にかコインはその両手のどちらかに収まったようだ。その証拠に地面に落下したコインはなかった。


 常人にならばコインの在処ありかを追うことは不可能だろうが、ヤマトは違った。

 銀色に輝く、そのまなこはキッチリと右手に包まれるコインの姿を確認していた。


 だが、しかし、ヤマトはそれと同時に右手に現れた魔方陣も確認しており、その魔方陣が自分たちをこの空間に送り込んだものと酷似していることまで見えていた。


(もしあの魔方陣が転移させる魔法ならコインは右手から左に移ってるでしょうね。でも、この遊び人のことだ。もしかしたらただのブラフの可能性もあるわね)


 完全に疑心暗鬼ぎしんあんきに包まれたヤマトは、どちらの手に入っているか決めかねていた。


(わからない。いったいどっちを選べばいいのか。何かイカサマをしているか確かめる方法はないの?)


 ヤマトはチラリと後方に構えるイスズを見ると、事の成り行きも見ず腕を組み、目を閉じている。


(きっと、イスズもアタシの勝利を確信しているから、ああしているのね。寝てるわけじゃないわよね!?)


 そのとき、ヤマトはイスズならどうやって勝つかを考えた。

 

(イスズならきっと、こんなゲームなんてぶっ壊して勝つわよね。ん? 壊して……。そうよね。相手がイカサマしてるかもしれないなら、相手の意図なんかぶっ壊すような多少ずるい手はありよね)


「ちょっと、ヤマトちゃん。さっきから黙ってどうしたの~。早くどっちの手にするか決めてよ」


「ええ、どっちにするか決めたわ」


 そう言いつつヤマトは手刀てがたなを作ると、ルーの右腕に向かって振り下ろした。

 『元』勇者の手刀しゅとうならば、勇者パーティとはいえ、遊び人程度の相手なら簡単に切り飛ばせるだろう。


 しかし、ヤマトが腕を切り飛ばすことはなく、寸前で謎の力によって防がれる。

 その様子を見た、ヤマトはニッと笑みを浮かべると、答えを言った。


「コインは右手に入っているわッ!」


「正解だよっ! なんで入っている方がわかったかは分かったけど、方法がクレイジーすぎるよッ!!」


 ルーは笑顔を凍らせ、汗が頬を伝う。


「そう? イスズならこうするかなって。ほら、イカサマしてれば攻撃できるみたいだし、攻撃できなきゃイカサマしてないってことの証明になるわよね」


「もしボクちゃんがイカサマしてたらどうすんのさッ!?」


「それはイカサマする方が悪いってことで」


 ヤマトはこれ以上ない笑顔で答えた。



 ヤマトの勝利で賭けが終わると、元の魔王城前へと戻ってきていた。


「あ~あ、まさかあんな方法で負けるなんて……」


 ルーはわざとらしく落ち込んだようにうな垂れるがすぐに顔を起こし、指で無理矢理に笑みを作る。


「まっ、勝負は時の運。今回はボクちゃんの華麗なブラフが予想外の方法で破られたってだけだからね。自分を卑下するより相手を褒めよう!」


 ヤマトに握手を求め、2人は固い握手を交わした。


「それじゃ、約束通り、敵の情報とか言うから、みんなに同行するよ~」


 ルーはさっぱりと言い、案内が必要なら先陣を努める勢いだったが、ここで待ったの声がかかった。


「あ~、ようやく終わったか。どっちが勝ったかしらんが、行く前にまずは装備を整えてからだッ!! 少なくともヤマトは兜をかぶれ! クロネは完全に着替えろッ!!」


 イスズの怒声により、ヤマトとクロネは急いで魔王城へと戻っていき、ルーはその様子を眺めながら思った。


(イスズくんに感化されて、ヤマトちゃんは強くなったみたいだね~。クロネちゃんの方も強くなってたらリミットくんは勝てるかな? ともかく面白そうな戦いが見られそうだね♪)

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