第36話 エルフの女王を決めるための代理戦争に参加することになった俺は……その2

「盛り上がってるところ申し訳ないですが。

 さっそく対戦相手の方が現れたみたいです。

 太陽の紋章が青白く光っていますので」


「よくぞ、我の接近に気付いた。

 惰弱なハーフエルフの小娘よ。

 死ね!? ファイアーボール」


 そう叫び声を上げたのは、黒いローブにとんがり帽子を被った見目麗しい女性だった。


 女は右手を天高く掲げると、炎の飛礫つぶてを無数に生み出し、ルナちゃんの顔面めがけて容赦なく攻撃する。


「危ない、ルナさん……あれ、ぜんぜん熱くないし、服も燃えてないわ。

 でも保健室が燃えているわ」


「これくらいなら、わらわの魔法で修復することができるので、今は敵に集中してください」


「ぎゃああああ」


 カラダ中に激痛が走り、俺はたまらず叫び声をあげてしまう。


「これは代理戦争なので、エルフ同士の殺し合いは禁止されています。

 故に王が受けたダメージは、すべて奴隷が肩代わりすることになります。

 でも、わらわたちに限って言えば、奴隷が受けたダメージは、すべて王が肩代わりすることになるみたいですね」


「そういうことは、もっと早く言え!?」


「何せ、前例がないものですから。

 3000年以上の歴史を誇る代理戦争ですが、過去一度たりとも人間がエルフの女王になったことはありません」


「惰弱な人間を王に据えるとは、やはりあなた達はとても異質な存在ですね。

 これは、エルフの女王を決めるための戦いなんですよ。

 そこの人間を殺した後。

 すぐにアナタも殺して差し上げますわ。

 すべては完全なる秩序の為に。

 ウォーターカッター」


「何が完全なる秩序の為だ。

 ふざけるな。

 ルナちゃんは、絶対に殺させないぞ」


 超一流の脱衣師になるために幼い頃から鍛錬を積んできた俺は、動体視力と反射神経が人一倍高く。


 さらに、内功により脚力を強化し、迫りくる無数の水刃をすべてかわし。


 女の顔面にドロップキックを決めるが……ちっ!? やっぱり無傷かよ。


「なかなかやるわね、人間。

 今の攻撃で、手持ちのコマが数体やられてしまったわ。

 遊びはここまでよ。

 我が呼びかけに答え!? その姿を現せ。ガーゴイル」


 魔方陣も触媒もなしに、その悪魔の名を呼ぶだけで、悪魔を喚起することができるというのか。


 空間が裂け、悪魔が姿を現す。


 長い牙と鋭い鋭利な爪。


 全身は黒いがどこか血に染まって赤くなっている部分もあり、この世のものではない異形の姿をしいるな。


 あとコウモリの羽根のようなモノが生えているのが特徴的だな。


「下等な人間どもを……バカな。ガーゴイルを蹴り飛ばしただと。

 あれは、わたしぃが使役できる悪魔の中でもさーーーーーー」


「対戦相手がしゃべっている時に攻撃するとか。

 マジ、姫川さんは容赦ないな」


「対戦相手を素っ裸にするような変態にとやかく言われたくないわよ」


 姫川さんがガーゴイルを蹴り飛ばした瞬間。


 あまりにも隙だらけだったので、服を剥ぎ取ってしまった。


 カラダに染みついた習慣とは、恐ろしいモノだな。


 チャンスがあると感じれば、無意識のうちに脱衣術を使用しているのだから。


「ま、負けを認めるから、お願い……服を返してください。

 それは……亡き母の形見なんです……お願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いします。

 服を返してください」


 泣きつかれてしまったので、居た堪れない気持ちになり、俺は服を返すと、女は服をとても大事そうに抱えて、まるで脱兎のごとく素早く保健室から出てしまう。


『勝利条件を満たしたため、この勝負!?

 露璃村大助の勝ちとする』


 幼い女の子の声が聞こえてきた。


「ああ、言い忘れていたけど、代理戦争に参加しているエルフのほとんどは、天使や悪魔など人間よりも上位の存在を『奴隷』にしてることが多いから気をつけて。

 それから勝利条件は全部で3つ。

 1つ目は、相手に負けを認めてもらうこと。

 2つ目は、契約している奴隷をすべて殺すこと。

 3つ目は、太陽の紋章にキスをして契約を上書きすることよ」


「だから、そういうことは、もっと早く言えよぉ!」


「うぇぇええええ。お兄ちゃんが怒った!?」


「ごめんなさい、ルナさん。

 露璃村くんも悪気があったわけじゃないから許してあげて」


「ええ。いいわよ。アプロディーテ」


「ありがとう、ルナさん」

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