偽物の生存証明
僕と妹は偽物だ。本物の「僕」と「妹」は蝉の音かやけにうるさい夏の終わりに交通事故で死んだ。それ以来、彼らの代わりにドッペルゲンガーである私達は彼らの代わりを務めることになった。偽物達の夢である「本物になること」は叶ったけれど、それでも偽物は所詮偽物でしかない。本物を演じているというだけで本物ではない。本物なのに本物じゃない。そんな曖昧な存在であるドッペルゲンガーが本当の意味で本物になるにはどうすればいいのだろう。そんなことを私は妹のドッペルゲンガーに聞くけれど当然のように回答は「分からない」というだけ。妹ですら、本物を演じる自分の行動1つ1つに疑心暗鬼に生きている。僕達は毎日が怖くて、毎日を疑いながら生きている。
偽物である僕達の周りを本物達が闊歩している。僕達が偽物だということを誰も知らずに、自分が本物であることに疑わずに生きている。「本物になりたいよ。」と妹が言う。僕もそうさ。 だから僕達は夏の最後に車にはねられて死んだ。これが答えではないと当然知っている。それでもこれが限りなく正解に近い不正解だと確信を持って僕達は死んだ。その日は蝉の音がやけにうるさかったと思う。
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