止まない雨が世界を沈める。

 三年前のやけに雨が多かった夏から雨は止む事を知らない。僕達の知る世界は雨によってみるみるうちに形を変えてしまった。高層ビルの立ち並ぶ東京も今となっては巨大な水たまりからビルが突き出している奇妙な景色だ。やがて、まるでこの世界は元からこんな姿をしていたかのようにこの景色が当たり前になったけれど、それでもまだ水位は上がり続ける。気がつけば僕達の家を増設するのはこれで三回目になっていた。僕は妹と屋根の上に木材を取り付けながら足下数センチ下に届く水面を見て、四回目の増築もそう遠い先の話ではなさそうだと思った。「こういう絵本あったよね。」と妹が言う。たしかそれはおじいさんが丁度今の僕らみたいに家が沈まないように家の上に家を増築していく話だ。確か我が家にもその絵本があったと思うけれど、おそらくそれは一階で置き去りになっている。「最後はおじいさんがこれまで増築した家の中を潜って思い出を振り返るんだよね。私、おばあさんになってこの家が塔みたいになった時にそうやって思い出を振り返れるなら、この雨も嫌じゃないなって思うな。」と妹が言う。それも悪くないなと思う。そんなふうにに思い出を振り返れるのなら、この雨に家が沈んでいくのも悪くない。でも、その時にはこの雨が晴れていたらいいななんて思う。

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