第29話 プールに双子のハーフエルフの幽霊が出るらしい

  プールに双子のハーフエルフの幽霊が出るらしい。


 しかもアスリートを彷彿とさせる爽やかなナイスバディーで、エルフとは思えないほど巨乳らしい。


 そんな話を姫川さんたちから聞いた俺は、その真偽を確かめるために、地面を蹴って校門を飛び越え、夜の学校に忍び込んだ。


 時刻は夜の12時。


 夜の学校は静かに眠りについている。


 闇に包まれた校舎は、昼間とは違う顔を見せていた。


 人影は見あたらないな。


 俺は辺りを見回し、確認すると、ペンライトで周囲を照らしながら、プールを目指す。


 春夏秋冬学園が誇る運動用施設のなかでも、このプールはとりわけ力を入れっている。


 設備も充実しているし、レーン数も多い。


 この学園は、水泳が体育の授業に組み込まれているから、プールは毎日頻繁に使われている。


 ゆえに力が入っている当り前のことで。


「……っ……」


 そして俺の視界に飛び込んできたのは、紺色のスクール水着を着た鮮やかなエメラルドグリーンの髪とスカイブルー瞳に、先端が尖った長い耳が特徴的な美少女たちが並んでプールサイドに腰をおろして、足だけ水につかっている。


 見れば見るほど圧倒的な美少女だった。


「あねさま、なんかわらわ達のことが噂になっているみたいです」


 鈴を転がしたような、透明感のある可愛らしい声だった。


「そうみたいね、ルナ。

 やっぱり存在を維持するために、生徒を襲ったのがいけなかったのかしら」


「そんなことありません。

 あねさまは何も間違ったことはしていません。

 愚鈍で醜い生物から生気を奪わなければ……わらわ達は……この世界から……その存在を『抹消』されていたかもしれません」


「その話は本当なのか」


「きゃあっ、人間の男っ」


「ええ、ホントですわ。 

 ワタクシたちのカラダをよく見てくださいませ」


 彼女たちの全てが、幽霊みたいなスケルトン仕様で、もうそれだけで現実に、目にした者に対する説得力十分という感じだ。


 見る者を虜にする魔法じみたオーラを感じた。


「生命力を、生きる力を吸えば生きながらえることができるなら、俺のを吸えばいい」


「本気で言ってるんですか。

 見ず知らずの化け物のために、自らの命を捧げられるというのですか」


「ああ。

 困っている女の子を助けるのに、理由なんていらないよ。

 だから遠慮なく吸ってくれて構わないぜ」


「自ら供物になるとは、なかなか殊勝な心がけですわね」


 ルナと呼ばれていたエルフの少女が、俺の首筋に噛みついてきた。


「あ、ありえませんわ。

 ヒトの身でありながら、これほどの活力を秘めているなんて。

 でもこれは、わらわ達にとっては喜ばしいことですわ」


「もういいのか」


「ええ。

 おかげさまで、すこぶる気分がいいですわ。

 おにいちゃんは、わらわ達の命の恩人だよ」


「危ないところを助けていただきありがとうございます。


「そうか、それはよかった。

 でも、生命力を吸っていないのに、お姉さんの方も一緒に元気になっているんだ?」


「それは、ワタクシたちは、2人で一つの命を共有しているのです。

 どちらか片方が命を落とせば、もう片方も命を落とすということです。」

 あっ!? 自己紹介がまだだったわね。

 ワタクシはセレーネ。

 どこにでもいるただの『ハーフエルフ』です。

 妹のルナともども、よろしくお願いします、旦那さま」


「えっ!?」


「困っている女の子がいたら、無条件で助けるんですね。

 妾たちは住むところがなくて困っているんです。

 助けてください」


「わかった。

 姫川さんに相談してみるよ。

 ちょっと待ってて」


 ポケットからスマホを取り出した姫川さんに連絡すると、あっさりとOKをもらうことができた。


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