第四章 妻問(つまどい)編
間話 ~サクラの日記~
◯月△日
私はサクラ。今日からこのノートに、日記を書くことにしました。ノートとペンは、シオンが買ってくれました。
◯月■日
私は今、夫のシオンと一緒に旅をしています。何故旅をしているかっていうと……なんでだっけ。何かから逃げてるって言われた気がする。私は記憶喪失というやつで、自分の名前もこれまでの人生も、全部忘れちゃったんだ。
何か情報を得れば思い出すかもしれないと思って本を開いてみたら……なんと! 私は、字が読めませんでした。シオンに聞いたら、前は読めてたんだって。試しに適当に思い浮かんだ字を書いてみたら、それはシオンにも読めない言葉でした。
私は以前、ここじゃないとても遠い国からやって来たんだそうです。ここの地域(ブリアーって言うんだって)の字の読み書きは記憶と一緒に忘れてしまったのだけど、何故か元いた国の字の読み書きは忘れずに体が覚えていたみたい。不思議だね。
だからこの日記も、元の国の言葉で書いているよ。私にしか読めないね。
◯月◇日
シオンは私の夫。とても優しい人です。いつも私の体調を気遣ってくれます。
それにとっても強いです。旅の途中、魔物に襲われたことがあったけど、シオンはあっという間に倒してしまいました。すごいね。
シオンはとても綺麗な金の髪をしています。まるで風に揺れる稲穂の波みたいで、私はシオンの髪が好き! なのに今日、シオンは肩まであった髪を短く切ってしまいました。理由は、面倒だからだって。私が思わず泣いてしまったら、シオンは抱き締めてくれました。……シオンは本当に、優しい人。
「また伸びる」って言っていたので、今度は切らなくてもいいように何か髪を
私達は夫婦だけど、どういう馴れ初めで、いつ夫婦になったのかはやっぱり思い出せない。
……あれ? そもそも夫婦って、どうやってなるんだろう。いつも一緒にいて、一緒にごはんを食べて、一緒の夢を見たら、夫婦かな??
なら私は今日、シオンの夢を見るよ。だからシオンも、同じ夢を見てね。
○月◎日
結局昨日、シオンは夢に出て来なかった。代わりにとても怖い夢を見た。深い深い、どこかに、暗くて、苦しくて、それで、
……書いてて気付いた。私は毎晩、同じ夢を見てる。いつも夢の中で、同じ人の名前を呼んでる。でも、それが誰かはわからない。
でもいいの。シオンが私を、救ってくれるから。
□月×日
今日はすごく暑い。私は太陽が嫌いです。だって、暑いし、眩しいし、それに何だか、胸がぎゅってなるから。
そう言えば、私の耳に片方だけ、とても大きな宝石のピアスが付いていることに今更気付いたの。シオンに聞いたら、とても嫌そうな顔で「捨てろ」と言われてしまいました。その通りにしようと思ったんだけど、身体の一部が盗られてしまうみたいで、何故かどうしてもできなかったの。だからこっそりしまっておくことにしました。
そうよ、もしいつかお金に困ることがあったら、その時売ればいいんだから。この宝石はね、多分とっても高価なものだと思う。だって、本当にきれいなんだもの。きらきらして、眩しくて、太陽みたい。
……ん? 私、太陽は嫌いなはずなんだけどな。
▼月△日
前の町を出てから約一週間。私とシオンは静かな海辺の町にやって来ました。小さな漁港がある、美しい町です。
何でだろう、海を見ているとなんだか懐かしい気持ちになるの。シオンが言うには、私は元々海に囲まれた国に住んでいたんだって。シオンも前の私から聞いただけで、その国に行ったことはないらしいんだけど。
私達はこの町から少し離れた高台に、家を借りて住むことにしました! 窓からは海が見えて、後ろには森が広がっています。とても素敵なおうちです。
これまでシオンと色んな場所を訪れたけど、私はこの町が気に入りました。失くしてしまった記憶の分だけ、新しい思い出をここで作れたらいいな。
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