テンプレ13 「奴隷の値段 その2」

 不意打ちで完全に決まるはずだった一撃を避けられたイスズは怪訝な顔をする。 本当ならその一瞬で決まるはずだった。しかし、コメルはギリギリとはいえイスズの拳を避けたのだった。


「お前、もしかして転生者か?」


「そういうあなたも転生者ですよね。その格好を見れば一目瞭然だけど。僕、この世界じゃ奴隷商をやってるコメルって言うんだよろしく」


「お前とよろしくもするはずないだろ」


「あ~、もしかしてちょっと誤解があるかもね」


 コメルはニコニコとした笑みを浮かべながら手を叩いた。


「確かに確かに、一般的に見たら奴隷って悪いことだよね。僕らの世界から来てたらそうだよ。僕もおじさんの立場ならそうするかもしれないよ! でも誤解なんだ。ここにいるのは、元々は盗賊や山賊、暗殺者とか悪い奴らばかりなのさ。他には魔王の手下の魔物とか。そいつらを僕が倒すんだけど、殺すことなんてできないじゃん。それで奴隷にしてるってわけ。命も助かるし、悪事もできない。完璧な方法じゃない?」


「なるほどね。こいつらは悪党でお前は正義の味方。だから奴隷にしても許されると」


「そうそう。わかってもらえたみたいで何よりだよ」


 コメルは幼さの残る顔に満面の笑顔を作りながら握手を求めるように手を差し出す。


 普通の転生者ならばここで手をとり共に奴隷商として正義を行っていくという道に進むかもしれない。可愛い女の子と知り合い、敵を無双し、順風満帆な異世界生活を楽しめるかもしれない。

 しかし、イスズの目的は、はなっから別なのだ。異世界転生者への憧れを減らしたい彼が、順風満帆なこの少年と手を組む道理は1つたりともないッ!!


 そろりそろりとコメルの手を握ろうとするアリを見逃さず掴まえ、そのままコメルへと向かって投げた。

 

「ウソだろ!」


 アリは叫び声と共に杖へと戻り、形態変化で完全にコメルの虚を突いたはずだったのだが、ブゥンと空気を勢い良く切っただけだった。


 バシンと音を立てて壁へと衝突したアリは、そのまま床へ転がる。

 アリはこの瞬間、イスズは大雑把に見えるがどんな小さなことも見逃さないヤツで、これからは迂闊な行動は気をつけてしようと誓うのだった。


「あっぶないなぁ! 何するのさ。誤解は解けただろ!?」


 とっさに屈んでよけたコメルは驚きの表情を見せる。


「はぁ!? 誤解? そんなもん始めからねぇよ! テメーの基準で善悪決めてんじゃねぇ!!」


「なるほどね。あなたは僕にとって悪ってことか……」


 コメルの表情から笑顔は消え、ぐっと姿勢を落とす。

 イスズの拳をもかわした俊足が今、攻撃の意志を持って使われる。

 一瞬で懐に潜り込むと、鋭い一撃を放つ。


 ドンッ! っとイスズの腹部に攻撃は当たるが、それくらいでどうにかなるようではトラック乗りなど勤まらない、と言った風にドヤ顔を見せたあと、


「ちょこまかと動く相手にはあえて攻撃を喰らって掴まえるのが一番だな」


 コメルの足を踏み、逃げられないようにすると、拳を固め、重い一撃がコメルの頭上に落ちた。


「ぐっはぁ!」


 身体が、地面に当たり跳ね返るほどの衝撃。

 しかし、このとき、コメルには勝算があった。


「な、なんて威力だ。だが、僕の固有魔法――」


「言わせねぇよッ!!」


 イスズは間髪入れず、浮き上がったコメルの身体、ちょうど肺があるあたりを蹴り上げた。


「ガッぁぁっ!!」


 肺を潰され、喋ることすら適わなくなったコメルは、天井へと叩きつけられてから地面へと落ちる。


「テメー、どうせ今、漢字にカタカナのルビが振られるような技名やらスキル名やらを言おうとしてたんだろ。この異世界転生をぶっ壊す漢。銀河イスズがそんなカッコいいことさせる訳がないだろッ! ……ってもう聞こえちゃいねぇか」


 イスズはまだ逃げられていない奴隷たちに、「逃げていいぞ」と言おうとして止めた。

 コメルの言葉を思い出したからだ。


(こいつら、盗賊とか魔王の手下とか言っていたな……。もしかして使えるんじゃないか)


 ニヤリと、とても奴隷を助けるような男の顔とは思えない凶悪な笑みを浮かべた。

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